『焔の審判 ―灰に宿る灯―』'
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次章「封印の階 ―導かれし者たち―」 【後編】
「……“かつて巫女たちを討った者の末裔”だと?」
明煉は、焔の剣を握ったまま、黒衣の男を見据えた。
その男の顔は灰に覆われ、表情は読み取れない。だが、ただならぬ存在感があった。背後に揺らめく異形の炎――それは怒りと怨念を凝縮した、焔の獣たち。
「お前は誰だ」
遜大が剣を構え、一歩前へ出た。男は笑うでも怒るでもなく、ただ静かに告げた。
「名は、もうない。私は“焔の守り手”。かつて巫女たちが火の神に捧げし儀式――その結末を見届け、今も守り続ける存在だ」
柊が目を細めた。
「つまり……この“本源の焔”を封じた者か」
男は頷く。
「これは神の焔。この世を導く力であると同時に、すべてを滅ぼす災厄にもなる。だからこそ封印された……“誰にも扱えぬもの”としてな」
燈火が前に出た。
「でも、明煉は違う。あの灰炎兵たちに灯を与えた。滅ぼすのではなく、“癒やした”んだ。そんな者が、本源の焔に選ばれないはずがない!」
黒衣の男はわずかに首を振った。
「焔に選ばれるのは、“力を超えてなお己を律する者”のみ。……だが、それを決めるのは、言葉ではない。お前の魂と、この焔の意志だ」
男が腕を広げた瞬間、背後の焔獣たちが吠え、火柱が天に昇った。
「来い、明煉。お前の焔を、この灰の都の試練に晒してみよ」
聖堂の床が振動し、地を割って巨大な焔の円陣が現れる。焔獣たちは姿を変え、牙と鉤爪を持った異形の戦士となって、明煉を取り囲んだ。
遜大が動こうとした瞬間、柊が手を出して止めた。
「違う。これは……“焔の継承儀式”。他の者が介入してはならない」
「だが……!」
「信じろ。明煉の焔を」
*
焔の円陣の中、明煉は一人だった。
焔獣たちが咆哮とともに襲いかかる。明煉は一歩も退かず、剣を振るう。
一閃。焔がしなる。
だが獣たちは傷を負いながらも立ち上がる。倒すたびに再び形を成し、繰り返し襲い来る。
(これは……焔そのものとの戦い)
明煉の胸に、過去の記憶が去来する。
焦燥、怒り、守れなかった悔恨。
焔に心を呑まれそうになった瞬間――誰かの手が彼を引き戻してくれた。
燈火。遜大。柊。
そして――幼いころ、彼に初めて焔を教えてくれた、名も知らぬ巫女の面影。
(俺は……)
焔の剣がふっと輝いた。
(俺は、守るためにこの焔を持った)
燃え盛る焔獣たちの中で、明煉の剣から放たれた炎が静かに広がる。
獣たちの動きが止まる。怒りが、苦悶が、ひとつずつ、消えていく。
焔は彼に問いかけていたのだ。
――お前は何のために、この力を求めるのか。
答えは、明瞭だった。
「俺の焔は――生きるためのものだ!」
最後の一撃。焔を収束させた剣が、聖堂の中心に閃光を刻む。
すべての炎が消えたとき、焔の守り手は黙して明煉を見つめていた。
「……見事だ。“焔を癒やす者”よ。お前こそが、次なる継承者だ」
そして、守り手の体が、灰の風に包まれて溶けていく。
「願わくば、次は……焔が争いではなく、救いとなりますように……」
残されたのは、聖堂の中央に浮かぶ“本源の焔”。
それが、ゆっくりと明煉の剣へと吸い込まれていく。
剣が光を放ち、形を変えた。
“焔の剣・黎”。
それは、破壊と癒やし、両方の力を宿す“意思ある焔”の結晶だった。
遜大が近づき、静かに言った。
「……やはり、お前だったか。“焔の導き手”は」
明煉は答えず、剣を見つめたまま小さく呟いた。
「まだ……終わりじゃない。この焔が導く先を、俺は見届ける」
そして彼らは、さらに深き焔の道へと足を踏み入れていった。
――その先にある、世界の“真なる火種”を求めて。
(続く)
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次回も楽しみに




