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第八十五話 巨大すぎる大蛇狩り

 オークを狩ってからの俺達は、小型の魔獣にしか遭遇出来ないでいた。前に街道でトロールに遭遇したことを伝えていたが、本来はそんなことはあり得ないらしい。トロールは森の奥に生息しており、人の気配のするような場所には出てこないらしいのだ。


 そこでボルトが言う。


「餌で釣るか」


「餌?」


「オークを三体も手に入れたんだ。そのうち一体を使う」


「わかった」


 しばらく進むと、山に向かって荷馬車ごと入れるようなけもの道が見えた。ベントゥラがそれを見て言う。


「ここがいい」


「よーし! 罠を仕掛けるぞ!」


 俺達はまたガロロを荷馬車の見張りに残し、オークの死骸を引きずって山に入った。山の奥に行くと木々が倒されたような跡がある。


 するとベントゥラが言った。


「ボルト。このあたりがいい。水場も近くにある」


「よし! コハク! 罠を仕掛けるぞ!」


「わかった」


 オークの死骸を水辺に置いて、ボルトが体に傷をつけ血を出した。すぐにその場を離れロープを引っ張って近くの枝に引っ掛け、そこにフィラミウスが鈴をつける。


「それでどうする?」


「待つだけだ」


 随分、元始的なものだった。だがいずれにせよ血の匂いで、なんらかの魔獣は寄せられるだろうと言っていた。俺達は離れた場所でただひたすら待ち、それでも反応がなかったためベントゥラが言う。


「場所変えるか?」


「だな」


「オークを一体、ダメにしちまった」


「仕方あるまい」


 俺達が、ガロロの待つ荷馬車に戻ろうとした時だった。

 

 チリチリーンと鈴の音がなる。


「お、待ってた甲斐があったみたいだな」


 俺達がオークを置いた場所に見に行くと、そこにはトロールが居た。どうやらオークを見つけて、もって行こうとしているところだった。


「どうする?」


「あいつはオークよりはるかにデカくて力が強い。だが輪をかけて馬鹿なんだ。だからやり方はオークの時とほぼ一緒だよ」


「わかった」


 だがベントゥラが俺達を制する。


「いや、まて!」


「なんだ」


「臭いがするなあ…」


 俺が聞く。


「どうしたベントゥラ?」


 すると代わりにボルトが答える。


「他にも魔獣が居そうだって事だ。一気に複数の魔獣を相手にするのは危険だ」


「わかった」


 俺達がトロールの様子を見ていると、トロールはオークを置いて走り出した。するとそこに、恐ろしい龍のような顔をした大蛇が現れる。それはトロールより大きく速度も速いようで、あっという間にトロールに迫りバグン! と噛みついた。


 見る間にトロールが巻きつかれて、ボキボキと骨が折れる音がする。


 するとベントゥラがいう。


「あんなもん。そうそうお目にかかれないぜ。まさかこんな浅い場所にいるなんてな」


「どんなやつなんだ」


「ありゃパライズバイパーって言う、大蛇の一種だ。さっきトロールが一瞬動きを止めたろ?」


「なんでだ?」


「麻痺毒を放ったんだよ。それをかぶって体の動きを止めたんだ」


「そうか。ならあの蛇を狩ろう」


 すると三人が信じられないような表情で俺を見た。


「コハク。あれはAランクでも厳しい奴だぞ。狩るならばパーティー合同で部隊を編成しなければならないやつだ」


「そうなのか?」


「見るからにヤバいだろ」


 いつの間にか巨大なトロールが、バリバリと噛み砕かれて飲み込まれるところだった。


 あれをどうにかしたいが…。


《他に何か能力がないか聞いてください》


「あー、麻痺毒以外には何かあるか?」


「あの背びれはまるで研ぎ澄まされた剣なんだ。あれでやられたら人間なんか真っ二つだぜ」


「他には?」


「敏捷性が高い事と、締め付ける力が強いって事だ」


名前 パライズバイパー

体力  4800

攻撃力 1970

筋力  5200

耐久力 3200

回避力 32

敏捷性 87

知力  19

技術力 28 


 体力、攻撃力、筋力、耐久力が人間よりも二桁は大きいな。


《ですが、所詮は獣。余裕でしょう》


 本当か?


《強化鎧の実験に最適な負荷かと》


 わかった。


「みんなは手を出すな。あれは俺が仕留める」


 それを聞いてボルトが言う。


「おいおい! コハク。いくらなんでもそりゃ出来ない相談だ。お前を見殺しにする事になる」


「いや。俺は死なん」


 フィラミウスが言う。


「せめて支援魔法を」


 そこに俺が答える。


「敵の攻撃を受けずに、急所を突けばいずれは倒れるだろ? ようは当たらなきゃいいんだ」


「おまえ、そんな簡単に」


「と、話してる間に逃げられる。スマンが俺がダメなら逃げてくれ」


「おまっ」


 俺はすぐさまパライズバイパーに向かって走っていく。既に敵が気づかないルートを、アイドナがガイドマーカーで記してくれていた。俺はそれに沿って走っていき、湖の向こう側にある木によじ登っていく。


 羽のようだ。


《逃がすわけにいきませんので、ランドボアの脚力強化を更に増強しました》


 了解だ。


 そして想定通りに、トロールを飲みこんだパライズバイパーがこちらに向かって来た。


 予測演算通りだな。


《剣を構えてください》


 アイドナが想定した通りに、この木の下をパライズバイパーが通過しようとする。俺はそのまま落下して、背びれが始まる手前の首の付け根に向けて剣を突き刺す。


 ギィェェェェェェッェェ!


