表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/304

第七十九話 AI製の強化型オートフルプレートメイル

 俺達はマージの勧めで、辺境伯邸の外にある秘密の作業所へ移動した。ヴェルティカとメルナと俺の三人が来たのは、古ぼけた屋敷の前。


 メルナが言う。


「幽霊屋敷みたい」


 するとマージが答えた。


「失礼だねえ。まあ…全く手入れしていなかったからね、そう見えるのも無理はないさね」


 俺達が足を踏み入れると、その建物は蔦に覆われていた。草をかき分けて玄関に行くと、マージがメルナに言う。


「この魔導書をドアにかざして魔力をそそぎな」


「うん」


 魔導書をドアにかざしメルナが魔力を入れる。するとカチリと音がした。


「開いたわ」


 ヴェルティカがドアを開くと、中は比較的綺麗だった。埃をかぶっているところもあるが、何処かが壊れているような様子もない。あの魔物の襲撃でも、この建物は被害を被らなかったらしい。


「この地下さね」


 俺達が中に入っていくと、地下に続く階段が見えて来る。


「メルナ。そのランプに魔力をそそぎな」


「うん」


 メルナが言われたように壁に備え付けたランプに魔力を注ぐと、地下に続くランプが全て灯った。


「凄いな」


「魔導の館さ」


 俺達が地下に降りると部屋があり、そこには様々な研究道具が置いてあった。そこは石造りの部屋の地下で、ランプのおかげで明るく照らされている。かつ天窓のあたりからも外の光が降り注いでおり、それほど地下という雰囲気では無かった。


「ここでやるのか?」


「そうだよ。さあみんな背負子を下ろしな」


 俺とヴェルティカとメルナが、背負って来た背負子を下ろす。中にはいろんなものが詰め込んであった。その口のひもを緩めて出す準備をする。


「いいかい?」


 マージが言って俺達が応える。


「「はい」」

「ああ」


「この事はくれぐれも外に漏らすんじゃないよ。ここだけの秘密にするんだ」


「「はい」」

「わかった」


 そうして俺達は背負子から鎧やスクロールを取り出していく。それをマージが指示をするとおりに並べて行き、全て並び終えると部屋一面に広がった。


「さて始めようかねえ。ヴェルティカはコハクの補助を、メルナは必要な所で魔力を注ぐんだ」


「「はい」」


 俺は彫金師が使うノミと金づちを持って、さっそく最初の籠手に向かって立つ。マージがパラパラとめくられ、鎧を動かす為の魔法陣を出した。そしてマージが言う。


「本当に下書きはいらないのかい?」


「いらん」


「本当かねえ」


「本当だ。じゃあ集中する」


「まあ…やってみな」


 そして俺は表面上黙る。


《既に予測演算で想定される魔法陣の構築は終了しております。ガイドマーカーを出しますので、確認してください》


 わかった。


 俺の目に映る籠手の内側に、魔法陣が映し出された。マージが記した鎧を動かすものと身体強化を併せ持つ、アイドナオリジナルの合成魔法陣だった。


《力加減。及び正確性を維持する為に、体の制御をこちらにお渡しください》


 やってくれ。


 すると俺の手先が自動で動き出し、ノミと金づちでカンカンと魔法陣を彫る出した。正直なところ俺は何もしていない。それから一時間もしないうちに籠手の魔法陣を彫り終える。


