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オプト・オプス  作者: ほんめじ


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9/9

9.出会い

翌朝、宿を出た彼はなかなかに上機嫌だった。


「ご飯うまかったー。お風呂も神だー。」


そういうことらしい。

外観こそ年季が入っていて、有り体に言ってしまえばボロい印象を受けたが、内装は手入れが行き届いており、何も不満はなくむしろ満足だったようだ。

強いて言うならば、セキュリティに不安のある場所だったが彼にとってはそんなもの誤差だろう。

そんなことより美味い飯と大浴場にご満悦な様子。そしてこの宿をなかなかに気に入ったようで、連泊の料金を前払いしていたほどだ。

どこかに家を買うか借りるかして移り住むか、より良い宿を見つけない限りはしばらくここに居着くことになりそうである。



「新しい遺跡ないかなー。」


今日の予定はというと、新しい遺跡の探索をしたいらしい。

昨日遺物を売って稼いだうえに、売れる遺物はまだまだたくさん残っている。だからといって無限に湧き出るわけでもないため、こうして早めに遺跡に行っておこうという算段なのだろう。


「初めて見るのおもろかったしなー。」


どうやらそういうわけではないらしい。

この男は遺跡を観光地か何かと勘違いしている節があるのかもしれない。

どちらにせよ遺物を集めることに変わりはないのだろうから問題はないが。


「近場から行こー。」


これは本格的に観光の可能性が高くなってきた。


というのもこの都市の近くにある遺跡なら、もう大抵の遺物は持ち出されているであろうからだ。

もし仮にモンスターの危険度が高く、その遺跡の探索が難しかったとしても、都市から近いという利点があれば、実力のあるシーカー達が挙って探索に乗り出しているはずである。

