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もう一つの〇〇  作者: マーたん


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23/65

『炎の果てに』

続きをどうぞ、!

夜が明けた。


谷に漂っていた黒煙はようやく風に流され、山の木々からは朝露が落ちていた。焼け落ちた古屋敷の残骸のそばで、一行は静かに休息を取っていた。


楓は布に包まれた巻物を抱えて座り込み、その端を指でなぞっていた。

燈火は焚き火の残り火を見つめながら、口を開いた。


「……これから、どうする?」


遜大は一瞬だけ空を仰ぎ、火の名残を背にしてゆっくりと立ち上がった。


「“信濃”に向かう」


「信濃……?」


楓が眉をひそめる。


「そこに何が?」


「“記録の蔵”にあったもう一つの密書に、名があった。“深雪の城”――今川の密偵たちが最後に隠したとされる、“戦の始まり”の記録があるらしい」


「つまり、“桶狭間”以前から仕組まれていた、戦の設計図か……」


和泉がそう呟くと、遜大は静かに頷いた。


「そこに俺の罪の根がある。いや――俺たちの運命を狂わせた、すべての始まりがあるのかもしれん」


篝火が剣の柄を握り直す。


「だったら、行こう。そこで何が見つかろうと、俺は目を背けない」


和泉もまた、小さく息を吐いてから立ち上がった。


「“深雪の城”は簡単には入れない。冬は雪で道が閉ざされる。しかも、あそこは“消えた将”が住むという噂まである」


「消えた……?」


燈火が反応した。


「それって、“信玄の影武者”の話?」


「……噂じゃない」


楓が立ち上がり、言った。


「私も聞いたことがある。信玄の死後、姿を消した重臣が、ある秘密を抱えて信濃の城に籠もったと」


遜大が、焚き火の燃え残りを踏みしめる。


「ならば、そこへ向かおう。“真実”は、そこにある」


風が、山を抜ける音がした。


それは、静かだがどこか鋭く、まるで新たな試練の訪れを告げる笛の音のようだった。


——そして数日後。


雪をかぶる信濃の山道を、遜大たちは進んでいた。

そこは、人の気配も絶え、獣の足跡すらすぐに雪でかき消されるような世界だった。


「……この寒さ。まともに戦えそうもないな」


篝火が吐く息は白く、指先は赤く冷えていた。


だがその時、前方の山道に、朽ちかけた鳥居と、苔むした門が現れた。


その上には、風に揺れる古びた布が一枚。


――そこには、黒い筆でこう書かれていた。


「来たか。“火を継ぐ者”よ」


「……待っていた、というのか?」


和泉が警戒を強める中、門の奥から、かすかな足音が近づいてくる。


そして現れたのは――


白髪に包まれた、老いた男。

だがその目には、今も刀を抜けば千人を斬れると信じさせる“覇”が宿っていた。


「……ようやく来たな、梨鍋遜大」


「……誰だ、お前は」


男は、ゆっくりと答えた。


「拙者は、“真田夜叉丸”。信玄公の“影”を継ぎし者。

――お主の罪も、今川の崩壊も、“すべて知っておる”」


風が、雪を巻き上げた。


物語は、いよいよ“戦の真核”へと踏み込もうとしていた――。


(続く)


次回も楽しみに

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