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平家物語・潮騒の残響  作者: 原田広


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肆. 渦潮の底

六代(ろくだい)がクトゥルーとの盟約を果たし、人ならざる力を手に入れた後、彼が最初に着手したのは、源氏への直接的な復讐ではなかった。彼は、一族の権威と、異能の力をさらに高めるための「象徴」の回収を決意した。

「源氏を討つ前に、まず、平家の『魂』を取り戻す」

六代(ろくだい)は、故郷である壇ノ浦の海を指差した。

「それは、壇ノ浦の渦潮と共に、安徳帝(あんとくてい)の玉体と共に沈んだ、三種の神器の一つ……草薙の剣(くさなぎのつるぎ)だ」

剣に宿る神威と怨念

草薙の剣は、皇位の証であるだけでなく、太古の神の力、そして幾多の戦いと歴史の怨念を吸い込んだ、力の結晶でもあった。源氏がいくら政権を握ろうとも、神器が欠けた状態では、その統治に『正統性』の穴が開く。

そして何より、六代(ろくだい)がクトゥルーの知識から知ったのは、この剣自体が、異界の神々がこの世に干渉するための『依代(よりしろ)』として機能する秘宝である、という事実だった。

「草薙の剣を取り戻す。それは、源氏の正統性を奪うこと。そして、我らが契りを交わした異能の神の力を、この世に完全に顕現させるための『増幅器』を手に入れることだ」


壇ノ浦の海は、世界でも有数の激しい潮流と渦潮が生まれる場所であり、人の身で潜り、剣を探し出すことは不可能に近かった。しかし、六代(ろくだい)が今、従えるのは、人の理を超えた存在である。

六代(ろくだい)は、盟約によって与えられた異形の従者、「深き者ども」たちに命じた。彼らは、人の耳には不協和音としか聞こえない低周波の音で互いに交信し、その異形な皮膚は、水圧や冷たさをものともしなかった。


「行け。『深淵より来たる者』の力を以て、渦潮の底に眠る、平家の魂を掬い上げよ」

闇夜の壇ノ浦沖。

巨大な渦潮が巻くその真下へ、人の世の物理法則を無視した影たちが、次々と潜航していった。

数刻後、水面に大きな水泡が弾けた。

眷属の一体が、異様な光沢を放つ古い木箱を抱えて浮上した。木箱は、海水に晒されながらも、頑なにその形を保っている。

六代(ろくだい)は、震える手でその木箱を受け取った。重い潮の香りと、剣から発せられる冷たく、鋭い神威が、六代(ろくだい)の指先に伝わってくる。


六代(ろくだい)が木箱の蓋を開けた瞬間、あたり一帯の闇が、一瞬にして切り裂かれたかのように感じられた。

草薙の剣は、長年の海中にあっても、その切っ先は錆びることなく、むしろ、深海と歴史の怨念を吸い込み、禍々しいほどの光を放っていた。

剣を手に取った瞬間、六代(ろくだい)の体内に、盟約で得たクトゥルーの異能と、剣が持つ古代の神威、そして平家一門の怨念とが、激しく融合した。

「この力……」

六代(ろくだい)は剣を天に掲げた。剣の輝きは、もはや人の世のものではなかった。それは、源氏への復讐という、彼の目的を、異界の力で『具現化』させるための、絶対的な武器となったのだ。

「源氏よ。壇ノ浦に沈めたのは、我ら平家の肉体と、安徳帝の命だけだ。真の力は、今、ここに『再誕』した」

六代(ろくだい)は剣を鞘に収め、闇夜の海に向かって静かに宣言した。その声は、潮騒に紛れることなく、遠い京と鎌倉へと届くかのような、強い響きを持っていた。

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