そのため、近場の遺跡で遺物収集を目的とするのはナンセンスなわけだ。


残る可能性として、地下深くに埋もれるなどして奇跡的にまだ見つけられていない遺跡などがあれば、近場でも探索の価値はあるかもしれない。

しかしその場合、見つけ出すのにはそれ相応の苦労を伴うわけで、彼にそこまでの気概があるようには全く思えない。


以上の理由から、彼の目的は観光だと断定してもいいだろう。



「うわー。モンスター多いなー。」


あれから近所に散歩に行くくらいの軽い足取りで都市を出たわけだが、遺跡に近づくにつれてかなり多くのモンスターに遭遇するようになってきた。

この状況がこの遺跡ではいつも通りなのか、はたまた異常事態なのか、彼にとっては全くわからない。

なぜかと言えば、そうした情報を仕入れてからここに来たわけではないからだ。危機感などない故に、そうした情報収集は怠ったわけだ。


彼はここまでNiosphをバイクに変形させて来たわけだが、進路上にいるモンスターは全て跳ね飛ばして進んできた。

どういう原理なのかわからないが、モンスターは全くこちらを認識できておらず、ただただ一方的に蹂躙しているだけである。

この様子では危機感など抱きようもない。


「きもいやつもかっこいいやつもいるんだなー。」


危険度がどうとか異常事態がどうとか、微塵もそうした発想には至らないらしい。彼にとっては些細なことなのだろう。

着眼点が幼稚すぎるのは考えものであるが。



「おー。初めて見るなー。」


そのままバイクを走らせてしばらくすると遺跡に到着した。

どうやらこの遺跡も彼の時代とは別の時代のもののようで、興味深げにあちこち眺めている。


「おー?この文字この前と違うー?」


前回行った遺跡では、少しの標本からではあるが文字を学習したためそれと比較しているようだ。

それが異なるということは、この遺跡とあの遺跡もまた、別の時代のものということなのだろう。


「なんも残ってないなー。」


意外と遺物を集める気はあったらしい。

しかし、やはりこの遺跡には何も残っていないようだ。彼もそれはわかっていたのか、言葉とは裏腹に落胆した様子は見られない。


「なんか懐かしい感じー。なんでだろー。」


彼が感じる懐かしさとは。よくわからないが、遺跡を詳しく探索すれば何か手がかりが見つかるかもしれない。


「おー?あー。銃声かー。」


やや遠くからだろうか。銃声が聞こえてきた。


「見に行こー。」


いつものように様子を見に行くようだ。

前回の遺跡でも、とりあえず戦闘音のする方に向かっていたことが思い出される。

その時から薄々感じていたが、彼は間違いなく野次馬の類いである。その野次馬魂に基づけば、今回も見に行くのは当然なのだろう。



移動を始めてすぐ、現場がよく見えそうな建物の屋上に到着した。

そこから見えてきたのは十人以上の男達が銃を乱射する姿。そしてそれに対するように、遮蔽に身を隠しながら戦う三人組の女性の姿。

まだまだ銃撃戦の最中だ。

いったいどういう状況なのかと思ったが、ちょうどよく男達の会話が聞こえてきた。


「なあ!話と違わねぇか!簡単って言ってたろ!」

「知らねぇよ俺に聞くな!」

「無駄口叩いてる暇あったらもっと撃て!」

「焦んな!何発かは当ててんだ!じりじり行くぞ!」

「でもよー、とっとと無力化しなきゃ自害されちまうよ。」

「確かにな。死体相手じゃそそられねえよなー。」

「おいおい、こっちが死んじゃ元も子もねえだろ!そもそもそこまでする予定じゃねえんだわ戯け!」

「そうは言ってもよー。あれだけの美人揃いだぞ!欲が出るのもわかってくれよな!」

「それはわかるが!目的が最優先だ!忘れんな阿呆ども!」


会話の流れからして、男達が女性達を襲っている側なのは間違いないようだ。

一部は私利私欲を満たそうと躍起になっているようだが、なかなか上手くいかずに焦っている様子である。

女性達は負傷しながらもなんとか抗っているようで、その甲斐あってかかぎりぎり均衡を保っているように見える。しかし負傷していることに変わりはないため、それも時間の問題かもしれないが。


