6.目的のために
あれから数日経ったが、未だ情報通信端末は入手できていない。
世の中そう都合よくいかないものだ。仕方あるまい。
この数日は廃墟を漁ったり、戦闘音がするたびに様子を見に行ったり、気晴らしにモンスターを駆逐したりしたわけだがなかなか進展はなかった。
この廃墟に足を運ぶ者達は安全志向なのか、怪我こそすれど死者を出すことはなかった。そのため当然だが遺品が残ることもなかった。
そもそもの話、この廃墟の難易度が低いという可能性もあるのだが。
どちらにせよ、そろそろ別の廃墟に移動するか別の方法を模索するかして、なんとか情報通信端末とやらを入手したいところである。
「あー。もうやっちまおうかなー。」
相変わらず物騒な野郎だ。
ただ、それだけ彼も現状に不満があるのだろう。
すると突然、彼の気持ちに呼応するかのように爆発音が鳴り響いた。
「おー。これはきたー。」
嬉しそうな言葉とは裏腹にその表情に変化はない。
だが音のした方へ向かうその足取りは非常に軽やかだ。
「うわー。でっけームカデだー。」
彼の言葉通り、見えてきたのは全長が把握できないほどの長さと、体高が人の倍以上あるムカデのような形をしたモンスターである。
しかも全身が金属に覆われて、まるで機械かのような姿をしている。
それに対峙しているのは数人の男達。
手榴弾のような投擲物をムカデの進行方向に投げつけて、なんとか逃げようと足掻いている。
先程の爆発音は彼らの手榴弾の音だったのか、あるいはムカデの攻撃の音なのか、はたまたムカデが建物にぶつかっただけで生じた破壊音なのか。
何にせよ、なかなかに大規模な戦闘である。
「かっこいいなー。」
いったい何についての言葉なのだろうか。
生き残りを賭けて、必死に立ち向かっている男達のことであって欲しいが。
残念ながらきっとムカデのことを言っているのだろう。
こいつはそういうやつだ。
「早く終わんないかなー。」
もう飽きてしまったようだ。他人の生死には興味関心も抱かないのだろう。
たしかに彼の目的は情報通信端末を入手することであるため、合理的であるといえばそれまでだが。
「ムカデがんばれー。」
遂には応援まで始めてしまった。どうやら彼は人類の味方ではないらしい。
それからしばらくして、男達全員が犠牲になった。
それを確認するや否や、彼は行動を開始する。
「ニオスフー、切り刻んでー。」
その声に応じて、彼の装備Niosphが起動する。
展開される八つの球体。その内の四つが刃を成し、瞬く間にムカデを細切れにした。
「ニオスフありがとー。漁るかねー。」
何事もなかったかのように、犠牲になった男達の遺品を漁り始めた。
彼に心は無いようだ。
ここでようやく目的だった情報通信端末を入手し、加えてちゃっかりと現金までせしめたようだ。
その後はすぐにその場を後にした。
「さてさてー、ニオスフ調べてー。」
戦闘の跡地から少し離れたところで、今度はその声に応じてNiosphの一つが情報通信端末に付着し、みるみるうちにそれを覆い隠した。
そして情報通信端末の形状に変化した後、すぐに元の球体へと戻りブレスレットに格納された。
はたして情報通信端末はどこにいったのか。
吸収でもしてしまったのだろうか。
「美味しかったー?」
どうやら食べたらしい。
というかこいつ食べるのか。
ここにきて衝撃の事実である。
「よーし、これで接続できるなー。」
どういう原理か全く理解不能だが、Niosphが情報通信端末を食らったことで、現代ネットワークに接続する手段を得たらしい。
「ニオスフー。また手伝ってー。」
そう声をかけると、今度はNiosphの二つが彼の装着したサングラス型のディスプレイに溶け込むように接続された。
そしてそれ以降、彼は宙を見て黙りこくった。
「おー。読めるようになってきたー。」
僅か数分後、喋り出したと思ったらもう成果が出始めたらしい。
相変わらず凄まじい学習能力だ。
そしてまたさらに数分後には、サングラスを外してしまった。
学習はもう満足したらしい。
「わかってきたー。武器拾った方が良さそうだねー。」
あの場に一度は放置した遺品の内、武器を拾いに行くようだ。
どうやら学習と同時に情報収集もしたようである。
そしておそらく現代で使われている武器についての情報を得たのだろう。
拾いに行くということは、それを使う方が良いという判断だろうか。
彼の持つNiosphという特殊な武器は、明らかに人前では使いづらいだろう。
そうなると、人前でも自然に使える一般的な武器があるに越したことはない。
そういう理由で、一度は放置した武器を回収に行くものと思われる。
「ニオスフー、食べていいよー。」
考察は外れたようだ。彼の声に応じるように、Niosphは武器を飲み込んでいく。
まさかまた食べさせてしまうとは。
Niosphのこれまでの能力的に、形状変化が可能なことはわかっている。
ということはつまり、食べさせた武器に変化させて運用するということなのだろうか。
これはもう見てみないことにはわからない。
「ようやく街に行けるねー。」
目的を達成したことで、ようやく街に向かうらしい。




