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もう一つの〇〇  作者: マーたん


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第×章 槍と剣の狭間で

「岡部元信」登場エピソード


――古戦場の余煙


桶狭間の戦いから数年後、

焼け跡と化した野を越え、遜大・楓・燈火の三人は小さな集落へと足を踏み入れた。

そこは戦に巻き込まれ、死屍累々の光景が広がっていたが、

それでも民は刃を休めず、鍬を取り、廃墟を耕していた。

遜大は無口に街道を抜けようとしたが、

近くの祠から、硬い木の軋む音と共に気配が漂った。


――馬蹄、突如として鳴り響く。

三人の背後に旗指物が見えた。

黒漆と藍の縞が波打つ。

遜大は身構えた。

その先頭に立つ男は、漆黒の馬に跨り、

ただ一振りの長槍を携えていた。

その表情に温度はないが、眼光は鋭く静かな。


「梨鍋遜大。」

男は名を呼び、馬を止めた。

その声は深く、響いた。


「お主を探していた。岡部元信と申す。」


――“忠義の槍”


岡部元信――。

今川義元に仕え、義元最期の地を死に場所とした重臣。

戦乱の中で数少ない自浄の士として名を馳せた存在。

遜大は刀身を握りしめた。

「岡部元信――かつて義元公のそばにおられた方か。」

男は黙って頷き、馬上より錆びた鞘を指差した。


「貴様の剣の傷跡は、まだ癒えておらぬなと聞いた。

ならば傷が癒えるまで、戦は終わらぬと申すのか」


遜大は袖を払って出で、冷静さを保とうと努めた。

「戦は終わらせたはずだ。俺は義元を斬った。俺はもう──」


しかし言葉が途切れたそのとき、

楓が眉を寄せ、声をひそめた。

「しかし、元信殿の槍は……“相手を傷つけるため”ではなく、“問いかけのため”のように見えます」


岡部元信は馬上から槍を静かに下ろし、

静かに言葉を紡いだ。

「忠義とは……血を流すためにあるものではない。

護るためにあるものだ。

義元公が死んだのは、……時代の流れに逆らえなかっただけだ。

だが、貴様はまだ、なぜ戦ったのか、答えを自らに問うておられる」


三人は会話をひそめ、警戒しつつも足を止めた。



――対峙、そして対話


遜大は自身の剣を左にしながら、視線を岡部へ向けた。

「俺は逃げた。戦を避け、背を向けて生き延びた。義元公の志とは違う道に進んだ。

だが、今は違う。俺は生きるためにではなく、『答え』を見つけるために、死と向き合っている……」


燈火がそっと近づき、遜大の肩に手を置いた。

「……逃げてはいません。あなたは焼け跡を歩き、民と共に剣を研いできた。

それは、『逃亡』ではなく、誰かの盾になろうとする決意です」


岡部は軽く馬を一歩後ろに下げたのち、

静かに口を開いた。

「そうか。その剣は、……己の胸を貫くものではないのだな。

ならば、貴様はまだ“導く剣”であり続けられる」


遜大は思わず息をついた。

「……あなたの槍も、問いかけのためのものなのですね」


岡部は槍を握りなおし、静かに言った。

「貴様が、自らの剣と鎧と過去を、

どう焼いて、どう鍛え、何を護ろうとするのか。

それを、我が目で確認したかった」



――槍と剣の応酬


空気が張り詰め、地面の砂塵が巻き上がる。

二つの刃が交差し、炎ではないが、確かな熱が発せられた。

槍と剣は交互に衝突し、

遜大は瞬時に態勢を整え、反撃を試みる。


しかしその槍は防御のために振られ、

決して終わらせるための突きではない。

遜大の剣が素早く槍先を割り、その角度を変えさせる。

二人の目が交錯し、その熱に共鳴した。


灰が舞い、剣と槍はやがて不意の間合いに揃った。

遜大の刃先が、岡部の喉元に軽く触れる。

その刃筋は確かに斬りかけていたが……

岡部は、刃のすぐ先で止めた。


「やめろ……」と、遜大の心が叫んだ。

岡部は馬を返しながら静かに言った。



――告げられた役目


「我が役目は、貴様に“答え”を見届けさせること。」

その声音は無慈悲でもなく、厳しくもなく、

ただ深く、信じるためだけに放たれていた。


遜大は目を閉じ、剣を何度も鞘に戻す。

「……ありがとう、元信殿。」


岡部は再び馬を進めながら呟いた。

「次に会うときまでに、お主の“答え”を磨いておけ」


遜大はゆっくりと、

しかし確かに答えを決めた目で頷いた。



――その後の鎮魂


岡部元信はその後も、今川家の残党をまとめ、民を守りながら進軍を続けた。

歴史の幕には、名前も知られずに消えていく。

だが、遜大の胸に刻まれた“問いかけの槍”は、

彼の歩む道を、確かに支え続けることとなった。



★エピローグ 


大河の如く静かに流れる年月の中で、

遜大は幾多の戦場を越え、

炎と焔と灰を織り交ぜ、

護るべき「答え」を見つけ——


ある日、ふと傍らの楓が問いかけた。

「ねぇ……元信殿にも、本当の“答え”はあったと思う?」


遜大は笑みを浮かべた。

「うん……彼は、誰かを信じるという“答え”を、

自分の槍で貫いていたんだろうな」


空に、流れゆく雲。

その背後に――確かな光が差し込んでいた。



完章:槍と剣の共鳴




次回も楽しみに

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