「義を継ぐ者たち――朝比奈泰朝と梨鍋遜大」
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桶狭間の戦で今川義元が討たれ、駿河・遠江は混乱の只中にあった。
その中で、ただ一人、冷静に「今川の再建」を考えていた男がいた。
遠江国衆筆頭、朝比奈泰朝――義元の側近にして、最も現実的な武将である。
泰朝は戦乱の最中、駿府城にて生き残った家臣を集めた。
「義元様は討たれた。しかし、今川家そのものが滅びたわけではない。
この国を、我らが守らねば、義元様に顔向けできぬ」
彼の声に、家臣たちは震える心を抑え、頷いた。
だが泰朝は、戦だけではこの混乱を収められぬことも悟っていた。
その頃、駿府の外れに「梨鍋遜大」の名が再び響き始める。
かつて義元の浪人として戦場を駆けた男。
今は刀を置き、戦に疲れた者たち、民たちを守る義士として語られていた。
ある夜、泰朝は遜大に密かに呼びかけた。
二人は誰もいない駿府の竹林で対面する。
「遜大。お前の義、今川に返してくれぬか」
「……俺の義は、もはや剣で貫くものではない」
「ならば、言葉と行動で国を支えよ。
義元様の死で、この国の民は、道を失っている。
戦ではなく、義で支えられる国を、共に築こうではないか」
遜大はしばし沈黙した後、静かに答えた。
「……義は、戦だけでなく、人の心に在る。
ならば、俺は民の中で、その“義”を守ろう」
泰朝はわずかに微笑んだ。
「それでよい。俺は城を守り、国を守る。
お前は民を守れ。
どちらも、義元様の残した“夢”を護る道だ」
二人は互いに背を向け、そのまま言葉を交わさずに去った。
泰朝は城で、遜大は野で。
それぞれの「義」を貫き続けた。
——やがて、武田の侵攻が始まる。
泰朝は最後まで今川家を守り抜き、
遜大は民を逃がし、救い続けたという。
戦国の混乱の中、
義元の「理想」を継いだのは、名もなき武将たちと、一人の浪人だった。
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また次回も楽しみに




