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もう一つの〇〇  作者: マーたん


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もう一つの今川家「失われた覇道」

もう一つの……

永禄三年、六月。

梅雨の霧が重く立ちこめる桶狭間の地にて、今川義元は重い決断を迫られていた。


城の奥座敷。義元は座したまま、窓の外を見つめていた。

外は薄暗く、雨音が静かに響く。


「天下を統べる――その夢は、今も我が胸に燃えている。

だが、この戦の行方は誰にも分からぬ。」


義元の言葉に、重臣たちは黙して応じなかった。

その沈黙が、彼らの焦燥と緊張を物語っていた。


側近の梶原景季が、静かに口を開く。

「殿、織田の動きが異様に早いとの報告が上がっております。

奇襲の気配もございます。」


義元は目を閉じ、深く息を吐いた。

「信長……小僧のくせに、我が本陣を掻き乱すつもりか。」


彼の手が、机の上の古びた硯を強く握る。

「しかし、今川の威光を侮る者は許さん。」


一方、その部屋の隅には、忍びの者・和泉が静かに座っていた。

彼女の瞳は冷たく、だが揺るがぬ覚悟で光っていた。


「この戦は、義元様の命を守るだけでなく、今川家の未来をも左右する――。

私の役目は、その影で動き、全てを護ること。」


和泉は短刀を握り締め、静かに殿の背を見つめる。



こうした戦の裏で、家臣たちの間にも微妙な不協和音が生まれていた。


「若殿の決断は強硬すぎる。

策を練り直すべきだと私は考える。」


老練な重臣、朝比奈泰朝が低く言った。


「されど、今こそ決断の時。

我らが今川の名を天下に轟かせる時を逃すな。」


若き重臣、松平元康(のちの徳川家康)が鋭く反論した。


議論は激しくぶつかり合い、家中に緊張が走った。







雨はなお強くなり、桶狭間の森は深い霧に包まれていた。

濡れた草木の匂いが鼻をつき、戦の緊張を一層際立たせている。


和泉は濡れた地面を踏みしめ、忍びの任務を遂行していた。

彼女の目は、敵陣の動きを捉えようとする鋭い光を放つ。


「敵の数は多い……だが、数で勝てるとは限らぬ」


和泉の思考は冷静だが、その胸の内には秘めた熱い炎が燃えていた。

「義元様のため、今川のため、私ができることは全てやり尽くす。」


森の奥で、一瞬の気配。

影が近づき、和泉は短刀を抜き放った。

だが、それは味方の忍び、松島だった。


「和泉、異変あり。織田軍の一部が森に潜入したとの情報だ」


「了解。すぐに報告を義元様へ」


二人は素早く連携し、今川軍の防衛線を守るために動き出した。



義元は本陣で情報を集め、決断を迫られていた。

側近の梶原景季が何度も報告書を持ち込み、彼の前に積み重ねていく。


「信長の奇襲は、想定よりも速く、正確です。

このままでは、我々の兵は圧倒されかねません」


義元は鋭い目で報告を聞きながら、内心で葛藤していた。

「我が天下取りの夢は、ここで潰えてしまうのか……」


そんな中、家臣の間では意見の対立が激化する。


「慎重に策を練るべきだ」

「いや、今こそ全力で攻める時」


朝比奈泰朝と松平元康の激しい言葉の応酬が響く。

家中の空気は張り詰め、誰もが義元の決断に一喜一憂していた。



一方、燈火は敵陣の中に潜入し、織田軍の情報を収集していた。

彼女は焔の遺民の技術と己の忍術を駆使し、静かに敵の動きを探る。


「焔の力が、この戦を決める……」


燈火は呟きながら、敵の指揮官の動きを見極める。

彼女の存在は、今川軍にとっても予期せぬ脅威となっていた。



戦いの朝、桶狭間の空はまだ重い霧に覆われていた。

義元は天を仰ぎ、深く息を吸い込んだ。


「これが、我が運命か……」


だが、彼の目は決して揺らがなかった。

「我ら今川家は、どんな逆境も乗り越える。」


そのとき、和泉が急ぎ足で本陣に戻り、報告する。


「殿、敵の動きが最終段階に入っています。

織田軍は今、霧の中で移動を開始しました。」


義元は剣を握り、兵を鼓舞した。

「今こそ、我らの真の力を示す時だ!」



激戦の中、和泉は敵の忍びと対峙し、死闘を繰り広げていた。

その刃は熾烈で、命を懸けた攻防は一瞬たりとも緩まなかった。


彼女の心にはただ一つ――

「義元様を守り、今川家を護る」という強い決意だけがあった。



そして、歴史が大きく動く瞬間が訪れる。


織田軍の奇襲は成功し、義元の本陣は混乱に陥る。

義元自身も重傷を負い、戦いは絶望的に傾く。


だが、その裏で、和泉は必死に義元を守り抜くべく戦い続けた。

「まだ終わらせない……我ら今川家の未来を、この手で繋ぐのだ!」







桶狭間の混乱は、激しさを増していた。

義元の本陣は織田軍の襲撃により崩れかけている。

兵たちの叫びと鉄のぶつかり合う音が、濃霧にこだまする。


義元は負傷しながらも、意識を保ち、戦況を見据えた。

「我が夢は終わらぬ。今川の覇道は必ず未来へと続く……!」


彼の傍らで和泉は、傷だらけになりながらも鋭い目で周囲を警戒し続ける。

「殿……どうか、御身を……!」


和泉の声は震えていたが、その覚悟は揺らがなかった。


その頃、若き家臣・松平元康は、戦場を駆け回っていた。

彼は義元の敗走を食い止めようと奮闘するが、数の暴力の前に徐々に追い詰められていた。


「まだ終わらぬ。今はただ生き延びて、次に備えるのだ……!」


元康の心の中に芽生えたのは、敗北の中に潜む新たな決意だった。



激戦の中、和泉は敵の忍びと激しく斬り結び、切り裂かれた傷口から血を流しながらも、義元の退路を確保しようと必死だった。


「私がここで倒れてはならぬ。

義元様の未来のために、私は……!」


その言葉と共に、彼女は闘志を燃やし、一気に敵を蹴散らした。



義元は今川家の家臣たちに最後の命令を下す。

「散り散りになるな。生き延びよ。

いつの日か、必ずこの敗北を覆すのだ!」


家臣たちは涙をこらえつつ、それぞれの道を選んだ。



その夜、戦の煙が晴れ、月明かりが桶狭間の地を照らした。

和泉は重傷を負いながらも生き延びていた。

彼女は静かに誓う。


「これが終わりではない。

今川家の真の未来は、まだこれからだ。」



歴史の裏で交わされた、もう一つの戦いと誓い。

それは、決して忘れられぬ物語の始まりだった。







次回も楽しみに

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