握ったまま壊した
掲載日:2025/10/11
僕には好きな人がいる。今、彼女は崖から落ちそうになっている。 苦しそうな顔が、僕の心を締めつける。助けたい。いや、助けなければ。 僕は彼女の手首を握っている。だけど、僕の腕には力がない。鍛えておけばよかった。こんな状況になるなんて、思ってもみなかった。
「早く引き上げろよ!」 彼女の声は切迫していた。かわいいと思っていたその顔が、今は怒りに満ちている。
「わかった。本気出すね」 僕は力を込めた。だけど、焦りと混乱が僕の判断を狂わせる。
「早くしろよ!」 彼女の叫びが、僕の耳を刺す。
グチャ――
握った手に、違和感。 僕の手の中には、彼女の手だけが残っていた。
崖の下を見下ろす。風が、静かに吹いていた。
「……ごめん」
僕はその場に崩れ落ちた。助けたかった。だけど、僕には何もできなかった。




