『身内の裏切り』——
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峠を越えた先に広がる盆地の村――そこは、今川残党の根を絶つため、遜大たちが目指していた中継地だった。
だが、辿り着いた村はすでに廃墟と化していた。
「……遅かったか」
篝火が膝をつき、焼け落ちた民家の瓦礫を手に取る。そこには剣で斬られたような痕が無数に残っていた。
「これは、“知ってる手”だな」
燈火が呟く。その目が細くなる。
「……今川式の斬り込み部隊。それも、“内側”からの手引きがなければ、ここまで綺麗には焼けない」
遜大が無言のまま歩き出し、村の奥にある小さな祠へと足を運ぶ。
そこには、かつての仲間――今川家を離反し、密かに情報を流していた者との連絡地点があったはずだった。
祠の扉を開けた瞬間、血の臭いが風に乗って吹き抜ける。
中に倒れていたのは、彼の旧友にして、今川家の元忍び頭――鎌谷志斎。
胸に短刀が突き立てられ、顔には「裏切り者」と血文字が走っていた。
「……志斎……」
遜大が膝をつき、そっとそのまぶたを閉じたときだった。
「悪いが、そいつは“おとり”だ」
低く、耳に馴染んだ声――それは、篝火のものだった。
「……篝火?」
遜大が振り返ると、篝火の眼差しが冷たく変わっていた。
「ずっと見ていた。あんたがどう動くか、誰に心を許すか……今川の“設計図”がどこに渡るか」
「何を……言ってる?」
燈火が剣に手をかける。だがそれより早く、柊が一歩、遜大の前に出る。
「……まさか、あなたが……」
篝火は苦笑した。
「悪いな、父さん。“裏切った”つもりはなかった。でも、俺は母の遺志を継いだまでだ」
「母の……?」
「母は、あんたを信じてた。けど同時に、恐れてもいた。“ぽんた”の中にあるもの――戦を呼び寄せる、炎の本質を」
柊が小さく息を呑む。
「母は俺に言った。“ぽんたに近づくな”と。“もし近づくなら、あの男の心臓を貫け”と」
その言葉に、遜大の表情が揺れる。
「……お前は、それを……」
「ずっと迷ってた。でもな――この前の城で、楓が死んだとき、分かったんだ。あんたの周りには“破滅”しかない」
静寂。
篝火は剣を抜いた。その構えは、かつて遜大が教えたものと寸分違わなかった。
「俺は……お前を止めるために、生まれてきたんだよ、父さん」
風が、焼け跡の村に吹く。
燈火と柊が即座に動こうとしたその瞬間、遜大が手を挙げて制した。
「いい。……これは、俺の“業”だ」
二人の剣士が向かい合う。
かつては血を分けたと信じた者。
今は、互いの正義をかけて剣を交える者。
そして、第一の刃が、閃いた――
(続く)
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次回も楽しみに




