『息子』——
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――剣戟、火花を散らす。
山あいの廃村に、鋼がぶつかる音が響き渡る。
遜大と篝火、父と名乗られた男と、その息子を名乗る者――血を分けた者同士の、命を懸けた一騎打ちだった。
篝火の動きは研ぎ澄まされていた。
遜大が教えた剣の型を基に、そこに母から受け継いだ柔の構えと毒のような一瞬の鋭さが融合している。
「……強くなったな、篝火」
遜大は吐息を漏らしながらも、構えを崩さない。
「そんな言葉を……父親づらして言うなよ」
篝火の蹴りが、遜大の肩を打つ。すかさず振り下ろされる斬撃――だが、遜大はそれを紙一重で受け流す。
燈火も柊も、剣を抜いたまま動けずにいた。
これは、誰にも割り込めぬ戦。二人の因縁が、ようやく正面から交わされた瞬間だった。
「なぜ……なぜ俺を捨てた?」
篝火の叫びと共に、剣が唸る。
「捨てたんじゃない……守ったんだ」
「言い訳だ!! 俺の母は……ずっと泣いてた!!」
「俺だって――!」
遜大の剣が、篝火の刃を弾き、ついに彼の肩を切り裂いた。
篝火が膝をつく。
その瞬間、遜大は彼に刃を向けず、ただ静かに言った。
「お前が生きていてくれて、本当に嬉しかった。だが……間違えるな。お前は“ぽんたの息子”じゃない」
「……なに?」
「お前は“篝火”だ。母の想いを継いだ、お前だけの剣を持て」
遜大の声は、冷たくも温かくもなかった。ただ、真実を突く父の声だった。
篝火は、ゆっくりと顔を上げた。
その目に、涙が浮かんでいた。だがそれは、怒りでも悲しみでもなく――ようやく、誰かに認められた者の涙だった。
「……そうか」
しばしの沈黙。
そして篝火は、剣を地に置き、立ち上がった。
「……借りは、まだ返してないけどな。楓のことも、母のことも」
「ああ。いつか……また、斬りに来い」
遜大が微笑む。
柊と燈火が、ようやく構えを解いた。
篝火は剣を拾い、踵を返して一言だけ残す。
「……ぽんた。あんたの背中、俺は追うぞ。――俺なりのやり方でな」
そして、雪解けの林へと消えていった。
遜大は、遠ざかる背中を見つめながら呟いた。
「俺の息子じゃない、か……。だが、あれは……俺のすべてだな」
燈火が一歩、横に立つ。
「……追わないのか?」
「ああ。もう、あいつは“俺の子”じゃない。“ぽんたの息子”として――自分の道を歩き始めた」
そして柊が言った。
「ぽんた、あなたにも……また、新たな旅が待っています」
遜大は頷いた。
「そうだな。戦は、まだ終わっちゃいない。今度こそ、終わらせに行く。俺自身の手で」
――そして、夜が明ける。
ぽんたという名を抱いたまま、遜大は再び歩き出す。
かつての恋と、失われた命と、血の宿命を胸に――
(続く)
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次回も楽しみに




