1棟 5幕 主役たりうる器
こんにちは 霧ヶ峰藤五郎です
人によっては夏休みに入ってるかと思いますが、
いかがお過ごしでしょうか。
私はと言うと
先日インターンシップに
行かせて頂いたのですが、
もうとにかく緩いし仕事も楽しい。
外作業なのでクソみたいに暑い事を除けば最高です。
この夏はやはりとても気温が高くなるようなので
熱中症に気をつけて過ごしたいですね。
間取り図です 参考程度にどうぞ
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二日前、俺は人を殺した。
正当防衛とはいえ人を、それも知り合いを殺した。
俺はその事を割り切れず講堂で膝を抱えていた。
何度か小川や相良達が様子を見に来てくれたが、
次第に無くなって行った。
それも仕方ない、あいつらは攻略組最前線。
つってもまだ教務室の先には行けないが、
レベリングで大変なはずだ。
俺の今のレベルは14。
だが、これは俺のズルありきでのレベルだ。
エネミーキル数で正々堂々と戦ったら、
小川に勝てる気がしない。
と、思っていたら今度は違う奴が来る。
大和と優太だ。
優太は俺の体調を心配して、
何度か様子を見に来てくれた。
大和はと言うと、最後まで渋ってたらしいが、
それでも一応は毎日来てくれてる。
俺は2人の優しさに感動しつつ、
少し、また少しと体調を戻していく。
この世界に来てから14日目、
大和達、最前線は「ライカンの経験値じゃ
もう物足りない」などと言っていた。
いいタイミングだ。
確かめたい事もあるし戻るか、
最前線に。
そうして、頬を叩き
俺は決意を固め教務室へ向かう。
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敵に襲われる事も無く教務室に着くと
休憩している小川達がいた。
優太が俺に気づき手を振ると
小川も気づき手を振る。
俺は微笑み小川たちに手を振り返す。
周りを見渡すとテントや焚き火が置いてあり、
ここを第2拠点としたようだ。
そう、どうやら教務室は敵が湧かない所らしい。
およそ10日間ここにいるという1年生達も、
「ここでライカンが湧いた事は無い」と言っている。
だが、割と普通にライカンが入ってくるので
ここはセーフティエリアでは無いのだろう。
それも仕方ないか、近くに講堂とかいう
どちゃクソに広いセーフティエリアがあるしな。
だが入ってくるライカンのレベルは低いため、
あまり戦闘に慣れてない1年生も簡単に倒せるらしい。
もちろんレベルが低いという事は
得られる経験値が少ない、という事である。
今ここの第2拠点にいる人の殆どがレベル12。
レベル12になったタイミングでライカンから
得られる経験値が1で固定されたらしい。
それと、後から聞いた話だが全員レベル7になった
時点で新スキルを獲得したそうだ。
小川は「基礎暗殺術 下位」、相良は「回復力増強」
大和は「空の腕」を手に入れたらしい。
新スキルも手に入れて全員がハイレベルになった。
「文字通り。」
「うわぁ!!」
みんなの事を見ながらそう考えていると
後ろから声が聞こえてくる。
俺はそれに驚きいてひっくり返る。
頭をさすり、泣きながら振り返ると
そこには大和がいた。
「よ!歩夢。今朝ぶりだな。」
「なんだお前か。脅かすなよ。」
ぶーと口を尖らせて大和の胸を軽く叩き、笑い合う。
そうだ、こいつはこういう奴だ。
大和に向き合い俺は大和がこの前と
装備が違う事に気づく。
「あれ?短剣と直剣?その剣どうしたんだよ?」
大和は目を丸くして
刀の鞘を擦りながら「あぁ、これ?」と言った後
ニヤリと笑い、俺にドヤ顔をして語る。
「ここ数日ライカンを倒して手に入れた素材を
