陸. 鎌倉の亀裂
京の都での混乱は、瞬く間に鎌倉へ報告された。
京の代官たちがお互いを「平家通じ」として粛清し始めたという報告を聞き、源頼朝は激怒した。彼は京を収める実務能力の欠如と、朝廷の権威の動揺に強い危機感を抱く。
頼朝は、この混乱を収拾するため、側近である北条時政を京へ派遣することを決めるが、この決定こそが、六代が望む「源氏の内部崩壊」の加速剤となった。
六代は、源氏政権の構造を深く分析していました。頼朝の死後、実権を握る者、それは頼朝の妻である北条政子とその父、北条時政の一族に他ならない。
「我らが、頼朝を直接討つ必要はない。時政とその血族を動かし、源氏を内側から食い破らせれば良い。源氏は、自らの一門の手に落ちることで、武家の世の『正統性』を失う」
六代は、草薙の剣の幻惑の波動を、今度は鎌倉へ向けて放ちました。狙いは、頼朝の心と、北条時政の野心です。
頼朝はもともと疑心暗鬼が強い性格だったが、幻惑の波動は、その不信感を極限まで高めた。
京での混乱を時政に任せた後、頼朝は夜な夜な見る夢の中で、時政が公家と密約を交わし、自らの背後にいるような幻影に苦しみはじめた。時政の動きが、すべて「頼朝の権力を奪うための布石」に見えるようになってきたのだ。
頼朝は、自分の死後、若き嫡男頼家が北条氏の傀儡となる未来を鮮明な幻視として見せつけられる。
この不信感から、頼朝は時政を京から呼び戻し、逆に頼家から時政の権限を奪い、遠ざけようとしたが、この動きが、北条氏の警戒心を煽る結果となった。
時政は、頼朝の岳父として地位を得ましたが、心の奥底には、「武士の世を自ら動かしたい」という巨大な野心を秘めていました。幻惑の波動は、その野心を毒のように育て、「源氏を排除し、北条氏が世を動かすべきだ」という確信に変えていった。
深夜、時政はしばしば、耳元で響く「囁き」を聞くようになる。それは、六代が草薙の剣を通して送る、異界の神の知識を装った『助言』です。
「あなたの血こそが、この世を統べるに相応しい」
「源氏は武威を知らぬ。頼朝の死後、その子も脆弱だ。あなたが幕府を導かねば、平家の二の舞になる」
時政は、この「囁き」を天啓であると信じ込み、頼朝が自分を遠ざけようとする動きに対し、危機感と正当防衛の意識を募らせていく。
六代の策略は、見事に源氏と北条氏の間に修復不可能な亀裂を入れた。
頼朝の死後、若き二代将軍源頼家が政務を執り始めますが、幻惑の波動の影響で、頼家は猜疑心が強く、常に北条氏に反発。そして、時政は「囁き」に突き動かされ、「外戚として将軍の権限を代行する」という名目で、頼家を幽閉・廃嫡へと追い込む。
ここに、源氏による武家政権は、事実上、北条氏による乗っ取りという形を迎え、源氏の血筋は急速に衰退へと向かうことになりました。
六代は、薩摩の隠れ里でこの報せを聞きました。
「源氏が自ら、己の『正統性』と『血脈』を滅ぼした。我らは、手を汚すことなく、復讐の第一歩を果たした」
六代は、草薙の剣を撫でながら、次の標的を鎌倉幕府の実権を握った北条氏そのものに定めた。




