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もう一つの〇〇  作者: マーたん


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21/65

『裏切りの和泉』——

続きをどうぞ!!

火の手が谷を包む中、黒馬に跨った和泉は、かつての仲間を冷たい眼差しで見下ろしていた。


「……久しいな、燈火」


その声はかつての柔らかさを失い、鋼のように冷たく研ぎ澄まされていた。


燈火は一歩、前へと出る。


「……どういうつもりだ。私たちを、敵に回すというのか」


「“敵”……? それを最初に選んだのは、あなたたちのほうではなくて?」


風に揺れる和泉の黒髪。その背後では、今川の旗の下に集った兵たちが静かに弓を構えている。


篝火が低く構える。


「父を狙っているのか……?」


和泉は少しだけ笑みを見せた。それは、哀しみすら含んだ微笑だった。


「“梨鍋遜大”――あなたは、すべてを燃やした。その罪が、今になって燃え広がっている。私はそれを止めるために来たのよ。貴方を、討つことで」


「……本気なのか、和泉」


遜大が、まるで何かを確かめるように問う。


「お前まで、俺を討つというのか」


「……あなたは、何も変わらなかった。楓を、燈火を、そして今は篝火までも連れ回し、自分の罪から逃げている」


「逃げてなどいない!」


篝火が叫んだ。


「父は……もう向き合っている! 俺たちは、過去を断ち切るために――」


「ならば証明してみせて」


和泉がその言葉を遮る。


「私たちの軍はすでに谷を包囲した。あなたたちが『正しき者』であるなら、ここで抗い、生き延びてみせなさい。それが、試練よ」


そして、彼女は手を振り上げた。


「――放て!」


一斉に、火矢が放たれた。


燃え盛る谷の中、遜大たちは四方から迫る攻撃をかわしながら、古屋敷の裏手へと退いた。


「裏道があるはずだ。古い逃げ道が!」


遜大が先導し、燈火と篝火が援護、楓が背を守る。


「くっ……この地の構造、完全に読まれている……!」


楓が苦々しく呟く。


そのとき、篝火が振り返った。


「姉上……!」


和泉の姿は、炎の中に見え隠れしていた。馬を降り、自ら剣を手にしてこちらへと迫ってくる。


「和泉!」


燈火が叫ぶ。


「なぜそこまでして、遜大を……!」


和泉の声が、炎を背にして届いた。


「私は“今川家最後の密偵”……忠義に殉ずる身よ。そして――」


その瞳が、ただ一瞬だけ揺れる。


「……遜大を、愛していたから」


その一言に、誰もが言葉を失った。


「だから、彼の罪を見逃すことができない。彼が歩く先に、また誰かが泣くのを……もう、見たくない」


――その言葉と共に、和泉は剣を構え、谷の炎を越えて踏み込んでくる。


燈火が前に出ようとしたとき、遜大が静かに手を伸ばして止めた。


「……俺が、行く」


父と、かつての愛が、剣を交えようとしていた。


そしてそれは、遺された者たちにとっても、重大な選択を迫る瞬間となる――


(続く)


次回も楽しみに

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