勉強をゲームに例えると?
平凡な高校生の僕が出会った、ゲーマーの話。
僕はゲームセンターで遊んでいた。
『Loss!』
筐体が僕は負けだと告げる。
「っち、つまんね……」
僕がぽつりと独り言を呟くと、
「確かに人生はつまらねー」
と、隣から声が聞こえた。――び、びっくりした。
隣を見ると、髪の毛を虹色に染め、ピアスなどのアクセサリーを大量につけた高校生くらいの少年がいた。――ふ、不良だ。
僕は冷や汗をかき、少し後ずさる。
「おびえんなよ。おもしろいことがやってきたかもしれねーんだぜ?いつもと同じ事をしていたら快楽が逃げてくぜ」
「な、なんだ、お、お前は?」
「ん、俺か?俺はゲーマーだ」
たしかにゲームセンターにいるのだからゲーマーかもしれない。
「な、なにか用か?」
「ああ、お前が退屈そうにしているから。人生の快楽を教えたくなった」
「は、はぁ?」
「お前はつまらない、と呟いた。そうだ、人生は基本つまらねー」
「い、いや、僕は、ゲームがつまらないと……」
「いや、お前は人生そのものに退屈している顔だ」
そういわれると、確かに僕は人生に退屈していたかもしれない。
「そう、お前は人生に退屈している。……お前は人生を楽しむための努力をしているか?」
「し、しているからゲームセンターにいるんだよっ」
「そうか。だが、ゲームは操作方法を教えてくれるから楽だ。何をやればいいか、というきちんとしたとしたルールがあるから楽だ。結果がすぐにわかるから楽だ。――楽なことばっかじゃねーか。操作方法もわからない、ルールもない、結果も見えなねーことしたくねーか?そう、操作方法を自分で考え、ルール自分で作って、結果を自分で計りたくねーか?」
「げ、ゲームしてちゃ悪いか!」
「いや、別になーんも、悪いことはねー。だが、もっと楽しいことを探さねーか?」
「よ、余計なお世話だよっ」
「例えば勉強は楽しいか?」
「は?おもしろいわけないだろ?」
「そうか?楽しむ努力をしていねーんじゃねーか。ちゃんと操作方法は覚えたか?ちゃんとルールを決めたか?結果を考えたか?ゲームがそれで楽しくなるんだぜ。勉強だってそうすれば楽しいんじゃねーの?」
「な、何を言っているんだい?ゲームはゲーム、勉強は勉強だろ」
「ゲームだと思えばいいじゃねーか。まずは操作方法をちゃんと知らねーとな――基礎知識と勉強の仕方を覚えるんだぜ。ま、この時点じゃ楽しくはねぇ。次はそうだな、ステージを作ろうか――ここからここまでできればクリアだつーのを作って目標にでもしとけ。あと、結果は重要だな――採点はちゃんとしようぜ、それがスコアだ。スコアを上げるのはやりがいがあるだろ?」
「……勉強がそれでおもしろくなるわけないだろ」
「パズルゲームはするか?」
「たまにはするけど……」
「クイズは解くか?」
「ひらめき系のクイズはテレビで見ることはあるけど」
「それは、勉強より楽しいだろ?」
「まあ、少しは」
「勉強も同じようなものじゃねーの?問題があり自分の力で解くつーな」
「勉強は難しいじゃないか」
「ステージをクリアしていないのに飛ばして次に行ってねーか?チートすんじゃねーよ。しっかりと理解してちゃんとクリアしてから次に進めよ。ステージを飛ばせば飛ばすほど、腕が追いつかなくなるぜ?」
「そんなに熱心になれないよ……」
「ゲームを百時間とかやりこんだことはあるか?」
「一回あるけど」
「百時間やれるじゃねーか。お前モチベーションすげーじゃねーか。勉強だってやり込めばやり込むほど上達しておもしろくなるぜ?ゲームだって百時間の間に難しいところもあっただろ?つまらないところもあっただろ?」
「あるに決まってるだろ」
「それを乗り越えたんだろ?勉強でもそれぐらいがんばればいいじゃねーの?」
「勉強はそもそもつまらないことしかないだろ」
「決めつけてねーか?つまらねーゲームもあるだろ?自分の好みってあるだろ?好みにあったおもしろい勉強だってあるんじゃねーの?なあ、暇なときにとりあえずゲームすることがあるだろ?」
「あるよそりゃ」
「そのときに別にゲーム自体があんま楽しくねーことねーか?」
「たまには……」
「やることねーから、とりあえずやることを明確にくれるゲームをやってんだろ?とりあえず指を動かしているだけだろ?だったら別に勉強でもいいじゃねーか。暇つぶし程度に簡単な勉強をすればーいーじゃねーか」
「ゲームは遊びで、勉強は勉強だろ?」
「誰がそれを決めたんだよ?とりあえずお前はそう思っているんだな。決めつけんなよ。勉強も遊びだと思ってみたらどうだ?ゲームだってめんどくせー仕事みたいなとこもあんだろうが。ゲームが仕事として存在したら、お前はゲームをすんのを嫌がるかもな。勉強が義務じゃなくて遊びとして存在してたら、お前は喜んで勉強したかもな」
「え?意味がわからないけど?」
「え、わかんね―の?はあ、つまらんやつだな。もっと人生を楽しもうとしろよ。ゲームみたいに『遊び』って決めつけられているもんだけが、楽しんじゃねーよ。楽しくないと感じんモノは楽しむ努力をしろよ。つまんねーと思うと人生つまんねーかもしんねーが、楽しいと思えばけっこう楽しいもんだぜ」
と一方的に彼は告げ、
「まあ、こんぐらいで良いだろ、じゃあな、俺はお前に偉そうに講義できて楽しかったぜ」
と去っていった。
「な、なんだったんだ?」
この後、別に僕は勉強が楽しくなったりとかはなかった。だけど、彼のような思考ができれば人生は楽しいのかもしれない、とは思った。