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溝鼠のキス

作者: ぷいぷい

 俺たちはキスしていた。

 金曜の夜の7時。

 高校生は帰宅、大学生、社会人はこれから夜に駆り出そうという時間。

 アーケードの人通りが多い場所で僕は彼女とキスしていた。

 この彼女とはまだ付き合って1ヶ月だ。

 なぜ今この場所でキスしているのか自分にもわからない。

 周りの人々は完全にヤバいやつを見る目で見ている。

 「ヒューヒュー!」とバカにしてくる奴もいれば、「いいなー」と羨ましく思っているやつもいる。

 まあこんな時間にこんな場所でキスしてる俺たちは何を思われても仕方がない。

 俺たちは大学のゼミで出会い今も大学終わりにキスしている。

 こんな人通りの真ん中でだ。

 しかし俺たちにとってはメインステージのど真ん中だ。

 街灯も俺たちを照らすライトの役割だ。

 俺がこの世界の中心で彼女がこの世界のヒロインだ。

 でも周りから見たらただ知らん奴が何故かここでキスしているだけだ。

 全員ごみを見るような目で見ている。

 なんでここでキスをしているんだ。

 なにもわからなくなってきてしまった。

 今日の夜ご飯は何にしようかな。

 そんなことまで考えてしまった。

 彼女にはタトゥーが入っている。

 別に俺はダメだとは思わない。

 タトゥーは入れた人の覚悟の証明だと思う。

 かっこいいと思う。

 ただ俺はいらないということだ。

 俺には親にもらった"名前"というタトゥーが入っている。

 そのタトゥーの上書きをしたくないというだけだ。

 今日は別に特別な日ではない。

 ただ彼女に帰る前に一回だけキスをしたいと言われしているだけだ。

 別に彼女にキスを求められることが嫌なことではない。

 でも場所は考えて欲しい。

 俺もキスしているなかこんなこと考えてしまっている。

 ここ最近は彼女と何かしていても彼女に集中することができない。

 何か他のことを考えてしまっている。

 これが倦怠期というものなのか。

 どうせ彼女とは1ヶ月後には別れている。

 俺だって今のこの瞬間を大切にしていきたい。

 でもやっぱり別れた後のことを考えてしまう。

 こんなことはよくないな。

 考えるのをやめよう。

 そんなことを考えていたらキスは終わった。

 一体何秒していたんだろう。

 いや何分していたんだろう。

 何も覚えていない。

 一瞬のようにも感じたし、何時間もしていたように感じる。

 帰りに牛丼でも買って帰ろう

 

   「ばいばい」

 

 

 

 


 

 

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