:『火中の誓い』——
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――火が舞っていた。
夜の谷に降り注ぐ火矢が、空を紅に染める中で、遜大と和泉は互いに一歩ずつ歩み寄った。
「ここで終わらせる気か、和泉……」
遜大の声には、怒りでも、懐かしさでもない。わずかな諦めと、深い決意が混じっていた。
「私の忠義は、今川とともにある。けれど――」
和泉の目が揺れた。
「あなたの背を追い、命をかけたあの日々を、偽りだと思ったことはない」
炎の粉塵が、風に乗って舞う。
「ならば、なぜ剣を取る……!」
遜大が問う。叫ぶ。
和泉は、一瞬だけ瞳を伏せ、静かに答えた。
「けじめよ。愛した者として。あなたの罪を、私の手で断つ。それが、せめてもの報い」
そして、抜き放たれた和泉の刃が、遜大に向かって奔った。
その一撃は鋭く、まっすぐで、迷いのない太刀筋だった。
だが――
「……っ!」
間に割って入ったのは、篝火だった。
「やめろ、姉上!!」
鋼と鋼がぶつかる音が、火の粉を弾く。
「……どけ、篝火!」
「できない!」
篝火の声が、燃え盛る炎を割って響いた。
「父は罪を犯した。だが、向き合っている! 過去と、俺たちと、そして……お前とも!」
「……!」
和泉の刃が震える。
「俺は……家でも、忠義でもなく、この人と歩く! それが、俺の“誓い”だ!!」
その叫びに、楓と燈火も動いた。
「和泉……」
燈火の瞳に、かすかな涙が浮かぶ。
「私も、あの夜を憶えている。あなたが、ずっと遜大を想っていたことも、何も言わず消えたことも」
「それでも、あの時のあなたは、私たちを“裏切らなかった”」
和泉の手が、わずかに下がる。
「もう、敵として会うべきじゃなかった。私たちは……家族だったはずだ」
燃える谷に、沈黙が落ちた。
しばらくして――
和泉は剣を鞘に収めた。
「……愚かね。あなたたち、皆」
そして、ひとつ深く息を吐きながら、遜大の前に立った。
「……ぽんた。まだ、償う道を歩む気があるなら」
「ある」
遜大は即座に答えた。
「俺は、もう逃げない。お前の前からも、過去の血からも」
その言葉を聞いて、和泉はゆっくりと顔を上げた。
「……ならば、私も共に行こう。せめてこの炎の先に、何があるのかを見届ける」
「……和泉!」
篝火が、安堵とともにその名を呼んだ。
そして――谷の火が鎮まり始めると同時に、一行は新たな誓いのもと、再び旅立つことになる。
彼らの行く先には、今川家の残党、織田の追手、そしてさらなる“血の真実”が待ち構えていた。
だがもう、誰も一人ではなかった。
過去に焼かれながらも、確かに結ばれた絆が、彼らを繋いでいた。
(続く)
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次回も楽しみにね




