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第八十八話 覚悟を決める

 あれから俺は身体強化鎧を開発し改良を加え続け、時間が出来たら風来燕と大型の魔獣狩り遠征に行った。そしてそれらの行動すべてを、アイドナは素粒子AIに学習させている。


《多重列計算、素粒子シミュレーション、ノイズ修正により勝ちパターンのアルゴリズムが出来つつあります。不確定要素を極限まで想定する事で、不測の事態にも対応できます》


 以前パルダーシュで見た、あのドラゴンとデーモンとやらはどうだ? 


《既に計算済みです》


 よし。


《実戦思考、戦略思考、ノントリートメントに対しての思考、魔法陣の解析を網羅しました》


 俺の身体もかなり強化されたみたいだ。


《強力な魔獣を倒すに十分な筋力と、保有魔力があります》


 俺が部屋でアイドナと話をしていると、メルナが俺を迎えに来た。


「コハク。出発だって」


「わかった」


 俺は新開発した鎖帷子を着て上着を羽織り、両方の腰に片手剣を収めている。従者の格好をしているのは、従者としてヴェルティカについて行く為だ。メルナと一緒にエントランスに下りると、オーバースとビルスタークが話をしていた。


 俺を見たオーバースが言う。


「来たか」


「お待たせしました」


「言葉を覚えたようだな。だが俺には必要ないぜ、そう言うのは陛下や王都の貴族の前でやってくれ」


「わかった」


 そしてフィリウスとヴェルティカがやって来た。


 オーバースはそれにも声をかける。


「それでは参りますか。次期辺境伯様」


「やめてください将軍。私はあなたの弟子です」


「まあ、ここではな。だが辺境伯となったらそうはいかない」


「わかっています。それでも私はあなたの弟子です」


「では行くとするか」


 そう、王にこの現状の報告をせねばならず、それ如何で辺境伯領の統治についての沙汰があるのだ。ようやく王宮からの通達があり、パルダーシュ家が王様に話す事が許されたらしい。フィリウスとヴェルティカはパルダーシュの代表として、ビルスタークとアランが護衛としていく事になる。更に俺とメルナが従者として行き、メルナはマージ魔導書を持参していく。さらにヴェルティカから願い出て、風来燕がパルダーシュの客人として連れていかれるのだ。


 綺麗な服を着たボルトが言う。


「おりゃ、こんな服着たことねえんだけどなあ」


 だがフィラミウスが言った。


「あら。似合ってるじゃないの。馬子にも衣裳だわ」


「そ、そうか?」


 フィラミウスとガロロとベントゥラはいつもの恰好をしていて、王都の近くについたら着替えるんだそうだ。なんにせよボルトは、最近世間を騒がしている”主喰らい(ぬしぐらい)”なのだから仕方がない。主喰らいというのは、冒険に行くたびにその地の主を狩ってくるようになったから付けられた二つ名だ。今は主喰らいのボルトとして名を馳せている。そんな奴がみすぼらしい恰好はしていられないと、満場一致でいい服を着せられたのだ。


 オーバースが乗る馬が先に進みだし、護衛の王都騎士と俺達がそれについて行く。馬車の中でヴェルティカが言う。


「お兄様。どうなりますでしょうか?」


「どうなるか。お家取り壊しで、他の貴族が繰り上げになるかもしれない」


「あり得ますね」


「没落貴族になるかもしれん事は覚悟しておけ」


「はい」


 俺が尋ねる。


「没落するとどうなる?」


「まあ財産を失い、人々から見下される立場になる。人によっては新たな道が開ける者もいれば、ある者は犯罪に手を染めたり借金に苦しんだりする。貴族時代の暮らしを維持する為に、金を借りまくっていずれは崩壊した、と言う事はよく聞く」


