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大金の使途とは

 テーブルの上にはバスケット一杯のパンに、鳥の丸焼きが置かれている。

 鳥は香草と共に焼いたものに塩を荒っぽく振り掛けただけなのだが、これほど腹が減っていると、むしろこれくらい肉そのものを感じさせる方が食欲を刺激するというものだ。

 簡単なメニューではあったが、空腹を言わずに訴えたカイに、ロンドバルドがシェッドに頼んで用意してくれた、待望の遅い昼食だった。

 シェッドもさり気ない風でハーブのエキスと蜂蜜を溶かした水を出してくれたのがありがたかった。


 それらをひたすら貪るカイの反対側には、呆れているのか、はたまた興味深く見守っているのか、どちらともつかない表情をしたニールが頬杖をつきながら座っている。

 ロンドバルド自身はトーニを連れて、つい先ほど出て行ってしまった。

 もう数軒顔を出しておく先があるということで、後から宿で落ち合おうということである。

 宿、と言われて少しばかりドキリとしたのだったが、カイの分も手配してくれるということで、それにはほっと胸を撫で下ろしたのだった。



 一通り出されたパンと肉を平らげて、最後にむしり取った鳥の足を皿の上に満足気に置いたカイに、ニールが初めて話しかけた。


「足りた?」


 顔立ちこそ随分違えど、その表情には父親と同じような悪戯っぽさが浮かんでおり、やはり親子なのだな、と思うのだった。

 それと同時に、自分がそれほど意地汚く食べてでもいたかと恥ずかしさが込み上げてくる。

 こちらを見つめる瞳も父親と同じだ。

 頬が熱くなるのを感じる。

 だが聞かれたからには答えなければ、雇い主の息子の手前でなくとも失礼というものだろう。


「うん」


 答えると同時に口の周りを拭くことを思い出して、手元のナプキンでごしごしと口許をこする。

 その仕草が面白かったのか、正面の少年から笑みがこぼれた。

 その微笑みを見ると、カイはますます自分の所作がおかしかったかと恥ずかしくなる。

 しかし、嫌味らしさは感じさせない笑い方でもあるので、自分を卑下する気持ちにはならないで済むのだった。


「君の名前はさっき聞こえた。僕はニール・チェモーニ。これからよろしく」


 細面に切れ長の目をしているので勝手に難しい性格かと思っていたのだが、その口調は親しげだったので、小さく、だが心地の良い衝撃を受ける。


「こっちこそ、どうぞよろしくお願いします」


 雇い主の息子ということは、つまりはお坊ちゃまということであろう。

 そう考えて背筋を伸ばし、精一杯丁寧な言葉遣いを選んだつもりだったのだが、それもおかしかったらしい。

 ニールは今度こそ、ふふっ、と声に出してまた微笑んだ。


「そんなに畏まることはないよ。同い年くらいだろうから」


 身体こそ同年代でも小さい方なのだろうが、余裕のある笑顔には歳不相応の落ち着きが感じられる。

 ただ、その言葉はやはり親しげで、こちらを見下した様子は一切ない。

 カイは目の前の少年に素直な微笑みで応えた。


 これならば彼とは仲良くやっていけるのだろうか。

 そう思うと、それまでは食べることに夢中で忘れていたのだが、今まで疑問に感じていたことが次々に浮かび、それらを聞いてみたくなる。


「六千万セステルって、そんな大金で何をするの」


 言葉が口から出た瞬間、少し後悔する気持ちもあった。

 自分は剣士ということだけで今日雇われたばかりだ。

 そんな雇う側からすればまだどこの馬の骨ともわからない、しかも年齢も若すぎる者に、色々のことをそう簡単に教えてくれるものだろうか。


 しかしニールはそんなカイの心配をよそに、同じ笑顔のままで答えてくれる。

 しかしその内容ならば、違う意味でカイには衝撃的であった。


「それはね、街を造るのさ」


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