もう一つの織田家 「桶狭間の影」
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永禄三年の夏、名古屋近郊の桶狭間。
織田信長の率いる軍勢は、今まさに今川義元の大軍と激突しようとしていた。
戦の火ぶたが切られたその瞬間、
歴史の表舞台では語られなかった、もう一つの物語が静かに動き出そうとしていた。
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永禄三年六月、梅雨の晴れ間。
名古屋の南方、桶狭間の湿地帯は、遠くから眺めればただの静かな丘陵地帯に過ぎなかった。
だが、その小さな土地で、歴史を変える大戦が勃発しようとしていた。
織田信長はその日の朝、安土城の高台に立ち、遠くの戦況を見つめていた。
彼の側には、幼馴染でありくのいちの燈火が控えている。
彼女の目は鋭く、いつも冷静だったが、今日はどこか不安げな光を帯びていた。
「信長様……今川軍が迫っています。兵はまだ整っていません。
敵の数は我らの倍以上です。」
燈火の声には、いつも以上の緊張が混じっていた。
信長はわずかに微笑み、彼女の肩に手を置いた。
「心配するな、燈火。
我らが勝利の道は、数の多さで決まるわけではない。
何よりも重要なのは“信念”だ。」
彼の言葉に、燈火は短く頷いた。
だが、戦の現実は容赦なかった。
信長の軍勢は少数精鋭であったものの、敵の大軍に囲まれつつあった。
緊張がピークに達したとき、敵陣から轟く太鼓の音が響き渡る。
義元の軍が、まさに動き出そうとしている。
「時は来た……。」
信長は深呼吸し、兵たちに号令をかけた。
そして、彼の瞳は燈火へと戻った。
「行こう。歴史を変える一歩を踏み出すのだ。」
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戦場は激烈を極めた。
矢が空を切り、鉄砲の音が轟き、剣が火花を散らす。
信長は最前線で剣を振るい、戦の渦中にいた。
しかし――その中で、燈火はただの傍観者ではなかった。
彼女は影の中で、特別な任務を帯びていた。
「燈火、行け。」
信長の声が耳に届くより早く、彼女は森の中へと消えた。
そこには、敵の軍勢に潜む密偵や刺客の姿があった。
燈火の任務は、戦の流れを左右する“情報”を掴むことだった。
暗闇の中、彼女は刃を研ぎ、息を潜めて敵を観察した。
彼女の瞳は、焔のように燃えていた。
「これが……俺たちの戦いの始まりか。」
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一方、戦場の混乱の中で、信長の元に一人の使者が駆け寄った。
「殿、異変です!」
「何だ?」
「敵陣に、奇妙な動きが……焔を纏う者たちが潜んでいます。
ただの兵ではありません。」
信長はその報告に眉をひそめた。
「焔……?」
それは、かつて失われたとされた秘術。
焔の力は選ばれし者のみが扱えると言われ、戦を左右する禁忌の力だった。
「ならば、我らも動く時だな。」
信長は決意を固め、側近の遜大と和泉に目配せを送った。
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森の奥深く、燈火は焔の遺民の一団と遭遇していた。
彼らは戦の影で、秘密裏に力を蓄えていた。
「お前は、織田の使者か?」
焔の遺民のリーダー、ゼクト=ハーヴィンが問うた。
燈火は一瞬ためらいを見せたが、すぐに答えた。
「織田信長の命により、この戦の勝利をもたらすために来た。
だが、貴様らの力もまた、この国の未来に必要だと信じている。」
ゼクトは静かに頷いた。
「ならば、共に戦おう。」
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戦の音は遠くで響き、歴史の一頁が静かに刻まれていく。
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(続く)
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次回も楽しみに




