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第八十二話 王との謁見までにするべき事

 俺達は領主邸の執務室に居た。ヴェルティカと一緒に、ビルスタークとアランそして俺が、フィリウスに強化鎧の報告をしている。そしてフィリウスは俺達の働きを、とても喜んでいるようだった。だが少しして、伏し目がちにぽつりと言った。


「だが…難しい所もあるだろうな」


 ヴェルティカも苦い顔をして頷く。


「はいお兄様。このような状況では虫が良すぎると言われそうです。ですが何とかしたいものです」


「だな。如何にゴルドス国を追い払ったと言っても、それは非公式の事実。オーバース様が、陛下に良いように言ってくださってもその証拠がない。それだけ鮮やかに追い返し過ぎたと言う事だ」


 ヴェルティカが俺を気にして言う。


「あの時は、あれ以上の最善策は無く」


「分かっている。むしろコハクと皆には本当に感謝している。町と民を救ってくれた事と、この国を守ってくれたのだからな」


「はい。ですがこのようなボロボロの状況では、嘘に聞こえてしまうでしょうね?」


「そう言う事だ。まあ…オーバース様への陛下の信頼は厚い。その一点に賭けるしかないが、いささか分が悪いだろう」


「はい」


 執務室に沈黙が訪れた。どうやらそれはビルスタークもアランも想像はしていたらしい。確かに俺はゴルドス軍を追い払ったが、その痕跡が無さすぎてリアリティが無いのだ。そしてビルスタークが言った。


「この状況の報告もあります故、陛下への御目通りは必ずあるでしょう。ですが、そこでいきなりこんな話をしても、後にしろと言われるでしょうね」


 全員が頷く。


 なるほどな。ノントリートメントの世界は、人々に共有がかからないが故に事実が事実として伝わらないようだ。


《通信手段のない未開の文明ですから仕方ないでしょう》


 打開策はないだろうか?


《今のところは》


 AIの判断が使え無いと言う事は、結局オーバース将軍に委ねるしかなさそうだ。しかしながら、この都市の復興の為には何としても成功させねばならない。会議を終えて、俺はすぐにメルナとマージが待つ秘密の館へと直行する。


「おかえり!」


「ただいま…」


 するとマージ魔導書が俺の声を認識して言う。


「なんだい。浮かない声だねえ、上手くいきそうにないのかい?」


「王様とやらに、すんなり話が通らないそうだ」


「なーんだそんな事かい。なら別に全く気にする必要は無いねえ」


「そうなのか?」


「そうさね」


「何をすればいい?」


「やるこた、二つ」


「なんだ?」


「一つは強化鎧をどんどん改良して作り続ける事。もう一つは、コハクが周辺地域に行って冒険者と共に強い魔獣を狩りまくる事さ」


「強い魔獣を狩りまくる?」


「コハクの特性が見えたからねえ。面白いスキルが身についてるんだから、それをとことん磨く事が突破の鍵さね」


 マージが自信満々に語っている。俺はそれを信じる事にした。


「わかった。その二つだな」


「そう。まずは試験もかねて、自分専用の黒い鎧でも着て、風来燕に連れてってもらいな」


「わかった」


 その日の話し合いはそれで終わる。


 そして俺はその夜に、風来燕達に会いに酒場に行った。町は次第に活気を取り戻しつつあり、戻ってきた人々と冒険者、物資を運ぶ商人と王都の騎士でにぎわっている。軒先にランプが灯っているところは、酒場として営業をしているらしい。酒場を覗くと風来燕の連中を見つけて店に入る。


