『燃える幽霊城』——
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深雪の中に佇む城は、まるで時を凍らせたように沈黙していた。
壁は半ば崩れ、屋根には雪が重くのしかかっている。それでも、どこか生きているような不気味な気配を漂わせていた。
「これが……“深雪の城”か」
楓が呟くと同時に、篝火が剣の柄に手を添えた。
「誰もいない……ようで、誰かに見られている感じがする」
「感じがする、じゃない。見られている」
和泉が低く言い、指先で門の柱の影を指す。
「……そこだ」
その瞬間、影の中から“白装束”の一団が現れた。顔を布で覆い、まるで亡霊のように無言で迫る。
「出るぞ!」
遜大の声と同時に、剣が抜かれ、燈火が身を翻す。白装束の剣士たちは異様な静けさで動き、刃は風音を切って飛んでくる。
篝火が一人を斬り伏せたそのとき、和泉の目が大きく見開かれた。
「――この構え……“今川影流”!」
「なに?」
楓が反応する。
「じゃあこいつら……今川の、生き残り?」
だが、倒れた白装束の顔を覆っていた布がずれたとき、そこには人間の顔とは思えぬ“仮面”があった。蒼白く、無表情のそれは、死者の仮面か、あるいは――
「……人形か?」
燈火が膝をつき、倒れた一体を確かめた。
「いや、違う。これは……“生きたまま操られている”」
遜大の背筋に、冷たいものが走った。
「“誰か”が、この城に彼らを閉じ込め、意志を奪っている」
「ようやく気づいたか」
奥から声がした。
踏みしめる足音の主――それは、先ほどの白髪の老武者、“真田夜叉丸”だった。
「これが、今川が遺した“戦の設計図”の護り手。己の名も顔も忘れさせられた、密偵の成れの果てよ」
「そんな……!」
楓が言葉を失う。
「お前がやったのか!」
篝火が剣を突きつけると、夜叉丸は静かに首を振った。
「違う。我はただ、守ってきただけよ。お前たちが真実を知るまで、“この幽霊城”が外に災いを出さぬようにな」
そのとき、背後の城壁がきしみを上げた。
――そして、火の粉が舞い始める。
「城が……燃えている!?」
燈火が叫ぶ。積もった雪の下に隠されていた松明の仕掛けが、誰かの手で一斉に火を噴いたのだ。
「誰だ、こんな……!」
「真実を隠したい者よ。“火を継ぐ者”が現れると読んでいたのだろう」
夜叉丸の表情は変わらない。
「お前たちが逃げるなら、今しかない。だがここに残れば――“真実”に触れることになる。どちらを選ぶ?」
燃える城。崩れかけた天守閣の奥には、密書と、今川家の“最後の機密”が封じられているという。
遜大は、仲間たちを見渡した。
「逃げない」
その声に、誰も異を唱えなかった。
「俺たちは……ここまで来た。ならば、見届ける。それが、戦の果てにあるものでも」
「ならば来い」
夜叉丸が振り返り、炎の向こうへと歩き出す。
「“戦を操った者”の正体を、その目で確かめよ」
そして、彼らは――
燃える幽霊城の奥へと、足を踏み入れた。
(続く)
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次回も楽しみに




