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オプト・オプス  作者: ほんめじ


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1/8

1.目覚め

意識が浮上する。果たして起床はいつぶりだろうか。随分と長く眠ったような気もするが、いつも通りのコールドスリープだし気のせいだろう。

しかし、違和感を感じる。瞼の向こうに明るさを感じないのだ。それに加えて、普段なら聞こえるはずの音声も聞こえてこない。

不思議に思いつつ目を開くと、視界に飛び込んできたのは暗闇。


「あれー?」


思わずそんな声が漏れたが、状況を確認するために体を起こす。

寝ていたカプセルは自然に開いているため、直前までは電源が繋がっていたはずだろう。

施設にはメインの自家発電に加えて予備電源まで備わっているし、カプセル本体は自己発電機能まで搭載された装置だ。そう簡単に電源不足に陥ることはないはずなのだが。

どうやらそれでも停電しているらしい。

周りを見回してみるも、特に荒れた様子は見られない。


「うん、よくわからんねー。」


なんせ先程まで寝ていたのだ。脳が働くまで時間を要するわけで、しかも考えたところで結論が見えてくるわけでもないこの状況。わからないで済ませてしまうのも無理はない。

もちろん途方もなく考察はできるのだろうが、そうしたところで何ができるわけでもない。


「停電かー。まあいっかー。」


いつまでも寝ていてもどうにもならないので、とりあえずカプセルから起き上がる。


「任務じゃないのに起きたの久しぶりだー。」


普段の彼の任務は、主に要人の暗殺や組織の殲滅、都市の壊滅など。最重要なものや、とにかく規模の大きいものが回されていた。

逆に言えばそれらのみで、任務がなければコールドスリープ。プライベートもクソもない。所謂、飼殺しの状態にあった。

しかし、それも仕方のないことなのかもしれない。


あまりに強大すぎるその力は危険視され、外を出歩くことも忌避されたわけで、されど彼という武器を国も組織も捨てることができるわけもなく。

彼を監視下に置き、私生活に至るまで完全にコントロールすることで安心安全に運用していた。

彼にとっては生まれ育った場所がそもそも組織であるため、そこに帰属するのは当然であった。

そのため組織の意に反する気持ちなど微塵もなく、今日この日まで生きてきたのだ。

そういうわけで、任務があれば目覚め、終われば眠りにつく。ただそれだけの生活だった。


そして今、これまでのそのサイクルから解放されたのだ。理由は不明だが。

果たして真に自由になったのか、そのあたりもとにかく調べるしかなかった。


「装備は無事だなー。ネットって繋がるかなー?」


とりあえずいつものルーティンで着替えをして、装備の確認も行った。

そしてサングラス型のディスプレイ端末をかけ、ネットワークにアクセスしてみる。


「んー?繋がらないかー。基地局が死んでるー?直で衛星に…おー、繋がったー。」


どうにかこうにかネットワークに接続をして、あれやこれや情報を得ていくと、なんとなくだが現状が理解できてきた。


複数国家の生物兵器を用いた戦争による被害の蔓延と天災が折り重なり、僅か数年で全人類の99%以上が死亡。本大陸は滅亡。他大陸でも先進国とその周辺国家が滅亡。残されたのは、他大陸辺境の後進国や多島海地域の原住民のみ。

その後、彼らが世界中に移り住み、少しずつ繁栄を築くも、またしても戦争と天災により文明崩壊。

そうした状況が幾度となく繰り返され、現代まで続いている文明はおよそ三百年前から観測され始めた。


これらの情報の観測や記録、ネットワークの管理などは当時からAIによって続けられている。

そのため、このネットワークが人類に使われていた間の情報は詳細に把握できるが、使われなくなって以降は、衛星からの映像や各地に残った監視カメラなどの映像から情報を整理したものに限られている。

