「刃の中の真実」
運命に導かれし二人の再会、そして戦いの中で交錯する愛と裏切りの物語。
夜の帳が降り、冷たい風が地面を這うように吹き抜ける。街道の片隅で、梨鍋遜大はひとり、暗い影に包まれながら歩いていた。信長からの任務が重く、心の中には不安と憂いが渦巻いている。過去に流した血と裏切りの記憶が彼の心に深く刻まれていた。
だが、今はそれに抗う術もなく、ただ生き抜かなければならない。そんな思考に囚われた瞬間、背後からひと気配がした。
「誰だ…?」
遜大が振り向く間もなく、闇の中から突如として現れた影が彼に迫った。短刀の刃が月明かりを受けてきらりと光る。相手は一瞬で遜大に接近し、彼の喉元を狙って刀を突き刺そうとした。
「っ…!」
遜大はその瞬間、身を翻して刀を避けようとしたが、わずかに間に合わず、刃は彼の肩をかすめた。その痛みに体がよろけ、膝をついた。
「貴様…何者だ!?」
冷たい笑みを浮かべた刺客が、遜大にさらに近づこうとする。その目に、冷徹な意志が宿っていた。
「お前が…裏切り者か。」
刺客の言葉に、遜大は愕然とした。どうして自分が裏切り者と見なされているのか。信長に裏切りをかけられ、追放されたとはいえ、未だに彼の目は厳しく、無情な言葉で彼を試しているのだろうか。
その時、予想もしなかったことが起こる。
「やめろ!」
声が響き渡ると同時に、暗闇の中からひとりの女性が飛び出してきた。すらりとした体型、黒装束を身に纏ったその人物は、まるで夜の闇そのもののように姿を消して現れた。
その者が、黒木霞だった。
「霞…!」
遜大は驚きと共に声を上げる。彼女の姿に、見覚えがあった。幼少期、共に過ごした日々が蘇る。だが、今の彼女は、まったく異なる顔をしていた。幼い頃のあの優しい笑顔はもう無く、目には冷徹さが宿っていた。
「遜大、危ない…!早く離れて!」
霞は素早く動き、刺客に向かって突進する。彼女の動きは驚くほど速く、相手の攻撃を受け止め、腕を回して刃をかわす。その一連の動作は、まさにくのいちの技だった。
「お前…くのいちだったのか…!」
遜大は驚きと共に、その事実に気づく。霞の隠された力と、何よりも彼女があの頃とは異なる人間に変わっていたことに、心からの驚きと疑問を感じる。
「今、話している暇はない。」
霞は一言そう言うと、再び動き出す。まるで影のように、相手に向かってすばやく斬りかかる。刺客はその素早さに驚き、無意識に後退する。しかし、霞の斬撃は決して容赦しない。
「邪魔するな…!」
霞が突き進むその間に、遜大は急いで立ち上がり、わずかながらも傷の痛みを感じながら体勢を整える。そして、霞の隙を見逃さないように、後ろから支援しようとするが、霞があっという間に刺客を圧倒する。
「終わったな。」
霞が最後の一撃を決め、刺客は地面に倒れ込む。息を切らした霞は、遜大の方を振り向いた。
「お前が…裏切り者だと思っていたが、違ったな。」
遜大は肩で息をしながら、彼女の言葉を受け止める。「お前が助けに来てくれたのか?」彼は、霞の目を見つめながら問いかけた。
「…当たり前だ。」
霞は無表情で答える。しかし、その目の中には、過去の繋がりと、彼女が遜大を守るために何かを抱えている様子が浮かんでいた。
「今、こんなことになっているのか。お前があんなことになっているとは、信じられん。」
遜大は少し苦笑しながら答える。「いや、俺も信じられないよ。だが、今はただ…生きるために戦わなきゃならない。」
その言葉に、霞は一瞬だけ表情を崩し、そして再び冷徹に戻った。
「何もかもが運命だとしても、私たちにはそれに立ち向かう力がある。」
「お前が生きる道を選ぶなら、私はそれをサポートする。」
その言葉に遜大は心から安堵した。そして、霞が再び顔を伏せ、暗闇の中に消えていこうとする時、遜大は強く呼びかけた。
「霞、どこに行くんだ?」
「お前の背後を守ってやる。」
その言葉を残し、霞は闇の中に消えていった。
遜大は彼女の後ろ姿を見送りながら、強い決意を胸に抱きながら前に進むべき道を見据えた。
戦の幕が、いよいよ開かれる。
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運命に翻弄されながらも戦い続ける主人公と、彼を支える者たちの想いが交錯する中で、物語は少しずつ明らかに。次回もお楽しみに。