焔の遺民たち• 星火の果て、焔の彼方• 外伝 焔のない世界で
ワレワレハ…
王都の夜。
戦の爪痕が残る街を、遠く離れて眺める黒衣の者たちがいた。
彼らは、かつて灰の都の滅亡を生き延び、焔に“選ばれなかった”者たち。
地下に潜み、歴史から消えた民。
その名を――焔の遺民。
「明煉が“浄焔”を手にしたか」
黒衣の男、ゼクト=ハーヴィンが呟く。彼は遺民の指導者であり、“焔の契約者”だった。
「ならば、我らの“封印の使命”も終わる」
彼の背後に控えるのは、焔に適応できなかった者たち。
だが、代わりに“対焔”の術を編み出した者たちでもあった。
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一方その頃――
明煉たちは、王都を離れて**西の辺境地帯「カエリの森」**へと向かっていた。
「この先に、“焔の巫子”たちの廃村があると聞く」
柊が古文書を開く。そこには、灰の都の崩壊後、一部の巫子が逃げ延び、力を封じたと伝わっていた。
「なら、その地にこそ次の手がかりがある……!」
明煉の胸に眠る“焔の記憶”が、淡く熱を帯びる。
道中、遜大がつぶやいた。
「……妙だな。周囲が静かすぎる」
そして――突如、森の奥から矢が飛来した。
「伏せろ!」
燈火が叫び、地面に身を沈める。その頭上を、黒い焔を纏った矢が通過した。
「この焔……禍焔!?」
黒衣の影が、森の霧から現れる。
その数は十、二十……いや、それ以上。
「“焔を偽る者”に告ぐ。我ら焔の遺民は、継承を許さぬ」
ゼクトが姿を現した。彼の右腕は既に人のものではなく、焔を取り込んだ異形の義手となっていた。
「お前たちは……何者だ!」
明煉が問うと、ゼクトはただ静かに答えた。
「我らは“焔に選ばれなかった者”――
だが、選ばれなかったからこそ守れるものがある」
そして、彼は“対浄焔結界”を展開する。
明煉の剣が――光を失う。
「……何!?」
「“光”は万能ではない。お前が得た焔は、あまりにも“優しすぎる”」
遜大が剣を抜き、燈火が駆け出す。
「明煉! お前はお前の焔を信じろ!」
「でも、俺の焔は……!」
「だからこそだ!」
遜大の怒声とともに、戦いが始まった。
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遜大はゼクトと対峙し、燈火と柊は結界の外から対術戦へ。
明煉は、なお沈黙の中にあった。
そのとき――
彼の耳に、亡き母の声が届く。
「“選ばれなかった者”の痛みを、あなたは知っているはず」
明煉はゆっくりと剣を掲げた。
焔が戻らぬ剣先に、ただ一滴、彼の涙が落ちた瞬間――
剣が再び光を帯びる。
「“光”に頼るのではない。“痛み”も、“迷い”も、“怒り”も……全部抱えて、それでも前に進む。
それが――俺の焔だ!」
焔が再点灯する。
それは、かつてない双色の光――「浄焔」と「禍焔」が同時に剣に宿る瞬間だった。
ゼクトの瞳が驚愕に染まる。
「まさか……“共焔”……!? 焔を統べる者の証……!」
明煉が一歩、前に出た。
「あなたたちの痛みを否定しない。でも、俺は進む。
選ばれなかった“お前たち”と、選ばれてしまった“俺”が、共に歩む未来を作るために!」
――剣が唸る。
森を、霧を、そして封じられていた心の壁を、焔が貫いた。
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その夜、焔の遺民たちは戦いを止め、ゼクトは膝をついた。
「……まだ、希望は消えていなかったのか」
明煉の手を取り、ゼクトは深く頭を下げる。
「次に会うときは、“同胞”として……焔を、未来へ託そう」
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焔の遺民たちと和解した明煉たちは、灰の都よりさらに深い地底に存在するとされる“焔の核”へと向かっていた。
それは伝承の中で、「世界を照らし、あるいは滅ぼす」と語られてきた、焔の原初にして最終の源。
道中、ゼクトが語る。
「星火とは、太古より伝わる焔の始まり。争いの果てに封じられ、人の手に渡ってはならぬ力だ」
「だが、今の世はもう……焔を隠し続けられる時代じゃない」
遜大が呟く。
「だからこそ、お前が選ばれた。明煉。答えを出すためにな」
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地下神殿・“星の間”
幾重もの封印を越えた先に現れたのは、闇の中に一つだけ灯る星のような焔。
それは呼吸するように、淡く揺れ、明煉の存在に反応していた。
「これが……“星火”……」
柊が驚嘆する。
「力は純粋。だが、均衡が崩れれば、世界を呑みこむ。まさに、“選択”を迫る焔だ」
その時だった。
星火の影から、巨大な焔の化身――**“焔の番人”**が姿を現す。
