4.現代都市
廃墟で一夜を明かし、惰眠を貪り時刻は正午。
「街に行くかー。」
今日は現代都市へ向かうつもりらしい。
昨日の段階で、現代人との言語の乖離があることは確認済みである。それでも向かうということは、なにか解決策があるのだろう。
昨日すでに少し理解しただのと発言していたが、その真骨頂が発揮されるのか。あるいはこの男なら、ボディーランゲージで乗り越えるという楽観視の可能性も捨て切れないが。
はたしてどうなることやら。
「ニオスフー。飛ぼっかー。」
音声認識で起動するのは彼の装備Niosph。
左腕のブレスレットから、八つの球体が展開され浮かび上がる。その内の五つが変形し合体し形を成していく。
現れたのは、鳥型ステルス航空機。
静音性、機動性、速度など用途によって変幻自在の翼を持つ。
しかも速度特化にするときは、本体部に搭載されたプラズマ推進機構によって加速度が補完される。
また、当然ステルス機構も搭載されており、肉眼での視認はもちろんあらゆるレーダー探知を阻害する。
そして言うまでもないが、離着陸に滑走路は不要だ。
なんせ鳥型であるから。
「ゆっくり行くかねー。」
その言葉に合わせて、Niosphは羽ばたき一気に浮上。そして滑空。時折翼をはためかせ、高度を維持しつつ進んでいく。
ゆっくりという言葉の通り、推進機構こそ使っていないのだが、その速度は鳥類の最速を遥かに凌駕する。
静音性を要するなら多少は速度を落とさなければならないが、それは都市に近づいてからで問題ない。
故に、都市への到着はあっという間だった。
「おー。城壁すごー。」
現在地は都市の上空。
そのため都市の様相をありありと望むことができる。
この都市は中央区画が城壁で囲まれた、いわゆる城郭都市と呼ばれる構造のようだ。
城壁の高さもかなりのもので、思わず感嘆するのも頷けるほど壮観である。
「うーん、このままでいっかー。ニオスフ音声集めてきてー。」
上空でのホバリングを維持したまま、Niosphの残り三つのうち二つが街に放たれた。
どうやら言葉の通り、音声データを収集するようだ。
昨日の様子から推察するに、言語学習のためだと思われる。
なにか悩んだ様子だったのはおそらく、飛行状態を解除して多くのNiosphを放った方が効率が良いからであろう。
「暇だなー。なんか見に行くかー。」
データ収集が終わるまで、上空からではあるが都市を見て回ることにしたようだ。
上空から見ているからこそ、簡単に得られる情報もある。
例えば城壁内の建築様式や都市開発の状況について。
これは本来ならば、何かしらの真っ当な手段で城壁を潜り抜けてようやく得られるものだろう。
どのようにして城壁内に立ち入ることができるのか。その手段も難易度も何一つわからない。そのため、実は内に入るのが簡単な可能性も否めないが、おそらく難しいだろうと思われる。
というのも、都市全体の建築様式や都市開発の状況と、城壁内のそれとを見比べるとわかってくることがあるのだ。
まず城壁の内側については、限られた土地で空間を活かすために高層建築物が採用されているようだ。
決して煩雑にならないよう、隅々まで綺麗な景観を維持したまま区画整理されているのが見て取れる。
そのため、いくら高層建築物で人口増加に対応しようにも限りがあるのがわかる。
次に城壁外部について、これは城壁から離れるにつれてその様相も変化している。
まず城壁付近は、城壁内と類似した区画整理と高層建築物が採用されている。
これはおそらく、新規に城壁内に移り住みたくても人口の都合上か、あるいは何かしらの条件が不足しておりそれができない人々のために作られていると考えられる。
その外側の区画は、区画整理こそされているものの、建築様式も築年数もまちまちである。
しかし、所々に新築の高層建築物が存在していたり、現在進行形で建築中であったりすることから、再開発区画と呼ぶのが相応しいだろう。
残りのさらに外側を取り囲む区画は、まともな区画整理ができておらず、低層や中層の建築物が犇めき合っている。
外周に近づくほどにその煩雑さは増していくのだが、脆そうな建築物は不思議と見当たらない。
この辺りはなにか理由があるのかもしれない。
以上のような状況から、城壁内は人口が上限に達していそうなことも、城壁外でも城壁付近はもう人口が溢れてしまっていそうなことも、故に更に外側の再開発が進められているだろうことも推察できる。
つまりは居住目的で城壁内に立ち入ることは相当に難易度が高く、実質不可能に近いのだ。
それ以外に立ち入るとすれば、仕事か観光目的となるがそれもかなり難しいだろう。
城壁内に住むのはおそらく、古くからその地に住む歴史ある家系か超富裕層かのどちらかだろう。
となると必然的にそうした層向けの仕事しかないわけで、それには相応の信頼と実績が必要になるだろう。
観光については、そもそも観光地らしきものが見当たらない。例えあったとしても、超富裕層向けのセキュリティが敷かれた地に、見知らぬ観光客が足を踏み入れることが許されるはずもないだろう。
要するに、城壁内に潜り込んで情報を得るなど以ての外で、上空から視覚情報だけでもこうして簡単に得られてしまうというのは非常に有意義だと言えよう。
「美味しいお店はわかんないねー。」
彼はいったい何を見ていたというのか。ここまで熱弁したのが馬鹿みたいである。




