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もう一つの〇〇  作者: マーたん


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19/61

『織部の谷にて』——

続きをどうぞ!!

山を越え、霧の尾根を三つ渡った先に、“織部の谷”はあった。


かつては小藩の隠し砦として機能していた谷間の集落。今は廃れ、苔むした石垣と崩れかけた屋敷だけが、その名残を留めていた。


「ここに、真実がある……か」


遜大は、長い沈黙の末にそう呟いた。


燈火は四方を見渡し、誰よりも先に足を踏み入れる。


「足跡が新しい。誰かが、最近ここを訪れている」


楓もまた、剣に手を添えたまま谷の奥へと歩を進める。


篝火は遜大の隣で、今はまだ多くを語らず、ただ黙って父の背を見つめていた。


谷の中心にある、蔦に覆われた古屋敷。その奥に、地下へと続く朽ちかけた階段が口を開けていた。


「これが……」


「“記録の蔵”だ」


遜大が低く言った。


「今川が滅びる前、極秘に設けた“血筋と継承”に関する記録を残す場所だ。俺も一度だけ、ここに足を踏み入れたことがある」


「……血筋?」


楓が言いかけたその時、突如、地下の闇から声が響いた。


「遅かったな、ぽんた」


その名を呼ぶ声に、遜大の全身が強張った。


ゆらりと、闇の中から現れたのは、痩身の男。黒ずくめの装束に、面をつけている。


だが遜大は、その歩き方だけで誰かを悟った。


「……“鴉羽からすば”か」


「懐かしいな。お前に拾われ、捨てられた俺が、今や“選定者”の代行を務めているとはな」


「“選定者”……?」


燈火が眉をひそめる。


「今川の“血”を巡って、新たな戦の火種が撒かれようとしている。“篝火”はその鍵か」


「ふざけるな!」


篝火が前に出ようとした瞬間、鴉羽が指を鳴らす。


地下から一斉に飛び出してきた黒装束の影たち――


「伏兵……!」


楓がすかさず応戦し、燈火も刃を抜いた。


刹那、谷間に金属の響きが鳴り響く。


その只中、鴉羽は篝火に向けて、凍りつくような声で言い放った。


「さあ選べ。“父の血”に従うか、“力”に従うか」


「俺は――!」


篝火が叫び、刀を抜いた。


「父と共に戦う。それが、俺の選択だ!」


その刃はまっすぐ鴉羽へと走る。


鴉羽の面が、わずかに傾いた。


「ならば、殺して証明してみせろ。“業火”の名にふさわしいかどうか――」


闇の蔵の中、篝火の刃と過去の亡霊たちの戦いが始まった。


——そして、血の記録が明かす“真実”は、まだその扉を開けてはいなかった。


(続く)


次回も楽しみに

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