「お前が、この力を継ぐ者か」
その声は、焔の記憶そのものだった。かつての巫子たち、失われた魂たちの合成音。
「問う。力を継ぎ、何をなす?」
明煉は剣を握る。
「守るために使う。争いに終止符を打ち、未来に焔を残すために」
「ならば――その覚悟、見せよ」
最終試練が始まった。
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決戦:焔の番人
焔の番人は、すべての属性の焔を操り、幻影として遜大、燈火、柊、そして篝火の姿を模して襲いかかってくる。
「俺の弱さを映すか……!」
迷い、罪、喪失、怒り――すべてを映し出され、試される。
だが明煉は倒れない。
「俺はもう、逃げない!」
剣が唸り、焔が唸り、最後に彼の心から生まれたのは――
“共焔光”。
過去と現在、破壊と癒し、選ばれし者と選ばれざる者――全てを包み、抱く焔。
その光が、焔の番人を貫いた。
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星火、継承
「……見事だ。お前こそ、“焔を渡すに足る者”」
番人が崩れ、星火はそのまま、剣の中に吸い込まれるようにして姿を消した。
その瞬間、灰の都の地下に眠っていた焔の力が穏やかに拡がっていく。
世界の大地が、ほんのわずかに温かくなる。
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エピローグ:焔のない朝
一年後。
明煉は、辺境の小さな村で“焔の道場”を開いていた。
焔に目覚めた子どもたちに、力の使い方だけでなく、“心の在り方”を教える日々。
遜大は旅に戻り、柊は王都の学堂で教鞭をとる。
燈火は影の裏で焔の道を監視し続けていた。
そして――
「おはようございます、先生!」
子どもたちの元気な声に応えながら、明煉は笑った。
かつて、焔に試され、失い、選ばれた者。
今はただ、“灯しび”を渡す者となっていた。
空には、灰の都から昇る、細く優しい白い煙。
その先に、未来が広がって
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かつて、焔に支配され、焔に救われた世界。
その中心にいた“明煉”が、世界から焔を収めた一年後――。
Ⅰ:灯火の影
王都の裏手、隠された谷間の屋敷にて。
「“焔の遺民”の一部が、また動いてるわ」
そう報告するのは燈火だった。
彼女は今、王都直属の隠密団として活動していた。
焔を巡る最後の封印――“異焔の書”が、密かに盗まれたという。
「まだ終わっていないのね。焔の呪いは……」
彼女は密命を受け、かつての仲間たちに会いにいく決意をする。
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Ⅱ:柊の選択
一方、柊は王都学院の教師として多くの焔術士の卵たちを育てていた。
だが最近、特異な焔を宿した少年少女が次々と現れ始めていた。
「まるで、“焔”が新しいかたちで呼応してるみたい……?」
柊は研究記録を見直し、ある仮説に辿り着く。
『共焔は終わりではなく、始まりだった。明煉の継承は、焔の再創造に他ならない』
彼女は、世界に再び焔の“萌芽”が始まっていることを悟る。
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Ⅲ:遜大、北方へ
そして遜大は、極北の雪原地帯を旅していた。
そこには、焔とは真逆の“凍気”を操る異能の一族が封印されたという伝説が残る。
「焔だけが力ではない。世界には、まだ俺たちの知らない“対”が存在する」
雪の中で彼が出会ったのは、漆黒のマントに身を包み、“氷の刃”を背負う少年だった。
その少年は、かつての明煉のような目をしていた。
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Ⅳ:明煉、再び立つ
村に帰った燈火は、静かに明煉に告げる。
「まだ……世界は安らいじゃいない。焔は、変わって、広がって、再び試されようとしてる」
明煉は、庭先で焔の訓練をする子どもたちを見守っていたが――
静かに頷き、剣を手に取る。
「なら、また歩こう。
この“共焔”の光で、今度こそ、迷いのない未来を照らすために」
剣はかつてのように重くはなかった。
だが、その焔は確かに、再び灯っていた。
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次回予告(もし続編があれば):
『焔の黎明』
かつて終わったはずの物語が、
新たな世代と、新たな力を呼び覚ます。
そして明かされる、“焔の起源”の真実とは――?
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アトノセハ…




