表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/57

「時の歯車」

運命に翻弄される男が、時を超え、戦の真実と向き合う物語。

時空を超えた旅が、再び梨鍋遜大を戦国の世界に引き戻す。その時の彼の心中は、ただひとつ—信じるべきものは何か—という問いに満ちていた。


遜大が目を覚ました場所は、もはや知っているはずの景色ではなかった。桶狭間の戦の前日、あるいはそれ以前の時代。しかし、それにしてはあまりにも静かで、空気が重かった。まるで戦の気配が遠くに感じられ、ただただ自然の音と、遥か遠くから聞こえる馬の足音が空気を裂いていた。


「ここは、どこだ…」


遜大のつぶやきが空を裂いた。その一歩一歩が、彼を不安な運命の渦へと引き寄せていく。


彼がこの世界に来た理由は、未だに謎に包まれていた。だが、ひとつだけ確かなことは、このまま時間の流れを無視することはできないということだった。再び戻ることができるのか、それとも—という疑念が、彼の心を支配し始めていた。


その夜、遜大は身をひそめるように町の外れに到達した。ここは、桶狭間の戦が始まる前夜のようで、町の人々は日々の生活を続けている。何の予兆もなく、ただ平穏が広がっている。しかし、遜大にはその平穏の裏に、何か大きな歯車が回り続けているように感じられた。


「運命が、再び動き出すのか…」


その時、遜大はふと立ち止まり、眼前に立つ一人の女性に気づいた。彼女は町の広場で、何かを待っているようにじっと佇んでいた。和泉だった。


彼女の姿が、過去の記憶と重なり、遜大の胸に激しい感情を引き起こした。しかし、彼女が今この時代に現れるはずはない—彼女は今川義元の家系に仕えていたはずで、信長と敵対する立場にあったはずだ。


「お前は…何故ここに?」


遜大の声がその場の静寂を破った。和泉は驚きもせず、ゆっくりと振り返ると、その目はどこか遠くを見つめていた。


「遜大…あなたも、ここに来たのね。」


その言葉に遜大は深く息を呑んだ。和泉の目の前には、過去の記憶が映し出されているようで、彼女の存在が本当に現実なのか、それとも幻なのか、確信が持てなかった。


「お前、何故ここに…」


「私も、あなたと同じように時の歯車に巻き込まれたの。」和泉の声は淡々としたもので、まるで運命を受け入れているかのようだった。「過去にも、未来にも、私はあなたに出会うために生まれてきたのかもしれない。」


遜大はその言葉に戸惑い、彼女の存在がますます現実味を帯びてきた。彼の心は混乱し、過去と未来が交錯する中で、何を信じればよいのか分からなくなっていった。


「だが、俺は—」


「あなたは戦を終わらせるためにここに来たの。あの運命の戦い、桶狭間を変えるために。」和泉の瞳には確固たる決意が込められていた。「あの時、私たちが交わした約束を果たすために。」


遜大はその言葉を受け入れることができず、目を閉じた。過去と向き合い、選択を迫られるこの瞬間が、どうしようもなく苦しい。あの戦の結果がどうなるか、それを決めるのは自分だということは分かっていた。しかし、運命の輪は既に回り始めており、彼にはそれを止めることができるのかどうか分からなかった。


「お前は、今川側の者だ。俺が選べることなんて、あるのか…?」


和泉は優しく微笑み、彼の肩に手を置いた。「今のあなたには、もう選ぶ力がある。あの戦いを、違うものに変える力が。」


その瞬間、遜大は目の前の景色が歪んでいくのを感じた。時の歯車が再び動き、彼を引き寄せていく。周囲が静寂に包まれ、二人の周りの空気が重くなると、突然、暗闇から一筋の光が差し込んだ。


それは未来から来た者たちの影だった。彼らは遜大に向かって何かを言うように見えたが、その声は届かなかった。光と闇が交錯する中で、遜大は何かを掴み取ろうとした。


その時、遜大の耳に微かな囁きが届いた。「運命を変える者が、ここに来る。」


その言葉を胸に、遜大は一歩を踏み出す。そして、彼の心の中で新たな決意が生まれた。運命の歯車を止め、未来を切り開くために—彼は戦い続けるのだと。


遜大の目に映るのは、今まさに動き出した大きな戦の波。その先に待ち受けるものが何であれ、彼は自分の足で立ち、決して後悔しないように戦う覚悟を決めた。


物語は、再び新たな局面を迎えようとしていた。



一息つく暇もなく、遜大は再び時の流れに巻き込まれ、戦場の真っ只中に投げ込まれた。桶狭間の戦、すなわち運命の交差点が眼前に広がっている。しかし、その先に待ち受ける未来が、遜大には予測できなかった。


過去に彼が犯した過ち、今川家との関わり、信長の無慈悲な策略、そして彼自身の運命の行き先。すべてが彼の周囲でぐるぐると回り続け、遜大はその渦に引き寄せられていった。


「戦を終わらせるために、何をすべきか。」


その答えを出すために、彼は最も近くにいる者、そして過去に交わした言葉を頼りに、次の一歩を踏み出す決意を固めた。


「俺は、ただ戦い続けることしかできないのか?」


物語の中で描かれた選択と葛藤が、少しでも読者の心に響いたことを願っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