「焔に誓う」― 信長と濃姫 ―
前回の続き
夜の山城。遠くで火の粉が舞い、戦の気配が迫っていた。
戦乱の中、信長の陣に現れたのは、敵方・美濃の国から送り込まれた密使だった。
その名は――濃姫。
薄紅の衣に身を包み、瞳は氷のように冷たい。
だがその奥には、火山の奥底でくすぶるような熱を秘めていた。
初めて対面した夜、信長は彼女の手首を掴み、問いかけた。
「お前の焔は、誰のために燃えている」
濃姫は笑った。
「今はまだ、誰のものでもない。けれど――」
彼女は、自分の胸元に指を当てる。そこには、淡く赤い紋様が浮かんでいた。焔巫女の証。
「この焔が、いつか“誰か一人の心”に寄り添えるなら。私はそれでいい」
その夜、焔を介して二人は結ばれた。
互いに孤独だった。
互いに、焔に選ばれ、焔に試される運命を知っていた。
信長は戦場で、濃姫は陰の術で、互いを支えた。
表向きは政略結婚――だが、誰よりも深く理解しあえるのは、彼女だけだった。
やがて都が炎に呑まれた夜。
焔の断罪の儀が始まったとき、濃姫はただ一人、信長に「焔を封じてはならない」と訴えた。
「この焔は、滅びだけじゃない。まだ希望がある。あの少年――明煉のような者も、生まれてくる」
だが信長は、その訴えを振り切った。
「……遅いんだ、濃姫。もう、焔がこれ以上誰かを奪うのを、俺は見たくない」
彼女は、悲しそうに微笑んだ。
「ならせめて、私の焔だけは――あなたの中に残して」
焔の断罪。その儀の直前、
濃姫は自らの焔を信長に託し、命と共に炎に散った。
それ以来、信長の剣には、彼女の焔が宿っている。
紅く、しかし決して熱くはない。その炎は、ただ静かに、哀しく燃えていた。
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現在:灰の都、封印の間にて
焔の神核の前。
明煉の剣の焔が一瞬、他の光と共鳴したように揺れた。
その光は――信長の背から放たれる、かすかな焔。
彼はそれに気づき、そっと目を閉じる。
「……あの日、お前が託した“焔”は、今も俺の中で燃えている」
そして、まるで応えるかのように、風が吹いた。
焔巫女の声が、明煉にも聞こえた気がした。
『あなたが選ぶなら……信じるわ。信長――私の焔は、あなたと共に』
信長の目に、一瞬、涙が宿った。
「濃姫……」
だがその顔に、もう迷いはなかった。
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焔の道を進む明煉たちにとって、信長と濃姫の愛と別れは、
「焔とは何か」「なぜ戦うのか」――その問いへのもう一つの答えとなっていく。
(続く)
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次回も楽しみに