生産職に渡して作ってもらったんだよ。
しかも星2!すごいだろ!」
そう、スキルは全てが戦闘用ではない。
というより戦闘用スキルは400人のうち
100人ちょっと。
残った300人の全員が生産職なのだ。
もちろん、戦闘が出来ないからと言って
生産職を馬鹿にする奴もいる。
だが、生産職は戦闘職より大事なのだ。
調理師がいなければ戦闘職は満足して戦えない。
鍛冶師がいなければ戦闘職は身一つで戦う事になる。
整備士がいなければ装備は壊れるだけ。
錬金術師がいなければドロップ品のみで生きなければならない。
生産職さえいれば良いという訳では無いが、
生産職が非常に大事なのは明確。
それに新スキルが手に入る事が確定した。
生産職も戦えるようになった。
勿論最前線を走るような高ランクの人間と比べたら
弱いが、それもレベルが上がれば追いつける。
戦闘スキルが全てでは無い。
それがこの世界のルール。
長くなってしまったが、要は生産職は大事って事だ。
それにしても、短剣と直剣の双剣…
大和らしいと言えばらしいか。
なんて考えながら俺は教務室の奥まで進む。
1年生や3年生に声をかけられるが俺はそれを無視して
開かなかった教務室の扉に手をかける。
するとインベントリから「教務室の鍵」が
出てきて鍵が開く。
俺はそれを確認したら扉から手を離し、
小川達の方を向いて
「恐らく、ここの部屋は
あの50匹いたというライカンを全て倒したら
鍵がドロップするという仕様だったんだと思う。
だけど、高田先輩達は倒した後
すぐに植木に殺された。
だからここの扉が開かなかったんだ…と思う。」
と俺は推測を話す。
つまり、言い換えれば俺が籠ってたせいで
攻略が進まなかったのだ。
それを聞いた1.3年生は俺に罵声を浴びせる。
「ふざけんなよ!!お前がもっと早く来てれば!!」
「自分の事ばっかなんか許されねぇぞ!!」
「自己中!!」
「人殺し!!」
「お前がもっと早く!!」
「お前のせいだ!!」
「「「「「お前のせいだ!!!!!!」」」」」
教務室はそこまで広い部屋じゃない。
1.3年生からの罵声で部屋が埋まる。
だが、俺は言い返す事はしなかった。
歯を食いしばり、拳を握り締め、体を震わせ、
ひたすらに、ただひたすらに耐える。
なぜなら、全てその通りなのだから。
俺が早く来てれば攻略も、もっとずっと進んでた。
俺が甘えなければ今頃2階には行けてたはずだ。
俺が気にせず、ここに来てれば彼らが帰るのも
早まったはずだ。
だから俺は耐える。
何を言われようと、俺が悪いのだから。
俺のせいで。
だが俺だって人間だ。
罵声を浴びせられて平気な訳が無い。
だから、今だけ。
今だけは目を瞑り夢の世界に逃げよう。
そう思いゆっくりと目を瞑ろうとしたその時。
声が響く。
若い声だ。
「あの…皆さん。
僕はこの人がどのタイミングて来ても、
どの道ここでレベリングしてから先に進むと思う
のですが、皆さんは違うんですか?」
俺は顔を上げ、声のした方を向く。
そこには眼鏡をかけた黒髪ショートの少年がいた。
確か名前は小山君だったか。
小山君は続ける。
「僕だったらここでレベリングを限界までして、
安全マージンをしっかり取れようになってから、
先に進みます。」
小山君は自分なりの意見を述べる。
1年生達はその言葉に「確かに…」や「成程…」と声を漏らし、納得した様子。
だが、その言葉は3年生には届かなかったらしい。
「それはお前の話だろ!
俺は一刻も早く帰りたいんだ!」
3年生の内の一人が小山君に手を横に広げてキレる。
そういえばこの人、
高田先輩が死んだ時に俺の胸ぐらを掴んだ先輩だ。
だがその怒号に小山君は屈せず、続けて語る。
「皆さんはレベルがまだ2や3の状態で、
この先に進むのですか?
