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もう一つの〇〇  作者: マーたん


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20/61

『記録の蔵』

続きをどうぞ!!

闇の中で交錯する剣閃。


篝火の刃は迷いなく、正確に鴉羽へと迫る。だがその一撃は、寸前で弾かれた。


「速い……!」


鴉羽は風のように身を翻し、面越しに篝火を見据える。


「血の力だけでは、俺には届かぬぞ、小僧」


それでも篝火は怯まなかった。遜大譲りの体捌き、そして鋭い踏み込み――。周囲の伏兵たちも、次々と彼の前に倒れていく。


一方、燈火は地下の壁際を走り抜けながら、敵の動線を断ち切っていた。


「遜大! 篝火を援護して!」


「わかっている!」


遜大は剣を抜き、今はかつての“浪人”の顔ではない。全盛期の“梨鍋の鬼”がそこにあった。


鴉羽がそれを見ると、初めて声に出して笑った。


「そうだ、それでこそ……ぽんたよ」


数手交わすうちに、篝火の刃が鴉羽の袖を裂いた。その瞬間、地下蔵の奥から、何かが鳴った。


――ギギギ……。


壁の裏から、機構の音が響いた。


「っ、燈火!」


燈火がすぐに走る。崩れかけた石壁の一部が、音を立てて開いた。


そこには、封印された木箱と、今川の家紋が刻まれた巻物が並んでいた。


「これが……“記録”……」


楓がそれを見て呟いた刹那、鴉羽の声が響いた。


「触れるな。それに触れれば――この国は、また焼けるぞ」


だが燈火は迷いなく、木箱を開いた。


そこに納められていたのは、一振りの短刀と、一通の文――


「……これは……」


楓が巻物を手に取り、読み上げる。


『もしこの文を開く者が、今川を継ぐべき者ならば、我が血の罪を知るがよい。

今川義元は、織田との戦いを望んではいなかった。

それを戦へと導いたのは、裏で“火付け”を働いた、ある密命の者である――』


楓の手が止まる。

一同の視線が、その先の名を追う。


『名は――梨鍋遜大』


空気が凍った。


「……お前が、“桶狭間”の裏切りの首謀だったというのか……?」


燈火が呟く。


遜大は、何も言わなかった。

ただ、その場に立ち尽くし、遠い過去を見つめるように、口を開いた。


「……あれは、“正義”だったと思っていた。戦を止めるため、血を流した。だが……」


鴉羽が、低く囁いた。


「お前は“火”をつけたのだよ、ぽんた。“信義”という名の油に」


遜大は、ゆっくりと篝火に顔を向けた。


「……それでも、お前は俺の息子でいてくれるか?」


篝火は、剣を鞘に納め、真っ直ぐ父を見た。


「俺は、お前が犯した過ちを越える。そのために生きる。だから……」


「だからこそ、俺はここにいる」


父と子が、初めて真に向き合った瞬間だった。


だが――その静けさは、地下の天井を揺るがす爆音によって、破られた。


「外だ! 爆破の音……!」


楓が叫ぶ。


遜大たちが地上に駆け戻ると、谷を取り巻く尾根に、幾つもの火の手が上がっていた。


「包囲されている……!」


「誰が……!」


その時、谷の向こうから馬の蹄音と共に現れた一団があった。


その先頭に立っていたのは、漆黒の鎧に身を包み、かつての今川家の大将旗を掲げた――


「……あれは、“和泉”……!」


燈火の目が大きく見開かれる。


“裏切りの密偵” 和泉――

かつて仲間であったはずの彼女が、敵として姿を現したのだった。


(続く)


次回も楽しみに

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