リサイクル図書市場
少年は読書に対する抗うことの出来ない衝動に駆られて自転車で約五分の図書館に向かった。図書館の入口は開館時間の九時になるのを心待ちにしている老人たちで溢れていた。
開館と同時に少年を巻き込みながら老人たちが中へと雪崩れ込む。館内では、お一人様十冊限りです、と女性司書が月に一度行われるリサイクルの決まり事を再三に渡り声を大にして訴えていた。
慣れた手付きで本を選別していく老人たちの中にただ一人、二十歳に満たない少年がもみくちゃにされながらも負けじと本を次々と手にとっていく。
少年の手の中の本が規定の十冊に及び、老人たちから離れたとき、一人の初老の男性が老人たちの代表然として声をかけてきた。
「そんなにたくさん読めるの」
溢れる老人たちの中で、最初少年は自分が声をかけられたことに気づかなかったが、たくさんいるように見えて、実はここにいる老人たち全員でもって一人の老人であるという奇妙な錯覚が少年に話しかけられた事実を気づかせた。
「読めます」
少年はどうして話しかけてきたのかと疑問に思ったが、初老の男性からすればみな同じに見える他の老人たちよりも異質と言って差し支えないただ一人の若者の方が興味を持てたのだろう。少年の思考がそこまで及んだとき初老の男性は試すように、本を保存するためのマンションを持っていて、蔵書数は五千冊以上であることを告げた。
少年は気圧されるよりも、五千冊という途方もない数の本を読むことが出来るのだということを知り、挑戦的な笑みを返事とした。
「読書はいいよ、本はたからものだよ」
初老の男性は仲間意識が芽生えたのか、若さに苦笑したのか、面白そうに満足げな笑みをたたえながらそう言い残して去っていった。