反省と対応
それでも一応衣服をくまなくまさぐってはみた。
ベストの他のポケット、ベルトの後ろ側にでも挟まってはいないか、もしやズボンの中に落っこちては、等々随所に一縷の望みを託して探したのだが、やはりというべきか見つかるはずもない。
もはや意味のないことと知ってはいながら身体中をパタパタとはたく彼の横を、その仕草を見て察したらしい顔をした通行人が何人も通り過ぎて行く。
誰も救いの手を伸べようとはしないが、それを薄情というのは、こと、この国においては見当違いと言わざるをえない。
ここは商人の国なのだ。
しかも、生き馬の目を抜くに止まらず、それを持ってより高値で売れる街を求めて歩き回るような筋金入りの商売人の国なのだ。
この国において、あらゆる損得は自己責任なのである。
もちろん掏りは犯罪行為だが、それとて捕まれば罪科を免れないが、掏られた本人の名誉が回復されるようなことはない。
後はどう転ぼうがお決まりの文句を耐え忍ぶしかない。
掏られるなんて、どんくさい奴だ、と。
カイもそのあたりの考え方は、これでもイーヴ人なので心得てはいる。
なので一通りの無駄な試みを諦めた後に彼の心を占めたのは、掏り師への呪詛などではなく、まずは自分自身にありとあらゆる罵詈雑言を浴びせることだった。
何者がいるかわからないというのに、なんたる間抜け。
このくらいの結論で、彼は自分への罰を切り上げることにした。
ただ突っ立って悶々としていても、あの財布は戻ってはこないのだ。
ならば次の手を、なるべく現状に即して有効なものを、早く打たねばならない。
そう考えたとき、まず閃いたのはミトー老人に紹介された宿を訪ねることだった。
万事解決するということはないだろうが、何かしら手は貸してもらえるかもしれない。
少なくともこのまま一人で悩んでいるよりは幾分かマシだろう。
この思いつきはカイを少し元気づけた。
知り合いもない街で訪ねるあてがあるというのは、まったくありがたいことであると思われた。
なにせ、当面の最低限の金を稼ごうにも腰を落ち着けられる定宿がないことには難しい。
春のこととはいえ、内陸の北寄りに位置するイーヴは、夜ともなると容赦なく冷え込むことが多いのである。
野宿などして、稼ぐより先に身体を壊してしまっては、まさに元も子もないというものだ。
南門の近くということならば、この街に不案内な自分でも簡単にたどり着けることだろう。
今カイがいるのは西門から延びる大通りなのだが、この大通りは他にも三つあり、それぞれ単純に北、南、東から延びているものだ。
つまりこの通りを中央広場に向かって進み、広場に着いたら南へと進路を変えればよい。
そのまま城門を目指せば、その辺りに宿があるのだろう。
なんにせよ、とにかく行ってみることだ。
今までしょぼくれていた顔を引き締めたカイは、気持ちを鼓舞するように大股で、再び人々の合間をすり抜けながら歩き出したのだった。