 いきなり首を刺されたパライズバイパーは、俺を振り落とさんとブンブン首を振った。握る手は強化されているので全く外れる事は無く、ぶら下がる為に角度をつけてさし込んだ剣は抜けなかった。


 ピュシャッ! ピュシャッ! と何かを吐き出しているが、それが麻痺毒なのだろう。しかしアイドナが計算したこの場所には、その液がかかる事はななかった。


《では。空いた右手の剣で、こめかみの後ろにあるエラにさし込んでください》


 ガイドマーカーが記され、俺の剣を中にさし込むとブチブチと何かが切れていく。あばれれば暴れるだけ、中の繊維がちぎれていくようだ。するとパライズバイパーの動きが、痙攣したようになってくる。


《麻痺毒の管を切りました。頭周辺の半分は麻痺しています。一旦剣を抜いてください》


 ブンブンとフラれる頭に、剣一本でしがみつきながらも冷静に次の指示を受ける。


《ここから瞬発力の勝負です。左手でつかんだ剣に足をかけて頭めがけて飛び、麻痺していない方の目に両手を使って剣を刺しこんでください》


 わかった。


 グイっと左手一本で体を持ち上げ、剣に足をかけて体制を決める。勢いよく振られているので、足を滑らせれば失敗する。だがそこでアイドナが言う。


《あと、五秒で体制が整います。4、3、2、1》


 俺がグッと剣を踏みしめて飛び上がると、丁度パライズバイパーの頭の真上に来た。ガイドマーカーが示したところに、両手でつかんだ剣を深々と入れる。それは目玉に深々と突き刺さり、根元までしっかりと埋まった。


 バイパーはたまらず、ブン! と俺をふりはらう。俺はそのまま湖の表面を滑るように飛び、地上にゴロゴロと転がった。


《ナイフを》


 アイドナの指示通り、俺は腰のナイフを抜き去った。


《心臓の位置を確定》


 俺の視界に、サーモグラフィーが現れ、鼓動を続けるパライズバイパーの心臓が映し出された。


《走り込みを。更にレベルを上げます》


 ビュッ!


 一瞬にしてパライズバイパーにたどり着くと、アイドナが言う。


《心臓の位置に届くまで、3、2、1》


 痺れが回ったのか、パライズバイパーがごろりと体を回転させた。目のまえに心臓の鼓動が見える。


《腹側はそこまで固くありません。縦に振って割いてください。オーガコマンドの力を使います》


 ビュン!


 ばくり!


 皮と肉が裂けて、目の前に鼓動する心臓が出て来た。再びガイドマーカーが出たので、その通りにナイフを刺しこんで心臓を縦に裂く。


 ブッシャァアアアアアアア!


 勢いよく血が噴き出し、俺の黒い鎧を血に染めていく。


《離脱。湖に入ってください》


 鎧を着たまま湖に身を投げると、浴びた血が湖に溶けだした。そのままガイドマーカーに沿って、湖底を歩いてザバッと地上に出る。


 ぴくぴくと動くパライズバイパーの心拍が表示された。


《20、19、18、10、5、3、1》


 ずっずぅぅぅぅん!


 パライズバイパーが動きを止め、その巨体を晒した。俺が体に近づくと、莫大な魔力が鎧を通じて流れ込んで来る。


《強い魔力です。そして量が今までの魔獣とは比較になりません》


 そうか…。


「おーい!コハク!」


 そこにボルト、フィラミウス、ベントゥラが来た。


「倒せたようだ」


「マジで一人でやりやがった。それは鎧のおかげか?」


「そうだ」


「そうか…」


 目の前に横たわる、巨大なパライズバイパーを眺め皆が呆然としていた。だがようやくボルトが言う。


「流石にもう帰ろう。こんな大物を狩ったんだ。オークなんて必要ないぐらいだ」


 そして俺は念を押して言う。


「くれぐれも、ボルトたちが狩った事にしてくれ」


「こ、この素材を全部くれるのか? こんなん、しばらく働かなくても食って行けるぜ」


「忘れたのか? パルダーシュ家の鎧は安くない」


「あ…なるほどな。んじゃありがたくいただいておくか」


「そうしてくれ」


 そうして俺達の一回目の遠征は終わった。この巨体は本来、大勢がやってきて解体して運ぶのだそうだ。だが俺はパライズバイパーの純度の高い魔力を吸収してしまった。アイドナが言うには、辺境伯領まで俺が引っ張っていっても、ほとんど魔力を消費しないらしい。


「じゃあ。これは俺が持って行く」


「ひ、一人でか?」


「恐らくこのくらいじゃないと、鎧の試験にならん」


「わかった」


「だが一言だけ伝えておく。この鎧は俺専用なんだ。ここまでの戦果は期待しない方がいい。まあせいぜい十分の一程度と考えていいだろう」


「十分すぎるぜ」


「じゃあ、帰ろう」


 それから俺達は巨大なパライズバイパーの頭部に穴を開け、そこに縄を通して俺が引っ張り出す。流石に走ると縄が切れるので、ゆっくりと山を下って行くのだった。

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