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第九十二話 武術大会出場者登録

 王覧武術大会が開催されるため、国内外から多くの人が集まってきている。俺達が王都にやってきた日よりも、確実に都市の人口が増えているようだ。到着時にアランが言っていた人が多い理由は、どうやらこのためだった。


 大通りはかなり混雑しており、いろんな人種が入り混じっている。その為、俺の黒髪と黒い瞳は目立たない。ただ時おりボルトに女から声がかかるので、その都度立ち止まらなければならなかった。だがこれも宣伝になるからと言われ、ボルトは引きつった笑顔を振りまいている。


 フィラミウスが嬉しそうにボルトに言う。


「楽しそうじゃない!」


「た、楽しかねえよ!」


「自然に笑顔が出てるみたいよ」


「バカ! 演技だよ!」


「ふーん」


 王都に到着してから三日目の早朝、俺達は闘技場に向かって歩いていた。オーバース将軍が作ってくれたチャンスをものにする為、俺が王覧武術大会に出るのだ。ヴェルティカとメルナ、ビルスターク、アラン、風来燕がそろって歩いている。早朝だというのに、こんなに人がいるとは思わなかった。


 すると俺達の進む先に、大きな壁がそびえたっているのが見える。それを見たアランが俺に言う。


「あれが闘技場だ。まだ客は入れていないと思うが、もう周りには人だかりがあるな」


「そうか。俺はあそこで戦うのか」


 するとボルトが焦ったように俺に聞いて来る。


「ていうかコハクよぅ。俺は、あんなところで戦って大丈夫なんだろうな?」


「問題ない。新型鎧は必ず成果を出す」


「頼むぜ。おりゃまだ死にたくねえからな」


 近くに来ると闘技場の大きさが桁違いだと分る。これほど大きな石の建造物は前世には無かっただろう。


 アランが言う。


「控えはこっちだ」


 皆が闘技場の周りに沿って歩いて行くと、行列が出来ているところがあった。


「受付並んでますね」


 アランが言うとビルスタークがヴェルティカに言った


「お嬢様。入れるのは出場者と、付き人が一人と決まっています。決まった通りでよろしいでしょうか? 私でも構いませんよ?」


「構わないわ。私はコハクについて行く」


 それを聞いて、ビルスタークが頷き他の面々に言う。


「他は全員ボルトについて行く。エキシビジョンはスターが出るところだから、お付きが何人いても問題はない」


「いや、むしろついて来てもらわんと俺は不安だぜ」


 そして俺がメルナに言った。


「中に入ったら、ボルトが着る強化鎧の稼働魔石に魔力を注いでくれ」


「うん。わかった」


 そう。ボルトやこの世界の人間は、自分が保有している魔力量で限界だった。俺はいくらでも魔獣から吸い、ため込むことが出来るが、ボルトには魔力の限界がある。ボルトが着る強化鎧には戦う為の補助機能として、魔石を媒介とした動力源があるのだ。


「ボルト」


「なんだ?」


「言っておくが、最大稼働したら動けるのは五分だ。五分以内にカタをつけろ」


「はっ? そう言う事は前もって言ってもらわないと! 五分経ったらどうなる?」


「メルナが補充した魔力が切れる。そうすればお前が保有している魔力に移行するが、それで五分だ。節約した動きが出来るならいいが、魔獣によってはそんな真似は出来ない。魔力切れを起こしたら動けなくなるぞ」


「おいおい。五分て」


「専用の大刀を魔獣に向かって振り回せば勝てる」


「わかったよ。ここまで来たらやるしかねえもんな」


「お前なら大丈夫だ」


「そうかいそうかい。コハクに言われると大丈夫な気がしてくるよ」


「頼んだぞ」


 そうして俺とヴェルティカはみんなと別れた。大会出場者の列に並び、受付の順番を待つことにする。並んだ途端に皆の視線が俺に向いて来たが、俺は全く意に介さず前を向いている。


「おう」


 前に並んでいる奴が声をかけて来る。背の丈は俺よりも頭一つ大きく、筋肉量も俺よりはるかに多いようだ。明らかに威圧的な態度で見下ろして来る。


「なんだ」


「まさか、お前が王覧武術大会に出るのか?」


「そうだ」


「女連れでか?」


「そうだ」


 そしてその男ともう一人がヴェルティカを見た。


「こんな別嬪つれて、良いご身分だな。だが見るからに弱そうだ」


「そうか」


「一回戦で俺にあたらない事を祈るんだな」


「対戦カードは抽選だと聞くが?」


「まあ一部を除いてはな」


 すると黙っていたヴェルティカが言った。


「申し訳ありませんが、当方はその特別枠での参加となっております」


「へっ? 特別わくぅ?」


「そうです」


「なんの冗談だよ。こんなヒョロヒョロが特別枠だと?」


「ええ。申し訳ありませんが、そこしか出場枠が御座いませんでしたので」


「けっ。もしかして…あんた貴族か?」


「そうですが何か?」


「貴族のお遊びで参加ってなよくある事だ。だけどもっと立派な剣士を雇わなかったのかと思ってな」


「彼は立派な『戦士』です」


「まあいい。だがあんたらみたいに、金でいい出場枠を取るのが一番ムカつくんだよ。それに知ってるか? この大会は皆が命がけでやってるからな、死人だって出るんだぜ。せいぜい自分のおもちゃが死なねえことを祈るんだな」


「肝に銘じておきましょう」


 そうして、そいつらは受付に行った。


「どうやら、血の気多い人がいるみたいね」


「感情が乱れれば、不利に働くという事を知らないのだろう」


「でも気合は入るんじゃない? 死に物狂いになるとか」


「気合?」


「そうね。いざという時の力みたいな?」


 どういうことだ?


