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“運命の螺旋”

この物語は、戦国時代の混乱の中で、裏切りと忠義、愛と運命に翻弄される一人の男、**梨鍋遜大はしなべぽんた**の壮絶な生き様を描いたものです。彼は、織田信長に仕官し、無名の兵士として戦場を駆け抜けながらも、知らず知らずに裏切り行為に加担し、運命に翻弄されることになります。


遜大が直面するのは、信長の冷徹さ、今川家との禁断の恋、そして時空を超える謎の現象。戦の渦中で彼は何を選び、どのように運命を切り開いていくのか。彼の葛藤と戦いの先に待つものは、決して明るいものではありませんが、その中で彼が見つける希望を、共に歩んでいただければと思います。


運命の歯車は、今、動き出すのです。

エピソード3.5: “運命の螺旋”


遜大(梨鍋遜大)は、再び戦場の中にいた。だが、その目はもはや過去のものではなかった。彼の内心は、裏切りの疑念とそれに付随する恐怖に苛まれながらも、戦の中でただ一つ確かなものを見出していた。それは、彼自身が今まで築いてきた忠義とは別のもの——「生き残る力」だった。


信長の命令によって与えられた任務の数々、それをこなすたびに、遜大は人間としての限界を超え、次第に冷徹さを増していった。しかし、それでも彼はあの一度の命令、あの「情報流出」の事実を消すことはできなかった。信長が決して忘れなかったその「過ち」を、遜大は心の中で何度も繰り返し悔いていた。


そして、彼の心を締め付けるのは、何よりも柳原和泉—今川義元の側近の娘であり、彼がかつて禁断の恋に落ちた女性のことだった。あの日、信長の命令で与えられた密命は、結局のところ和泉にすべてを告げてしまった。あの瞬間から、遜大は彼女を裏切ってしまったと感じ、どんなに償ってもその罪を拭い去ることはできなかった。


彼女の顔が頭をよぎる度に、遜大は胸が苦しくなり、そして次第にその痛みは強くなっていった。だが、戦場に立つたび、彼の心は冷徹に、無機質に変わり、周囲の死者たちが生きた証を証明しようとするように感じていた。


それでも、遜大の内にある「心」というものは、信長の冷徹さに応じることなく、どこかに息づいていた。それは、和泉との思い出。彼女と交わした言葉、眼差し、そして密かに交わされた愛の証だった。しかし、そうした感情も今や遠く、霞のように薄れていった。それでも遜大の心には、あの禁断の恋が冷めることなく、燻り続けていた。


「だが、もう手遅れだ。」


遜大は戦の中で、心の中でそう呟いた。どれだけ悔いても、今の自分には和泉を取り戻す力などない。信長の下に仕えることが決まってからの長い年月、彼は数多くの戦場で戦い、名もない兵士たちと共に戦の道を歩んできた。その度に、「忠義」や「栄光」といったものは彼の心から薄れていき、ただ生き延びること、それだけが重要な課題となった。


だが、それが遜大にとって正しい道なのか。それを考える暇もないほどに、彼の目の前には常に戦が広がっていた。傷つき、倒れ、命を落としていく者たち——。それは繰り返し、繰り返し、彼の心に重くのしかかる。遜大は時折、自分がその一部に過ぎないのではないかという感覚に襲われることがあった。


ある晩、遜大が陣営の一角で静かに酒を飲んでいると、突然、誰かの気配を感じ取った。振り返ると、そこに立っていたのは、まさに彼が長らく目を背けていた存在——柳原和泉だった。


「遜大……」


和泉の声は、遜大が予想していたよりもずっと冷たく、そして遠いものだった。あの優しく、愛に満ちていた言葉ではなく、まるで自分を試すかのような響きだった。


「どうしてここに……」


遜大は口を開くも、言葉がうまく出てこなかった。和泉の存在そのものが、彼の心の中で過去の罪を呼び覚まし、また彼の心を揺さぶった。


「あなたが流した情報が、私の家族を危険に晒した。」和泉は冷ややかな視線を向けた。「でも、私もあなたを責めることはできない。私も……あなたに深く関わってしまったから。」


その言葉を聞いて、遜大はただ黙って彼女を見つめるしかなかった。和泉もまた、彼の言葉を待つようにじっとしていた。


「どうして……私を見捨てなかったのか?」和泉が尋ねた。


遜大は深いため息をついた。それは、心から溢れ出るようなものだった。彼は和泉に向き直り、ゆっくりと言った。


「あなたを見捨てることはできなかった。ただ、私がやったことは……どうしようもなかったんだ。」遜大は苦しげに続けた。「あの日、信長に命じられて流した情報が、あなたの家に渡った。それがすべての始まりだった。でも、私の中であなたを裏切るつもりはなかった。」


和泉は沈黙したまま、ただ遜大を見つめていた。その目の中に、怒りや悲しみが入り混じっていた。しかし、すぐにその表情が変わり、静かな決意のようなものが浮かんだ。


「私も、もうあなたを許すことはできない。でも、あなたには生きて欲しい。あなたがこれから何を選ぶか、それはあなた次第だ。」


和泉の言葉は、遜大にとって最も重い一撃となった。それは、過去の罪を許されないという絶望感でもあり、同時に未来を選べるという自由でもあった。彼は、和泉が去るその後ろ姿を見つめながら、これからの自分がどんな道を歩むのか、何も見えない暗闇の中に立たされているような気分だった。


「生きる……それしかない。」遜大は呟き、再び夜空を見上げた。その空の向こうには、次の戦いが待っている。


だが、それが彼にとって最後の戦いになるのか、それとも新たな運命の扉が開かれるのか——。どちらも、遜大自身が選ぶべき運命だった。


「もう一つの桶狭間」を読んでいただき、ありがとうございます。この物語では、歴史的な出来事の裏で生きた一人の男、梨鍋遜大を主人公に、裏切り、愛、そして運命というテーマを中心に展開しました。


遜大という人物は、忠義を重んじる一方で、自らの過去や感情に引きずられ、次第に運命に翻弄されていきます。彼の葛藤と心の変化が物語の中でどのように表れるか、皆さんにとってどこか心に残るものがあったなら幸いです。


また、この物語では「もしも」という視点から戦国時代を描き、歴史の裏に潜むドラマを少しでも感じていただけたら嬉しく思います。これからも、読者の皆様に楽しんでいただけるような物語を紡いでいけたらと思っています。


今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

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