「おお! コハクじゃないか! 珍しいな!」


「探していた」


「俺達をか?」


「そうだ」


「まあ、こっちこいよ! 一緒に飲もうぜ!」


「ああ」


 俺が席に座ると、フィラミウスが俺の隣りに座る。いつもの冒険者の格好ではなく、少し胸の開いた黒い服を着て頬を赤く染めている。


「あら。コハク、一緒に飲んでくれるの?」


「そうだ」


 するとフィラミウスは手を上げて店員に頼む。


「おねえさーん。こちらにエールを持って来て頂戴」


「あいよ!」


 ジョッキがすぐに運ばれてきて、風来燕がそれを持った。俺も同じようにジョッキを持つとボルトが言う。


「都市を救った英雄にカンパーイ!」


「「「カンパーイ!」」」


 俺もジョッキを合わせてエールを飲み干した。


「いい飲みっぷりだねえ!」


 フィラミウスがニッコリ笑っている。


「おねえさーん。こっちにいい酒持って来てよ」


「あいよ!」


 しばらくすると、酒瓶とコップがテーブルに乗った。皆がコップを持ち、それぞれのコップに酒を注いだ。


「かんぱーい」


「「「カンパーイ!」」」


 今度の酒は強かった。するとアイドナが言う。


《なるほど。アルコール度数が強めです。身体の感覚が鈍りますので、早急に分解をして無効にします》


 そうか。


 俺はアイドナにさせるままにする。そしてベントゥラが言う。


「コハクは市民のあいだじゃ有名だぜ。もちろん辺境伯様から箝口令が敷かれているから、公には話をしないが、あの時一緒に居た市民の口に戸は立てられない。それが証拠にみろよ。みんなチラチラとお前の事を見てる。お前は英雄なんだよ」


「俺が英雄かよくわからないが、目立つのは良くない」


 するとガロロが言う。


「どうやら政治的な絡みもあるようじゃな。せっかく命がけで働いても、報われんのう」


「そんなことはどうでもいいんだ。それより頼みがある」


 するとフィラミウスが、俺に寄りかかって来て言う。


「あらあ。コハクの頼みなら聞いちゃうかしら」


「気を付けろよコハク。骨までしゃぶられるぞ」


「あら…ボルト。聞き捨てならないわね」


「冗談だよ。で、頼みってなんだ。コハクの言う事なら聞いてやるぜ」


「俺も魔獣討伐に連れて行ってくれ」


「ああ。それで?」


「それだけだ」


「なんだよ。それだけかよ」


「それだけだ。後は何もいらん」


「辺境伯様のお付きだし、金に困ってるって訳じゃなさそうだな」


「金は要らん。魔獣の取り分はそっちでやってもらっていい。だが一つ頼みが、大型魔獣の止めを俺にさせて欲しい。もちろんトドメだけさすのではなく、一緒に戦うが」


「おいおい。自分が危険な思いをして、分け前をいらねえって言うのか?」


「いらん。とにかく強い奴をやる」


「「「「……」」」」


 みんなが沈黙する。俺はそんなにおかしなことを言っているのだろうか? そのつもりはないが。


「ダメか?」


「問題は無い。だが俺達だって二つ名があるくらいの冒険者だ。コハクに、おもりをしてもらわなきゃならないわけじゃないぜ」


《なるほど。冒険者のプライドのようです》


 なんて言えばいい?


《もちろん、おもりをするつもりはない。むしろ魔獣狩りの基礎を教えてくれと》


 わかった。


「あんたらのおもりをするつもりはないよ。それよりも魔獣狩りの基礎を知らないんだ。それを教えてくれたらありがたい」


「ははははは! オーガコマンダーをソロで狩った奴の言う言葉かよ!」


「本当なんだ。俺は全てが初めての戦闘なんだ」


「「「「……」」」」


 皆がまた沈黙する。


「なんだ? 変な事を言ったか?」


 するとガロロが笑って言う。


「お主が、本物の勇者なんじゃないかと疑ってるところだ。コハクのような奴を見たことが無いのでな。まるで御伽噺から出て来たような事を言うからじゃ。ゴルドス軍を追い払った奴の言葉とは思えんのじゃ」


「違う。だが皆より戦いの数は圧倒的に少ないのは確かなんだ」


 俺は本気で言っている。というのも、皆の動きをアイドナに覚えてもらうのが目的だ。出来るだけ多くの戦闘パターンを吸収しておく必要がある。


「「「「ぷっ! あはははははは」」」」


 今度は皆が笑っている。ノントリートメントの行動は全く読めない。


「いいぜ! じゃあ明日から行こう!」


「俺はフルプレートメイルを着てくるがいいか?」


「はあ? そんな重てえ物を着てきたら、かえって危ねえぜ」


 いちいち話が止まるので、俺は本当のことを言う。


「賢者様からの試練なんだ」


「なるほどな。それで合点がいった! ならそれでいい! 修行に付き合えってこったな!」


「そういうことだ」


 どうやら賢者という肩書は、こう言う話を通すのにもって来いらしい。マージのおかげで話が通った事に感謝するのだった。

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