「血風の桶狭間」Special years
Specia lyears
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第一章:戦の火蓋
天文24年(1555年)、桶狭間——。
織田信長軍と今川義元軍の衝突が、ついに避けられぬものとなった。
朝霧が立ち込める戦場。小鳥の囀りが聞こえる静寂の中、戦を前にした兵たちの息遣いだけが響いていた。
梨鍋遜大は、織田方の一兵として戦場の端に身を潜めながら、今川の陣を見据えていた。信長の命で密偵として潜入し、敵の情報を探る役目を果たした彼は、再び戦の中心に身を投じようとしていた。
「……やるしかねぇな」
腰に佩いた刀を握りしめ、深く息を吸う。
この戦の勝敗は、織田と今川の未来を決定づけることになる。
そして、遜大にとっては——己の生死をも左右するものだった。
第二章:決戦前夜
戦の前夜、遜大は織田の陣で信長と対面していた。
信長は例のドクロの杯を手に、ゆっくりと酒を呑んでいた。
「ぽんた、お前の情報がなければ、この戦は勝ち目がなかった」
信長は低く笑う。
「……それほどのものだったか」
「当然だ。敵の配置も、動きも、すべて手に取るように分かった」
ドクロの杯を置くと、信長は立ち上がった。
「この戦、俺たちは勝つ。だが、お前にはもう一つ役目がある」
信長の目が遜大を射抜く。
「義元を討て。お前なら近づけるはずだ」
この言葉に、遜大の心臓が跳ねた。
「……俺に、義元を?」
「そうだ。お前ならできる。今川の陣に潜り込み、義元の首を取れ」
これは、ただの命令ではなかった。
成功すれば、信長の恩寵を受け、名を挙げることができる。
だが、失敗すれば即座に死ぬ。
「お前の決断に任せる。だが、一つだけ言っておくぞ」
信長は笑う。
「このドクロの杯は、俺の敵の頭蓋骨で作られている。もしお前が裏切ったら——次はお前の頭で酒を呑むことになるぞ」
遜大の背筋が冷たくなった。
「……分かった」
彼は静かに頷いた。
第三章:裏切りの境界線
夜の闇に紛れ、遜大は再び今川の陣へと忍び込んだ。
この場所には、彼のかつての恋人——柳原和泉がいる。
彼女は今川義元の側近の娘であり、戦の運命を大きく左右する立場にいた。
(和泉……)
心の中で彼女の名を呼ぶ。
しかし、今の自分にとって、彼女は敵だ。
「遜大……」
暗闇の中、和泉が現れた。
「なぜ、またここに?」
「お前を……助けに来た」
これは半分、本音だった。
もう半分は、義元を討つため。
和泉の瞳が揺れた。
「……帰って」
彼女は悲しげに言う。
「もう戦の中に身を投じないで。あなたは……このまま消えて」
「それはできない」
遜大はゆっくりと首を振る。
「俺には、果たさなきゃならない使命がある」
「……それは信長のため?」
和泉の声が震える。
「それとも、私を裏切るため?」
沈黙が流れる。
答えは、出せなかった。
だが、次の瞬間——。
「敵がいるぞ!!」
今川の兵たちの怒号が響いた。
遜大は咄嗟に刀を抜く。
和泉が、驚いた顔をする。
「逃げて!!」
彼女は兵たちの前に立ちはだかる。
「この者は、私が……!」
だが、今川の兵たちは耳を貸さない。
遜大は心を決めた。
「すまない、和泉……」
彼は刀を振り上げ——敵の中へと突撃した。
第四章:義元の最期
戦場が混沌に包まれる中、遜大はついに義元の本陣へとたどり着いた。
義元は、静かに座していた。
「……ほう、裏切り者がここまで来たか」
遜大は刀を構え、義元を見据えた。
「お前を……討つ」
義元は微笑んだ。
「では、かかってこい」
二人の刃が交錯する。
義元の剣は重く、鋭かった。
だが、遜大もまた、己のすべてを賭けて戦った。
そして——
一瞬の隙をつき、彼の刃が義元の喉元を貫いた。
「……見事だ」
義元は微笑んだまま、血を流し、崩れ落ちた。
第五章:終焉と新たな始まり
遜大は、血に染まった刀を握りしめたまま、戦場を見つめた。
織田の軍勢が今川を蹂躙している。
勝負は、決した。
そして——。
信長が、その場に現れた。
彼は義元の首を見つめると、満足そうに頷いた。
「よくやった、ぽんた」
彼は義元の頭蓋骨を取り、血を拭いながら言う。
「こいつで、酒を呑むとしよう」
ドクロの杯が、また一つ増える。
戦の狂気が、そこにあった。
だが——遜大の心は、空虚だった。
戦いは終わった。
だが、彼の運命は、まだ終わりではなかった。
(続く)
Looking forward to the next time!!