「殺して良さそうだー。」


彼が傍観していたのは、どうやら状況を見極めるためだったようだ。

女性を助けるために行動を起こそうとするとは、なかなかにかっこいいやつである。


「お金いくらもってるかなー。」


否、少々考えが違ったようだ。

確かに、遺物で稼げない遺跡ならば他に稼ぐ方法を探すべきであろう。

仮にシーカーならばそれはモンスター討伐などになるだろうが、彼は残念ながらシーカーではない。

となると、他で稼ぐにはシーカー達の遺留品を漁るくらいしかないだろう。

そしてそれがなければ作ればいい。そのくらいの短絡的思考なのかもしれない。

いや、僅かながらに照れ隠しの可能性も残されているが。独り言で照れ隠しして何になるというのか。


「ハンドガンでいけるかー。ニオスフー。」


彼の声に応じて、Niosphが起動する。

展開される八つの球体、そのうちの二つがそれぞれ形を成していく。

出来上がったのは、バレルが長い2丁のハンドガン。射程と威力を両立した仕様である。


それを手に取るや否や、彼は連射した。


鳴り響く銃声。

弾丸が次々に男達の頭を吹き飛ばす。

ただの一発も外すことはない精密性。

時間にして僅か数秒。

彼らは抗う術もなく壊滅した。


すぐさま彼は屋上から飛び降りて、男達の死体へ歩み寄り、身につけていたであろう財布を漁り始める。


そうしてひとりふたりと漁っていると、少し離れたところから声をかけられた。


「あの!あなたが助けてくれたのよね?ありがとう!」


声をかけてきたのは、男達に襲われていた女性のうちの一人だろう。

華やかでもどこか儚げな薄黄蘗色のロングヘアが印象的である。


「わー。綺麗だー。」


そしてなぜか返事としては的外れで、素直な感想を述べ出した。


「え?えっと、それで、申し訳ないけど、できればもう少し助けて欲しいの!もちろんお礼はするから!お願い!」


どこか困惑しつつも、焦っているのか必死に懇願する彼女。


「おー、いいよー。」


それに対し、気の抜けた返事をする彼。

状況が逼迫しているのか否か、よくわからなくなってくる。


「え、いいの?ありがとう!それで、回復薬って持ってないかしら?仲間が怪我で動けなくて!でも回復薬は切らしちゃってて!」


「あるよー。あげるねー。」


「ほんとに!?ありがとう!こっちに来て!」


「あー、はいー。」


言うだけ言って急いで踵を返す彼女の後を、返事をしながらついていく。


遮蔽の先に見えてきたのは二人の女性。


一人は、落ち着きと品のある潤朱色のポニーテールが印象的である。

彼女は右足首あたりを被弾したようで座り込んではいるものの、隣に座るもう一人を気にかける余裕はあるようで比較的軽傷と言える。


残る一人は、静謐で神秘さすら感じる冥色のミディアムヘアが印象的である。

彼女は両脚、左肩、右脇腹から血を流しており、一見重傷かに思えたが、肩と脇腹は擦っただけのようで出血も酷くはない。

一方で、両脚はもろに被弾したようで、大腿からも下腿からも流血しているのがわかる。


その二人のところに先程の女性が駆け寄って行ったのだが、こちらもよく見ると左足首から血を流していた。ただ擦り傷のようで、大したことは無さそうだ。


「みんな美人だなー。」


そんな場違いな感想を言いながら様子を見ていると、声をかけてきた女性が手招きしたためとりあえず近寄っていく。


「この二人の怪我を治したくて。戦闘中に回復薬は飲んだけど治るのか不安で!図々しいのはわかってるの!でもお願い!」


「はいはいー。いいよいいよー。」


そう言うと、彼はバックパックから次々に必要なものを取り出し手際良く指示を出していく。


「まずこれ回復薬ねー。三人とも飲んでねー。水も渡すねー。」

「でー、こっちが消毒と弾の排出をしてくれる回復補助剤ってやつねー。これは直接素肌にかけると綺麗に治るからそうしてねー。」

「そっちのお姉さんは靴とか脱げそう?痛いよねがんばってー。」

「さっきのお姉さんも足怪我してるよやっときなー。」

「こっちのお姉さんは装備脱げるー?そしたら綺麗に治るからねー。あとこのタオルケットあげるねー。脱いだらそれで隠しなー。あー、もう離れるからそしたら手伝ってもらってねー。」

「お姉さん達どうー?もう効いてきたでしょー。じゃあこっちのお姉さん手伝ってあげてねー。」

「見られるの嫌だろうから離れるねー。じゃあねー。」


まるで捲し立てるように返事も待たずに一方的に話し終えると、女性が肌を出すことに配慮してかその場を立ち去った。

ここまで彼が言葉を発するのは珍しい。それだけ真剣だったのだろう。

茶々を入れるとすれば、美女に囲まれた故の照れ隠しの可能性も否めないが。


その後、また男達のところにやってきて財布を漁り出した。


「うひょー。たくさん持ってるねー。」


この姿を見てしまうと、肌を見ないようにという紳士的な気遣いも、単に死体を漁るためにその場を離れる口実だったように思えてならない。

そうなると一方的に話して切り上げたのも、真剣さや照れ隠しではなく、すぐに終えるための効率的な選択だったのかもしれない。


「よーし。見て回るかー。」


どうやら粗方漁り終えたようで、まだあまりできていなかった遺跡の探索を再開することにしたようだ。



ところでこの後、彼女達のことはどうするのだろうか。まさか放置ということはないだろう。

礼をしてくれると言っていたし、ここまで金に執着しているのを鑑みるに、回復薬代を請求しそうなものである。

別の形で礼をもらうにしても、連絡先くらいは交換しておくべきだろう。

他にも怪我の様子を見たり、この後どう帰るのかなどアフターフォローをするべきだろう。


しかしそんな素振りを見せることもなく、どんどんと彼女達から遠ざかっていく。


はたしてなぜ彼女達を助けたのだろうか。

単なる善意にしては中途半端だし、利益あっての行動というわけでもないだろう。

現状では礼も貰わず、ただ回復薬を損しただけだ。

金で解決しなくとも、情報だったり繋がりだったりとやりようはいくらでもあったはずだが。


彼の行動原理は何であったのか。

なかなか理解に苦しむ立ち回りである。

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