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ある男の栄達

作者: 高島啓市監修小林摩也

「走れ神馬しんめよ、走れ」そう叫びながら手前に実妹を乗せて駆け抜けたは河内源氏の庶子だった。京より早馬で離れたは平家の源氏狩りを恐れたためだった。以仁王の令旨発布以来、各地の源氏旗色を鮮明にする者しない者とに別れた。この源氏庶子は丹波の国目指し一気に入国することに成功、村集落へと落ち延びたのだった。

水引きの里という地にてひとまずは屋敷を与えられ身を寄せる兄妹。いつも行動をともにし、顔付き合わせるうちにこの者妹に対し恋々とした感情が湧き上がるのを止める手立てはなかった。正に麗人だったのである。京は木曾勢が掌握したと聞く。果たしてこの者に老獪な後白河院を操れようか、逆に操られるのがせいぜいであろうと思われた。京のこと、内通する従者に京へ残した姪を呼び寄せるよう画策した。何しろ山村の屋敷にて美しき実妹と毎日顔を会わせること幾月と過ぎぬ。男は元服を済ませた武将にて京へとどまるならば一命を賭して戦い散りゆくも妹がここは逃げ延びてくださいと言われるままに京より離れたのである。

男は妹とは屋敷を変えてもらい、姪の到着するのを待ちわびた。この者年は男の二つ下であり、叔父のことを常日頃気にかけ以仁王の決起において京より逃走したことここ水引きの里へ至り男にけちをつけるに及んだのである。勿論そうしたかった、しかし捲土重来をきし刀を鞘に納めたことの辛さはそちにはわかるまい、そう話すよりない男だった。しかしこの姪は引き下がらなかった。わたくしがあなた様の子を生みます。そして必ず平家打倒を実現してくださいとあくまでこの男にこだわって見せるのだった。姪とは結ばれるつもりのない水引きの里の源氏、一方で村人との折衝においてその家政を一手に引き受けていた妹言下に子作りに励むよう男に諭した。男しぶしぶとその言葉に従い姪と結ばれたのである。姪の妊娠出産の間、京に異変が起きていた。木曾勢駆逐され新たに義経軍入京いたしたのである。水引きの里の源氏一切慌てずにいた。世の中は源平の争乱中。自らは都を捨てた身分である。三位頼政公の最期をこの男到底真似などできぬ、器の差ゆえ仕方なかった。この男に嫡男が誕生する頃平家は滅亡しその最大の功労者検非違使佐衛門少尉、平泉にて最期を遂げた。同じ武家として圧倒的な政治力を見せつけた頼朝正に天晴れなる人生かな。しかし義家流清和源氏の正統絶ゆ。一方で丹波水引きの里の源氏江戸時代を豪農として生き延び維新二代目の国王に後妻を出しその嫡女は宇多源氏末流の六男に嫁ぐ。政治力と生命力の差、歴史の表裏を極めた二つの家系と言えよう。

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