レベル1とはいえライカン50匹を倒すことを、
前提としたステージですよ?
ライカンよりもレベルが数段上の相手が出てくる事は
目に見えてます。」
その言葉についには3年生達も納得し始める。
だが、俺の胸ぐらを掴んだ先輩は、
納得が言っていない様子。
「とはいえここはゲームの1面みたいなもんだ!
レベリングなんかせずに戦ってもなんとかなる!
現にライカンなんてレベル1でも何とかなった!」
俺や小川、相良と大和等を含めたゲーマーは、
その言葉を聞いて目を見開く。
ゲームとは何事においても序盤が重要なのだ。
敵が弱い内に装備を揃えたり、レベルを上げたり、
金を稼いだり、序盤はやる事がありすぎるほどに。
自分の行いを正当化する訳じゃないが、
この1面だからこそ、時間を取り、
レベリングをするのが大事なはずだ。
それにここは…
「いい加減理解をしてください。
ここが普通のMMOであればそのプレイスタイルは
良いかも知れません。
ですが、ここは本物の命をかけたゲーム。
遊んで生き残れるほど甘くは無いんです。」
小山君の変わらない意見についに先輩も折れる。
舌打ちをして悪態をつきながら離れていく。
それを確認した小山君はふぅっと一息吐いて
持ち場に戻る。
俺はみんなに向き直り、
「皆さん、僕が甘えて籠ったせいで攻略が遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。」
そう言って頭を深く下げる。
さらに続けて俺は
「今回の様な事が二度と起きないよう精進致します、
なので、どうかこの高橋歩夢に慈悲を。」
俺は頭を下げたまま、手を伸ばし許しを乞う。
数秒だろうか。
少し待っていたら、小川が近づいてくる足音がする。
それに俺は「小川…ありがとう…」と心の中で呟く。
俺は顔を上げ小川の顔を見る。
小川は微笑み、俺の肩をポンと叩く。
と、思った刹那俺は強い衝撃の後、宙に浮いていた。
そのまま自由落下で教務室の机を破壊する。
小川に殴られた。
理由は分かりきっている。
でも殴る前に一言欲しかった。
俺は後頭部を擦りながら机だった物の残骸から出る。
それを見た相良が俺に治癒魔法を施す。
いや本当に有難いです。
それを横目に小川が3年生達に話す。
「頼む。これで恨みっこなしにしてくれ。」
小川なりの優しさなのだろう。
俺はいい友達を持った。
一人を除いて。
そうパーティのうち1人だけ俺が吹っ飛ばされた時、
腹抱えて笑ってた奴がいた。
一体どこの双剣キチガイなのだろか。
検討もつかない。
とまぁそんな冗談はさておき
小川の言葉に1年生は大きく頷いてくれたが、
3年生はまだ揺らいでいるようだ。
無理もない。
すると、3年生の内ひとりの、
肌黒い筋肉質の先輩が
「俺も殴んなきゃ気が済まねぇ。」
と言って俺の方に近づいてくる。
確か名前は相田だったはず。
殴られて許されるならいくらでも殴られるさ。
俺はそれを目を瞑り受け入れる。
数秒後また俺は宙を舞う…と思っていたら、
壁に叩きつけられた。
普通にストレート食らった。
しかも顔面に。
どちゃクソに痛い。
鼻血を垂らしながら起き上がると、
相良が溜息をつきながらまた治癒してくれる。
いつもありがとう相良はん。
相田先輩は肩を回しながら俺に近づいてくる。
気分が高揚したのか、顔は笑っている。
「もう1発!」
3年生が拳を振り上げた刹那、
何かが高速で飛んできて相田先輩の腕を刺す。
針だ。投擲用の針が相田先輩の腕に刺さっている。
相田が痛みで叫ぶ。
針を抜き、止血するためにポーションをかける。
俺を含むほぼ全員が針の飛んできた方向を見る。
そこには相田先輩を睨みながら、
ゴミ箱に座っている大和がいた。
相田先輩が腕を抑えながら大和の方へ向かう。