《根拠のないノントリートメントの迷信です。条件と力量が合わさって、実力が勝る方が勝つ。もちろん運などというランダム条件もありません。全てはその時の条件を全て制御しきった者が勝ちます》


 それなら理解できる。


 すると受付が俺達を呼ぶ。


「いきましょ」


 受付でヴェルティカが言った。


「ヴェルティカ・ローズ・パルダーシュです。出場者を連れてきました」


 そう言っただけで、周りの出場者やお付きたちがざわついた。


「お、おい。パルダーシュって言やぁ…」


「ああ。魔獣に滅ぼされた辺境伯の」


「なんで王覧武術大会になんかいるんだ?」


 それは出場者だけではなく、受付の女もだった。


「あなた達が…」


「オーバース様の出場枠を空けていただきました」


「わかりました。では登録をご本人様がお願いします」


 そこで紙を出される。どうやら名前とお付きの名前、そして自分の身分を書くらしい。


 俺はまず自分の名前を書いた。そしてヴェルティカにペンを渡すとヴェルティカが下に名前を書く。そして俺にペンを返して来たので、俺が身分を書こうとするとアイドナが言った。


《人心掌握のスクリプト、及び演算処理を発動します》


 なにをする?


《まず奴隷と書いてください》

 

 ん? 皆は騎士と書けと言っていたぞ。


《それでは意外性がありません。今回はどうしても王の目に留まる必要があります。さらにあなたが、どれほど驚異的な人間かと知らしめる必要があるのです。出来るだけ油断を誘ってください》


 わかった。奴隷でいいんだな?


《はい。それ以上のギャップは無いでしょう》


 俺はさらさらと身分を書いた。


 それを係に渡す。


「はい。名はコハク、支援者はヴェルティカ・ローズ・パルダーシュ様。それで…身分は…奴隷!?」


「そうだ」


 するとヴェルティカも驚いたように言う。


「コハク?」


「本当の事だ」


「分かりました。ではこれで登録いたします」


「頼む」


 俺達が受付を済ませて、奥に進んで行くとくすくすと笑いが起きる。


「奴隷だってよ」


「マジかよ。やっぱり辺境伯が落ちぶれたってのは本当の事だったんだな」


「俺、奴隷と戦うのやだなー」


 そんな事を耳にする。


「よかったの? コハク」


「最善の選択だ」


 すると係員の女が近づいて来る。


「恐れ入りますが。オーバース様の枠でお出になられるのですね?」


「そうです」


「では相部屋ではなく、個室が用意されていますのでこちらへ」


「わかりました」


 俺が奴隷だという話を聞いているとは思うが、態度を変える事無く応対してくれた。そして個室に案内された時に女が言う。


「あの…」


「はい」


「主喰らいはパルダーシュ様の客人なのですよね?」


「ええ」


「そうなんですね! やはりあの人は凄いのですか?」


 ヴェルティカは俺を見てから答える。


「ええ。彼は素晴らしいわ」


「やっぱりそうなんだー。今日のエキシビジョンにお出になるというから楽しみなんです!」


「そう…ではお楽しみいただけたらうれしいわ」


「はい!」


 そう言って女は出て行った。


「ボルトは人気ね」


「ボルトの名声が上がれば上がるほど良い。魔獣を派手に倒せばそれだけに印象に残る」


「作戦通りというわけね?」


「そうだ」


 すると外がにわかに騒がしくなってくる。


「どうやらお客を入れ始めたらしいわ」


「よし」


「いよいよね…」


「心配するな。さっきの雑部屋に居た連中なら誰にも負けん」


「うん。信じてる」


《では。未来予測演算に従い、勝ち進んで行ってください》

 

 了解だ。


 ヴェルティカと二人で待っていると係員が呼びに来た。


「失礼いたします。それでは出場者のお披露目となりますので、出場者は闘技場へとお越しください」


「分かった」


 会場に入る通路の方に向かっているとヴェルティカがいう。


「緊張して来るわね?」


「緊張するものなのか?」


「しない?」


「わからん。してないと思う」


《心拍数、呼吸、汗、筋肉すべて正常。不安感、焦燥感、集中力の低下もありません》


 そうか。


 そうしてヴェルティカを会場袖に残し、俺は他の出場者と共に闘技場へと足を踏み入れるのだった。 

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