僕の手紙を県知事に
限界だと思う。
何が、と問われれば虐めに耐えることにもう僕の体と精神が持たない。だから限界だ。
一個の動物人間に僕は虐め殺されてしまう。抵抗するということは僕の信条から出来はしない。 故に僕のこのどろどろとした感情は行き場がなく、ただ溜まるばかりだった。 刹那、僕の信条は瓦解し相手の殺害の方法を考える。刹那、僕の信条が回復し殺意を抑える。この繰り返しである。
相手は吾が家族のことを揶揄し吾を愚弄し吾を痛めつけ吾を虐げた。酌量する余地はない。殺すべきだ、殺されて然るべき人間なのだ、殺して脳味噌の色を見てやろう--きっ-と醜-い色---をしている---に違い--ない -----------------。
僕は危険なことを抱き始めた自分の頭を冷却するために練りワサビを一口食べてみた。爽やかな香りが鼻を突き抜け、僕の脳味噌まで伝わる。 冷却完了。冷静な脳味噌で復讐の方法を考えようではないか。
まず匿名で学校に文書を送りつけるという考えが浮かんだ。 動物人間のことを糾弾した文章を紙にしたためて動物人間を退学にしてしまうのである。さすれば僕は自由になれる。 僕は早速紙を用意しようとした。念のため指紋を付けないようにゴム手袋を手に嵌めて紙を包装袋から取り出した。
筆跡で僕を特定されないためにパソコンのワープロソフトで書くことにした。プリンタに先ほど取り出した紙を補充し、ディスプレイと対峙した。
キータッチは軽やかにして高速の速さでキーは打鍵されていた。
今まで動物人間が行ってきた悪逆非道を文章化するのは簡単であった。溜まった物を吐き出すのは気持ちの良いことだった。
文書は400字詰め原稿用紙29枚にも及んだ。これを後は指紋を付けないように封筒に入れ、校長の自宅住所を書き切手を張って投函すれば良いのである。
しかし僕はあることを思い出した。虐めに対しての校長の考え方である。
この校長は昔ながらの日本人であり、虐められるのは本人に因する所があるのである、と集会の時に堂々と宣していた。この時、一年生の生徒が虐めを苦に自殺した事件があった。そのための集会でもあったのだが、あの軍国主義校長は自殺した生徒に対して何の言葉もなかった。
僕があの校長に文書を書いても無駄であるのが発覚。僕は悩んだ。校長よりも上の立場の人間にこの文書を送ればよいのである。
思いつくのは一人である。
県知事だった。僕は急いで県庁の住所を調べた。そして封筒に住所を書き切手を貼り付けポストに投函した。
3日後、**県庁に怪文書が届けられたというニュースが報道された。紛れもなく僕が送りつけたものである。
僕は絶望した。手も足もでない。僕は何も出来ない。
僕は死のうと思い、チューブ入りワサビを全て口の中でひねり出して食べた。脳味噌が混乱した。 僕は朦朧とする意識の中で思う。
全ては繰り返しだ、と。
ええ、フィクションですよ?