「お前ぇ…自分が何したか分かってんのか!!」
相田先輩は怒鳴るが大和動じず相田先輩に返す。
「お前こそ、自分が何したか分かってんのか。
一発目は分かる。
怒りを込めて殴るのはまだいい。
だが2発目は違うだろ。
こんな状況でも、いやこんな状況だからこそ
スジってもんがあんだろ。」
相田先輩はそれを聞いて「ぐっ」と声を漏らし
握った拳を戻して帰っていく。
大和は鼻から息を吐き何事も無かったかのように、
俺の方を向き直す。
小川が3年生に
「他には?いないか?」
と聞くと「相田がやったしなぁ」「これ以上は可哀想」
等と話して誰も来なかった。
俺はたった今許されたのだ。
たった今から反省の行動を求められているのだ。
なら俺がやることは1つ。
今回やったことを攻略で返す。
そう決意して俺は教務室の扉に手をかける。
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俺が扉を開けた途端何かが突進してくる。
俺はそれに驚きつつ、
咄嗟にローリングをして回避する。
ひとまず安心…なんて出来るわけなく、
背中側に殺気を感じ、横に転がり避ける。
身体を跳ね起こし、襲撃者を確認する。
そこには兎型のモンスターが3匹たっていた。
名前は…
「リトルラビット…小さなウサギってとこか?」
だがそこにいる兎は小さいなんて名前をしてる癖に、
70cmはある巨体だった。
こいつのレベルは7。
レベリングしてきて正解だったな。
俺はリトルラビットの飛び蹴りをステップで避け、
直剣で兎を両断する。
やつは「ギュルルルピィ!!」と鳴いて倒れる。
レベルの割にはタフネスが無い。
速度極振りのモンスターなのだろう。
俺は後ろにいた人達を教務室に戻るように言って、
地面に手を触れる。
「アイスショック!!」
廊下全体に最大出力で凍結魔法を使う。
思った通り、リトルラビットは簡単に凍り砕ける。
3匹分の経験値が入った事を確認して、
俺は教務室にいた人を呼ぶ。
「レベル7のモンスター…やっぱりレベリングして
正解だったな。」
小川が呟く。
1棟の1階の後半でレベルが5つも上がっている。
フロアボスはさらに上だろうから
最終棟の最上階フロアボスなんて想像もしたくない。
俺たちは相談してここのリトルラビットでレベルを
上げてから進む事になった。
さっき兎とやり合っている時にちらっと見えたが、
奥に視聴覚室があった。
恐らくアソコがボスフロアだ。
準備は万端にしておきたい。
そこで俺は1つ提案をしてみる。
「生産職の何人かをここに連れてくる…か…」
ポーションや武器の手入れをここでして、
万全の状態でボスに挑むためだ。
武器が破損寸前でボスに挑んで、
戦闘中に破壊される…なんて事が無いように。
小川と相良は「良いじゃんやろう!」と言ったが、
大和は渋い顔をする。
「生産職をここに連れてくるのはかなり良い案だ。
でも今この部屋にいる全員でレイドする訳だ。
この部屋のテントはここの人数分しかないし、
これ以上増設は出来ない。現実的に厳しくないか。」
大和からの辛い評価に相良はブーイングをしているが、正直俺は話を聞いて納得してしまった。
今この部屋にいる俺たちを含め14人。
この14人全員でレイドをするなら
しっかりと身体を休めておきたいわけだ。
なのにテントが無いとなると十分休める訳が無い。
かと言って生産職達をテント無しで泊める訳にも…
あぁクソどうしたら…
せめてここと同じくらい広いセーフティエリアがあれば…
等と考えながらテントで横になる。
すると強烈な睡魔に襲われ、目を閉じてしまう。
翌朝、
リポップしたリトルラビットのレベルが
2になっており、俺は再び糾弾される事になるが、
それはまた別のお話。
次回、非力な戦闘職




