表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平家物語・潮騒の残響  作者: 原田広


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/11

弐. 非力と異能

六代(ろくだい)の決意に満ちた宣言は、焚き火の周りの残党たちを静まり返らせた。彼らは皆、かつて都で平家が振るった武威を知っている。そして、現在の己らが、その武威の残骸に過ぎないことも、痛いほど理解していた。

老女房の一人が、顔を青ざめさせながら声を絞り出した。

六代(ろくだい)様……無謀にございます。源氏の兵は、鎌倉に集結しております。京には公家どもを取り込むための頼朝様の代官が目を光らせ、各地に配された地頭は、我ら一門を血眼になって捜している。今の我らが、刀を抜けば、里は瞬く間に滅びます」

清親もまた、兄の前に膝をついた。

「兄上のお気持ちは分かります。ですが、私たちが持っているのは、漁に使う小舟と、錆びた刀、そしてこの地の利のみ。源氏に一矢報いるどころか、里から一歩出れば、ただの餌食です」

六代(ろくだい)は、彼らの現実的な恐れを静かに受け止めた。彼は、ただ感情に駆られて行動するような、軽率な若者ではない。父の死、一門の滅亡を肌で感じ、深く熟慮を重ねていた。

「皆の言う通りだ」六代(ろくだい)は頷いた。「我らは、非力。このまま、人の力だけで源氏に戦いを挑むことは、確かに無謀である」

彼は、夜の海に向けられた鋭い視線を、焚き火の炎に移した。その炎は、わずかな風にも揺らぎ、今にも消えそうであった。

「故に、我らは人の力を超えた異能を借りねばならぬ」

その言葉に、里の人々はざわめき出した。「異能?」「人ならず者?」――彼らは、平家が京で栄えた頃、都の暗部で語られていた、恐ろしい伝説や秘術を思い浮かべた。

「皆は、平家が都を治めた理由が、単に武力や官位のためだと思っているのか?」六代(ろくだい)の声が里全体に響き渡った。

「清盛公は、瀬戸内海の荒波を鎮め、日宋貿易で莫大な富を築いた。その陰には、古来よりこの国の山河に潜む、(おそ)るべき存在との『契約』があったことを、知る者は少ない」

六代(ろくだい)は、潮待ちの里が、ただの隠れ里ではないことを示唆した。

「この薩摩の地は、九州でも特に山深く、古代からの信仰と、鬼、(あやかし)が息づく場所だ。そして、平家の血には、それら異形の者たちと心を通わせる、秘められた力が流れている」

彼は、里人たちに静かに語りかける。

「我らが求めるのは、人の世の武力ではない。源氏の追討の手をすり抜け、京の闇を駆け、鎌倉の防衛を破る、人ならざる力。怨念を力に変え、彼らの魂を、この潮の渦へと引きずり込む力だ」

六代(ろくだい)は、ふたたび潮騒の響く暗い海へと視線を戻した。

「この潮待ちの里の奥、『鬼界ヶ窟(きかいがくつ)』と呼ばれる禁足地がある。そこに、源氏追討を可能にする、ただ一つの道が隠されている。我らは今より、その『異能』を呼び覚ますための準備に入る」

彼は、非力であるという事実を否定せず、むしろそれを原動力として、常識の外にある力、すなわち「人ならざる者」との接触を試みることを決断したのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