「出来た」


「もうかい!」


「メルナが軽く魔力を注いでみてくれ」


「うん」


 メルナが魔力を注ぐときっちりと輝いて、それが間違いなく稼働しているのがわかる。


「次は二の腕だ」


「本当に動くのかねえ…」


 マージが怪しんでいるが、俺は構わずに次の鎧に掘り出す。


 集中して掘り出す事三時間。手先から肩までの鎧に魔法陣を彫り終えた。


「右手は終わった」


「ほう。本当に動くのかねえ」


 そして俺はヴェルティカに言う。


「ヴェルティカも魔力が巡っているんだよな?」


「メルルほどじゃないけどね。プチファイヤくらいなら出せるわよ」


「ならこれをはめてみよう」


 そして右肩から手先までにかけての鎧をヴェルティカに装着した。


「重いわ」


「大丈夫なはずだ」


「わかった」


「じゃあ、意識をして鎧に魔力を注ぐような感じで」


「うん」


 ヴェルティカが集中する。するとその表情がみるみる驚いた表情に変わった。ヴェルティカがスッと立ち上がって、鎧をはめた腕をシュッシュ! と動かした。


「着けてないみたい!」


「よし!」


 それを聞いたマージが感心した。


「ほう! 凄い物だねえ」


 そして俺は厚めの木の板を持って、ヴェルティカに差し出した。


「これを軽くたたいて見ろ」


「わかった」


 ヴェルティカが俺に向かい、鎧をはめた腕をスッと突き出す。


 パコん! と厚めの木の板が割れる。


「えっ!」


「よし!」


「凄い! 私簡単に突き出したのに!」


「とにかく全身をやろう」


「そうね!」


 ヴェルティカがいったん鎧を脱ぎ、俺はフルプレートメイルの全ての内側に、同様の魔法陣を彫り進めた。全てを彫り終える頃には、夕日がさし込み始める。ヴェルティカがそのフルプレートメイルに身を包んでいた。


「じゃあ外に行ってみよう」


「そうね。軽いわあ」


 ガシャガシャと音をたてながら、ヴェルティカが歩いて行きその建物の外に出た。そしてヴェルティカが剣を持って言う。


「これで…その木を?」


「そうだ」


 敷地内に立っていた五十センチほどの直径の木を指して言う。


「わかった。少しは剣のたしなみもあるけど。こんな木が斬れるのかしら?」


「やってみてくれ」


 フルプレートメイルを着たヴェルティカが、スッと剣を構えた。そして袈裟切りにその木に振り下ろす。


 スカッ!


 ん? 空振ったか? と俺も思った。


 ヴェルティカも首を振っている。


「剣…通ったよね?」


 と言った時だった。ズズズと木がずれ込み、ズズーンと倒れた。


「き、切れた!」


「よし!」


「すごい! おねえちゃん!」


 なんと非力なヴェルティカが木を斬った。俺もその結果に驚いている。マージが俺達に聞いて来た。


「どうなった?」


「私、木を斬っちゃった」


「凄いものだねえ」


「ヴェルティカ。どうだった? 着心地は?」


「大きい以外は不都合はないわ」


「大きさを合わせればなお良いと言う事か」


「うん」


 とりあえず調整をする必要はあるが、アイドナが算出した魔法陣は正確に働いた。そのころには薄暗くなってきて陽が沈みかけて来た。


「日が暮れて来たな」


「そろそろ戻らないと怪しまれるわ」


 ヴェルティカにマージが言う。


「コハクとあたしをここに置いて行きな。二人は戻って、コハクは夜警をすると伝えるんだ」


「わかった」


「じゃあ、コハク。明日ね!」


「ああ」


 二人はそのまま屋敷を出ていく。そしてマージが俺に言った。


「さてと。鉄を溶かして内側に塗らねばね、ここからがまた難しい作業になるよ」


「そうだな」


「出来るだけ薄く塗らないと重量が倍になるからね」


「わかった」


 俺はマージに指示されるままに、炉に火を入れた。そしてそこにあった石に鉄の鉱石を乗せる。そのままその石を炉の中に押し込んだ。


「溶けるまで、しばらくかかるよ」


「そうか」


 そして俺とマージは、鎧を仕上げるために夜通しその屋敷に籠るのだった。全てアイドナが作業をしていく為、俺はほとんど何もすることがない。次の日の朝までには、調整し終わった自動鎧が完成した。朝になって俺達が待っていると、そこにヴェルティカとメルナが来る。


「どうなった?」


「すべて完了した」


「じゃあ着てみる!」


 そしてヴェルティカが、完成したフルプレートメイルを着るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