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もう一つの〇〇  作者: マーたん


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25/65

『許嫁、死す』

続きをどうぞ

深雪の城、燃え落ちる天守の奥。


炎と煙が渦を巻く中、遜大たちはついに城の心臓部へと辿り着いた。そこには、厳重に封じられた黒漆の箱が一つ。今川家の家紋が、かすかに浮かび上がるように刻まれていた。


「これが、“戦の設計図”……?」


楓がつぶやく。


遜大が手を伸ばした瞬間――


「遜大!! 伏せろ!」


燈火の叫びと同時に、弓矢が飛来した。咄嗟に飛び込んだ篝火が、矢をはじき落とす。


天守の隅に立っていたのは、黒衣の女――血塗れの面布をかぶった、今川の密偵だった。


「その箱は……誰にも渡さぬ。遺志を継ぐ者として……!」


彼女の声に、遜大がはっと目を見開く。


「その声……“芙蓉”か……?」


黒衣の女は、顔の布を外した。


そこに現れたのは、かつて遜大の許嫁とされた、今川の密偵――**芙蓉ふよう**だった。


「なぜ……生きていたんだ……!」


遜大が呆然と立ち尽くす。


「生きていた、のではないわ。死ねなかったの。あなたに捨てられ、家は滅び、私は……戦の道具にされた」


芙蓉の眼差しには、深い哀しみと憎悪が宿っていた。


「……この箱が世に出れば、戦は再び拡がる。あなたの手で開かせるわけにはいかない」


そう言い放ち、芙蓉は短刀を抜き、遜大に迫る。


「待て、芙蓉!! 俺は――!」


「何も変わらなかった! 私は、あの夜、あなたを信じて逃げようとした。なのに……!」


彼女の刃が、遜大の胸元に届く直前――


「だめ!!」


飛び込んだのは、楓だった。


鋭い金属音。


次の瞬間、芙蓉の刃は楓の脇腹を裂き、血が飛び散った。


「か、えで……!!」


遜大が叫び、抱き留めたときには、楓の体はすでに力を失い始めていた。


「どうして……お前が……!」


楓は微笑んだ。


「だって……ぽんたは……もう、“ひとりじゃない”から……」


芙蓉は手を震わせたまま後退り、崩れ落ちる梁の音にかき消されながら、静かに呟いた。


「……ああ……また、奪ってしまった……」


そして、燃え落ちる天井の下、彼女もまた、短刀を自らの胸に突き立てた。


遺言のように、短く言葉を残して。


「――“誰かを愛したこと”が、罪だったのかしらね……」


黒き箱の前で、二人の女が倒れ伏す。


遜大は血に染まった楓の髪を抱きしめ、声もなく、ただその名を呼び続けた。


篝火も燈火も、声を失ったまま、燃える天守を見つめていた。


そして、箱が開かれることなく、夜が明けた。


戦の真実は、まだ闇の中。

だが遜大は知っていた――この日の業火こそ、もう一つの「桶狭間」だったと。


(続く)


次回も楽しみに

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