表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一つの〇〇  作者: マーたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/65

「焔の綻び ―忘れられし楔―」

前回の続き

聖堂の奥に続く道は、岩盤の裂け目を縫うような狭く曲がりくねった通路だった。時折、地の底から微かな熱風が吹き上がり、明煉たちの衣を揺らした。


誰も言葉を発しなかった。

さきほどの焔の継承は、それほどまでに強烈な“何か”を残していた。


やがて、通路が終わりを告げると、広がっていたのは巨大な空洞。

その中心には、古代の祭壇。そしてその周囲には、かつての“焔の巫女”たちを象った石像が円陣を成していた。


柊が息を呑む。


「……これは、“封炎の円環”」


「聞いたことがある」遜大が口を開く。「焔の力が暴走したとき、それを抑えるために巫女たちが自らを“楔”としたという儀式。だが……」


「すべて石像に変わっているのは、聞いてないわね……」燈火が呟く。


明煉は、剣を携えたまま祭壇に近づいた。


その瞬間――


バチッ。


空気が裂けた。


祭壇の上に浮かぶ焔の粒子が、急激に黒く染まり、影のような“裂け目”が現れた。そこから現れたのは、一人の女。銀の仮面をつけた、異国の衣をまとう者だった。


「……やはり来たか、“継承者”」


その声には、どこか冷たい響きと、異質な抑揚があった。柊がすぐさま構える。


「誰だ、貴様」


女は答えた。


「我が名はユアリエ。遥か東の地、“風哭の帝国”の使徒にして――焔の力を正しく使う資格を持つ者」


遜大の剣先が、彼女に向けられる。


「焔の力を“正しく”? 貴様らは、焔を奪いに来ただけだろうが」


だがユアリエは一歩も動じなかった。


「違う。お前たちが“癒し”などと信じた焔は、今なお世界を蝕み続けている。焔を解放すれば、また争いと破滅が繰り返されるだけ。だから我らは封印する。永遠に――すべての“継承者”ごと、焔を断ち切る」


その言葉に、明煉が剣を前に出す。


「お前は……焔を恐れているだけだ。だから、閉じ込めて支配しようとしている」


ユアリエは静かに仮面を撫でた。


「違う。私たちは……“焔の真実”を知っている。かつてこの大地が、焔によって滅ぼされた本当の歴史をな」


そして、祭壇が反応する。


焔の巫女たちの石像が、一体、また一体と軋みを上げて崩れ、灰の嵐が吹き荒れる。

祭壇から出現したのは、黒焔を宿した異形の巫女像――


焔が、過去の“継承の失敗”を顕現させたもの。


柊が叫ぶ。「こいつらは……“焔の反響体”! 巫女たちの苦悶と後悔が、負の形で呼び出されたものだ!」


「行け、継承者よ」ユアリエが静かに言う。「お前が“癒やす”というなら――それを、証明してみせろ」


そして戦いが始まる。


明煉の焔剣・黎が、黒焔と交差する。


燈火は巫女像の動きを読み、その間を縫って斬撃を放つ。

柊の術が空間を裂き、遜大の一撃が重く一体を砕く。


だが、黒焔は倒すたびに再構築され、焔が不安定に波打ち始める。


(この焔の乱れ……まるで、内側から蝕まれている)


明煉は気づく。焔の源が、自らを見失いかけている。

彼の剣が再び脈打つ。


「……ならば、俺の焔で――もう一度、“名前”を与える」


焔剣・黎が静かに光り、巫女像の胸に触れた瞬間、そこから一筋の音が溢れた。


それは、歌だった。


かつて巫女たちが焔を鎮めるために歌った“導きの調べ”。

その旋律が空間を包み、黒焔が徐々に澄んでいく。


柊が震える声で言った。


「焔を……祈りで導いてる……?」


ユアリエはしばらく黙っていたが、やがて仮面の奥で目を伏せた。


「……継承者よ。その力が本物なら、いずれわかるだろう。“焔の綻び”が、どこから始まったのかを」


彼女は黒い裂け目の中へと姿を消した。


戦いは終わり、焔は再び静かに灯る。


祭壇の奥。封じられていた扉が開かれる。


その先に広がるのは――焔の巫女たちが最期に記した“真実の記録”。


明煉は前を向く。


「焔の真実とやらがあるなら、知ってみせる。そして、選ぶ。この力を、どう使うべきかを」


その焔が、希望か災厄かは――まだ、誰にもわからない。


(続く)


次回も楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