 だがメルナが背負っているマージが言う。


「なあに。私らは新しい産業を手にしたからね、没落したところでくいっぱぐれる事は無いさね。いや…むしろ、強化鎧を売りさばいて世界を変えちまうか」


 それを聞いてフィリウスが言う。


「そんなことをしたら、王家に目を付けられるよ。ばあや」


「ま、そうなりたくないなら、皆で気張るしかないねえ。そしてここまでやって来たのは、その為の準備だよ。それほど悲観するものではないさね」


「「はい」」


 それから俺達の馬車は一つ目の峠を越えた。この山脈の一部でパライズバイパーを狩ったが、それ以上の魔獣はこのあたりにはいなかった。何事もなく峠を越えた辺りで休憩となる。そこで隊列が飯を食い一時間後にまた出発した。


 夜は王兵が大勢いるために、野営する事となり天幕で休むことになる。流石に王都の兵士は訓練が行き届いており、効率よく全ての準備がなされた


 そしてビルスタークが言う。


「すみませんお嬢様。目が見えない為に、お役に立っておりません」


「仕方ないわ。それよりもあなたが私の側にいてくれることが大事だから」


「今回の王への報告、どうなりますでしょうか?」


 ビルスタークとアランが不安そうな表情で、ヴェルティカに尋ねる。


「心配しないで。ばあやは自信があるみたいよ」


「オーバース様は、ただ面白いと言うだけで何を考えているのか」


「天命を待つしかないと、ばあやは言っているから心を決めてかかるしかないわね」


「我々パルダーシュ騎士団は、どのような沙汰が下されてもパルダーシュ家について行きます」


 するとアランも言う。


「そうです、お館様が切り捨ててもついて行きますよ」


「あてにしているわ」


「はい」


 皆は不安で仕方がないのだろう。王様からの言葉次第では、自分達の将来が大きく変わる。とりわけフィリウスが一番苦しいのだろうが、少しも苦しいと弱音を吐かない。


 そこで俺は皆に言った。


「ダメなら皆で逃げればいい。誰も知らない地まで逃げて、そこで強化鎧を売りさばこう。それで困るのはこの国だ。自分達が手放した物の大きさを、いつか知る事になるだろう」


 皆がキョトンとした。そしてヴェルティカが言う。


「ふふっ。その気持ちは分かるけど、絶対にこの身内以外がいるところで言っちゃだめよ。コハクが真っ先に処刑されてしまうわ」


「そうなのか?」


「だから決行まで黙ってて。ダメなら私はそれに賛成」


 するとフィリウスが言う。


「ヴェルは随分したたかになったな」


「あんなことを経験したら、したたかにならざるを得ないわ。お兄様」


 そしてビルスタークが言う。


「逃げる時は言ってください。我々騎士団が命に代えても逃がします」


「それは許しません。逃げる時は皆一緒です」


「王都の将軍たちはそれほど甘くはありませんよ」


 するとヴェルティカは言う。


「何を言っているの? ここにはオーバース将軍が警戒する、真の主喰らいがいるのよ」


 皆が俺を見た。だがなんて言っていいか分からない。


 なんていう?


《どこまでやるべきかを聞いておいたほうが良いでしょう》


「何人殺せばいい?」


《それは言葉が違います》


 アイドナに言われ初めて気が付いた。フィリウスもヴェルティカも、ビルスタークもアランも俺の言葉にあっけに取られていた。だがメルナが言う。


「マージが。邪魔者は全部だって言ってるよ」


「ばあや…」


 すると魔導書のマージが言った。


「みんなもよく耳をかっぽじってお聞き。天を覆す力がこの子にはある。そしてその力をパルダーシュの為に使ってくれると言っているんだ。倒すべきものは全てねじ伏せる。それでいいじゃないかい? あたしゃ本気だよ」


 すると皆の目の色が変わった。フィリウスが言う。


「すまないばあや。私も腑抜けていたようだ。コハクが覚悟を決めているというのに情けない」


 そしてビルスタークも言う。


「目が覚めた」


「ですね。団長」


 最後にヴェルティカが言った。


「きっと、私がコハクを見つけた時に全ては決まっていたの。そう預言書には書いてあったから。だから私はコハクを、そして仲間を信じるわ」


「行くしかないな」

「行きましょう」

「ですね」


 そして新たな決心を胸に、それぞれが自分の天幕に戻っていくのだった。

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