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第八十六話 伝説賢者の未来予測

 俺達が都市に戻ると、たちまち大騒ぎになってしまった。市民や冒険者達が集まって来て、俺が狩ったパライズバイパーを囲み騒然としている。直ぐに正門前にやって来た新米ギルド員が、ボルトたちに話を聞いていた。


「あなたがた一隊のパーティーでこれを?」


「あ、ああ。そうだ、まあ運が良かったというかなんというか、何かで傷ついて自分の麻痺毒にやられていたみたいだ。だから俺達だけでも仕留める事が出来たんだ」


「そもそも、ここまでどうやって運んで来たんです?」


「辺境伯様が馬車をお貸しくださったのでな、俺達が支えながら一緒に運んで来たんだ」


「そうですか…とにかくギルドまで! 直ぐに査定をして引き取らさせていただきます」


「よろしくたのむわ」


 するとベントゥラが言う。


「んじゃ、俺が立ち会うよ」


「頼む」


 そうして俺達はギルド員について行く。既に他の地域からの増援で、このギルドも通常営業が出来るまでになっている。既にギルド内の冒険者達にも話は伝わっているようで、風来燕たちが中に入っただけでざわついた。ボルトたちは気まずそうにしているが、とにかくしらばっくれてもらうしかない。


 そこで俺はボルト達に言った。


「じゃあ、任せた。俺はヴェルティカに報告しに行く」


「わかった! 任せてくれ!」


 ここから先は冒険者である彼らに任せるしかない。俺が辺境伯邸に到着すると、直ぐにメルナが飛びついて来た。


「コハク! お帰り!」


「ただいま。ヴェルティカは?」


「執務室にいると思うよ」


「わかった」


 そのまま執務室にあがり、ドアをノックすると中からヴェルティカが顔を出した。


「お帰りなさい」


「ああ」


「話を聞くわ」


 メルナと共に中に入ると、魔導書のマージがテーブルに置いてあった。どうやらヴェルティカはマージと話をしていたみたいだ。


「おや、帰ったかい?」


「ああ。いろいろと言われたとおりにやったぞ」


「獲物はなんだった?」


「パライズバイパーだ」


「なんだって? あんな大物に遭遇したのかい?」


「やはり何かが狂っているんだと思う」


「それは難儀だったね。それでどうなったんだい?」


「仕留めた。俺単体でどうにかなった」


「ふふふふ。想定した通りだね。鎧はそれほどに良かったかい?」


「かなりの物だと思う」


 俺は兜を脱いでテーブルに置いた。


「風来燕の連中はどうだった?」


「ぜひ売ってくれと食らいついたぞ」


「だろう? 高額だと伝えたかい?」


「もちろんだ」


 ほとんどはマージが想定した通りになった。アイドナの補足もあったが、俺は正直な所かなり驚いている。マージはこうなる事が分かって俺に指示したのだ。


「パライズバイパーを単体で仕留めたとなれば、素材だけでもかなりの金額になるからねえ。分割で売ってくれとか言ってこなかったかい?」


「それも言っていた」


「なら、換金したバイパーの金で、強化鎧一体の三分の一だとでも言っておきな」


「わかった。それほどまでに高額か?」


「何言ってんだい。それでも安いくらいだよ。その鎧に刻まれている魔法陣は絶対に真似できない代物さね。それを鉄で覆い隠しつつ、効果を殺さないように作っているんだ。どう考えても国宝級の魔道具なんだよ。それを一冒険者が買うんだからね、それでもおつりがくるくらいだよ」


「そうか」


 俺にその価値は分からない。だがマージはそれだけ自信をもっていいと言っている。あの複合魔法陣は見られたところで再現は無理なんだそうだ。マージの類まれなる魔法の知識と、アイドナのガイドマーカーと、身体調整のおかげで作られた魔道具と言う事になる。たしかに世界に唯一といって良いのかもしれない。


 それを聞いてヴェルティカが言った。


「さすがは、ばあやね。辺境伯邸の資金源になる魔獣をコハクが狩って、それを冒険者の風来燕に換金させて、国宝級の鎧を売ってやるって恩を着せて、結局は当家の資金になるんだから凄いものだわ。コハクの手柄も隠す事が出来るし、一石二鳥どころの騒ぎじゃないわね」


「おや? ヴェルもこれからパルダーシュを支えなければならないんだ。これくらいは考えられるようにならないとだよ。困ったときは何でも使えだ」


「お父様が生きてたら、また業突張りって言われちゃいそう」


「清廉潔白に政治は出来ないって言ってたんだけどねえ、あんたの父親は頑固だったから」


「私は、ばあやのおかげでしたたかになったけどね」


「まあ、フィリウスには言うんじゃないよ。あの子は真面目だからねえ」


「わかってるわ」


「だけど、これでじわりと、その鎧の噂は広がるだろうねえ」


「風来燕に口止めはしたぞ?」


 するとマージが笑う。


「ふふふ。人の口に戸は立てられぬものさね」


 恐れ入った。マージはそこまで考えて、風来燕に念を押したのだ。


 するとアイドナも感心したように言う。


《口止めせねば一気にバレますし、急激に広がれば価値はがた落ちします。それを考慮したうえでの行動です。ノントリートメントの性質を熟知しているが故の知恵でしょう》


 生存していくうえで必要になりそうだな。


《既に学習しました。ノントリートメント達の変動思考を加味、認識予測の幅を広げつつ、一定の規則性も考慮して言語パターン化します》


 ああ。


 そしてマージが言う。


「町は騒ぎになっているようだねえ」


「パライズバイパーが思いの外デカかったからな。目立ちまくっていたぞ」


「なら。間もなくオーバースが屋敷にやってくるねえ」


 マージが言い終えた時だった。


 コンコン! ドアがノックされメイドが言う。


「オーバース様がお見えです」


 俺はまた感心してしまう。アイドナでも推測していない事を、推測する目の前の魔導書の思考能力に未知数の可能性を感じる。


 俺とヴェルティカは、メイドと共に部屋を出てオーバースが待つ応接室に向かうのだった。

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