それでも文明の発現や開化、崩壊などがわかる程度には情報が得られるため十分だろう。


ある程度情報を得ると、今度は組織のローカルネットワークにもアクセスを試みた。

こちらはログインこそできるものの、情報の更新はされていなかった。

そのためとりあえず、古いものでも得られる情報はかき集めていく。


そしてわかったのは、最後のコールドスリープがおよそ八千年前だということ。

コールドスリープから目覚めたのが今になった理由は明確にはわからなかったが、装置本体の自己発電機能の耐用年数は、発電移行後からおよそ二千年らしい。

つまりおよそ二千年前に何かしらが原因で主要電源から断ち切られ、つい先程無事に寿命を迎えたのだろう。


「退職できないやー。」


組織のローカルネットワーク上で、退職の手続きを行おうとしたが、上長の承認が得られないことでプロセスの進行ができなくなった。

なぜわざわざ退職しようと考えたのかは不明だが。


「とりあえずここから出るかー。」


退職できないとはいえ、組織は活動していないのだから実質もう自由と同義だ。というより、この施設にいたところで生きてはいけない。

あるかないかわからないが、食料を中心に物資を漁りつつ外に出ることを決めた。

がしかし、早速問題発生。


「扉開かなくてワロター。」


扉の自動錠、自動開閉は当然機能しないが、物理的な鍵の解錠はできた。それなのに、いざ扉を開こうと押してみてもびくともしない。

実は引き戸でしたとか、そんな間抜けな話ではもちろんない。

どうやら何かに阻まれているらしい。何かはよくわからないが、やれることはただ一つ。力技だ。

彼は迷うことなく蹴破ることにした。


「はい、どーーーん。」


やる気のない声とは裏腹に、とてつもない破壊音が響き渡る。

そして思惑通り、扉を破ることには成功したのだが。


「んー?土ー?」


扉が崩れるのと同様に、パラパラと土や小石が崩れてきた。

この部屋があるフロアは地下3階なのだが、どうやら天災でこの施設は地下までお釈迦になったらしい。

とはいえこの部屋が無事であることから、部分的にと言う表現が正しいであろうが。

問題はそこではない。


「廊下無くなってワロター。」


問題はそこでもない。部屋に閉じ込められていることが問題なのだ。


「壁切るかー。」


隣の部屋とを隔てる壁を破れば、たしかにこの部屋からは出られるが。


「ニオスフー。切ってー。」


音声認識により起動したのは、彼の専用装備。

銘はNiosph。

銀のような黒のような、はたまた無色透明のような。

八つの球体が宙に浮かび上がり、彼の背後で時計回りにゆっくりと円を描く。

そのうちの一つが形を変え刃となり、彼の思いのままに現象を引き起こした。


「ありがとー。」


切り開いた壁の向こうへと、ゆったりと歩みを進める。隣の部屋は何であったか、大して記憶する気もなかった故に、知っているかも定かではない記憶を辿りながら。


そうして、ひとつふたつと壁を切り裂いては扉が開かないか確認しつつ、部屋の探索もとい物色を進めてくと、いくつか進んだ先で扉を開くことができた。


「おー。廊下に出れたー。まじで埋まってるわすげー。」


彼の興味関心はそんなところにあるらしい。本当に外に出る気があるのだろうか。


「二オスフご苦労様ー。」


すると今度は音声認識により、八つの球体が格納されていく。彼の左腕にあるブレスレットへと、その体積を縮めながら。


廊下に出てからというもの、扉を見つけては開けて部屋を物色し、また次の部屋へ。

そうしてこのフロアは全て物色し終えたのか、見つけた階段を迷うことなく昇っていく。

それを次のフロアでも同様に繰り返していった。


「おー。あったー。」


しばらく進んだところで見つけたのはバックパック。意外と食料等を運ぶ手段は考えていたらしい。


「これいいよなー。なんか知らんけどたくさん入るやつー。」


どうやら事前にその性能を知っていて探していたようだ。


「次は食料残ってるかなー。なんか製造もしてたはずだけどー。」


彼は組織の重要任務に据えられるだけあって、能力は桁違いに高い。当然、記憶力も当時の人類においてかなりの高水準であることは想像に難くない。

だからこそバックパックのことも知っていたのだろうし、おそらくこの施設のどこになにがあるのかとか、そんなことは調べなくてもわかるのだろう。


「でも場所は知らないなー。」


否、記憶はしていないらしい。

ローカルネットワークに接続できるのだから、わからないならば調べたらいいだけだ。

しかしそれをしないということは、おそらくだがそれすらも思いついていないのだろう。


いくらスペックが高くとも、それは優秀と同値ではない。その能力を活用する術がなければ、それは所謂宝の持ち腐れである。

そして彼は間違いなくその類なのだろう。


彼がコールドスリープされ続けたのは、こうした一面もその理由なのかもしれない。

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