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第七十六話 二つの波紋

 領主邸の入り口に作った壁を王都の兵が取り除き、出入りが楽になった。そこでオーバースと王兵の一部、ヴェルティカとフィリウス、俺とビルスタークが辺境伯邸に入る。他の王兵は、オーバースの指示で壊れた都市の見回りと、補修に必要な見積もり、そして市民達の状況を確認しに行っていた。


 オーバースは王都の騎士団の将軍らしく、ビルスタークとは古い知り合いらしい。その為話し合いはフランクに進み、都市の状況は細かく伝えられた。


「しかし…アークデーモンとドラゴンか…」


「そうですね」


「そのようなものが、何もない都市にいきなり出現すればたまったものではない」


「結界石が三つ壊されていたのですが、もしかするとゴルドス国の仕業ではないかと考えています」


「状況からすればな。だがその証拠があるまい」


「はい…」


「結界石は王都で用立てさせよう」


「可能でしょうか?」


「国民が困ってるのだ。当然の事、陛下も了承するだろう」


 そこでヴェルティカの兄、暫定のパルダーシュの領主となるフィリウスが言う。


「将軍。我々はこのまま辺境伯ではいられないと思われます」


 だがそれを聞いてオーバースが首を振る。


「それを決めるのは陛下である。勝手に決められる事ではない」


「はい…」


 そしてオーバースがそのぶっとい腕を組んで、ビルスタークに聞いた。


「魔物は消えていたんだよな」


「巨大な魔物は都市を壊滅させて消えました。我々が生き残ったのは奇跡のようなものです」


「それで小物が街に巣くっていたと」


「そうです」


「何かの術だろうか? 巨大魔獣を大量使役など聞いた事もないが、完全に街を焼き払うでもなく、この程度の被害でいなくなるとは」


「恐らく、ここを占領して使うつもりだったのでしょう」


「そうだろうがな、その手法よ。どうやればそのような事が出来る?」


「わかりません」


 それに関しては誰もわからないようだった。


 俺の脳内でアイドナが言う。


《操るものがいたのでしょう。都市を徹底的に壊さないのは利用するからで間違いありません。先に起きた同様の事件でも、同じ事が起きていたのでしょう》


 なるほどな。だがみんなはそんな事出来ないと思っているぞ。


《そういうあなたも、この世界では信じられない存在なのです》


 まあ…たしかに。


《別の世界の者、もしくは今までにない力を持った者がいてもおかしくはありません》


 そんな奴がいるかね?


《マージに話を聞きましょう》


 そうしようか。


 俺は従者として立っていたが、ヴェルティカに近づいて耳打ちをする。


「席を外したい」


「かまわないわ」


 俺はその部屋を出て、二階のメルナがまっている部屋へと向かう。ドアをノックすると、メルナが扉を開いてくれた。


「どうぞ」


「ああ」


 中に入ると、どうやら床に魔導書を開いていたようだ。メルナはマージに魔法を教えていてもらったらしい。


「マージ。ちょっといいかな?」


「あたしの時間はいくらでもあるさね」


「ああ」


 そして俺はメルナに振り向いて言う。


「すまないメルナ。ちょっと水とタライを持って来てくれ」


「うん!」


 メルナが出ていく。するとマージが言った。


「ひとばらいかい?」


「そうだ」


「さてと…話はなにかのう」


 そして俺はマージを拾い上げて、テーブルの上に置いた。


「この事は話すべきか迷ったんだが」


「あたしもこんな身だ。何でもお言い」


 そして俺は話す決心をした。


「わかった。実は俺はこの世界の人間じゃないんだ」


「…なるほどねえ。だけど、そう言われたところで、それほど驚きゃしないよ」


「そうか」


「預言書には、この世界の者だともそうじゃないとも書いていなかった」


 どうやらマージには、多少なりとも思い当たるふしがあるのかもしれない。


「俺はこの世界の人間とは全く違うんだ」


「それも、なんとなく分かっていた。魔法陣の正確性や、突然の魔力の出現。あれはわざ(・・)とそうなっているんだろう?」


「その通りだ。俺が自らやっている」


「だと思った。それですべて辻褄が合うからねえ」


「それで、俺が言いたいのは、魔物を操る力の事だ。あれほどの魔物を操る事は不可能だと、下で皆が話していた。だがそれはこの世界の常識であって、もし他の世界からそれを可能にするものが現れたとしたら?」


「…おもしろいねえ。そんな事を考えていたのかい?」


「俺のような者がいるなら、同じような奴がいてもおかしくないと思っただけだ。もちろん俺と同じ世界から来たとも限らず、また別な世界からの侵入者かもしれんがな」


「ふむ…。コハクの予測する情報は何かな?」


 するとそこにメルナが戻って来た。水とタライを持って来てニッコリ笑う。


「もってきたよ」


「すまないなメルナ」


 そして俺はそのタライをテーブルの上に置く。そして水がめからタライに水を注いだ。これはアイドナの指示のもとにやっている事で、俺にはよくわからない。そして俺がマージに言う。


「見えないだろうから想像してくれ。今タライに水を張った」


「ふむ」


 そして桶の表面が落ち着いたので、俺は一滴の水を水がめから垂らした。すると桶に水の波紋が出来る。それをマージに説明した。


「水の波紋が出来た」


「ふむ」


「これがこの世界だとしよう」


「なるほど」


 そしてもう一度、水の波紋を作り時間をずらしてもう一つの波紋を作る。お互いの波がぶつかり合い、波紋が重なり合う。


「二つの波が重なった時に、重なり合いながらも消えていくんだが、もし二つの世界がどこかで重なったらそれを打ち消し合うんじゃないだろうか?」


 マージは何かを考えているようで何も言わない。


 なにも言わないぞ。


《考えているのでしょう》


 アイドナはどう考える?


《マージの答えを待ちましょう》


 すると魔導書のマージがポツリという。


「歪を消す? 相殺する力が働く?」


「どういうことだ?」


「もし他の世界とこの世界が重なったとしたら、お互いが重なった所に大きな力が加わって、そこに何かの変化が起きる。だがそこで起きたあり得ない変化に対し、もう一つの世界がそれを相殺しようと…消そうと働くという事か?」


「わからん」


 だがアイドナが言う。


《やはりマージは天才という者なのでしょう。予測演算と似たような答えを導きだしています》


 でもよくわかっていないようだぞ。


《いえ。マージという天才の知識に、一滴の水を垂らして波紋を起こしたのです。これがいずれ大きな変化として恩恵をもたらすはずです。AIには程遠いですが、この世界の知恵を借りると致しましょう》


 俺にはよくわからなかったが、答えを導き出すためにアイドナはわざとこれをマージにしてみせたらしい。メルナは訳が分からないと言った表情で、ポカーンとしているが、実際の所は俺も全く同じ心境だ。


 するとマージが言う。


「という事は何らかの力が働いて、二つの世界が重なり、その歪を通って来た者がいるとする。その者を消す力として、あり得ないものが他から来たと言う事かも」


 歪を通って来た者とは俺の事を言っているのだろうが、メルナがいるので核心を避けて話しているようだった。そこで俺は気になったことを言う。


「どっちが先だろうか?」


「さあてね、そればっかりはあたしにもわかんないよ」


 答えは出なかったが、俺がこの世界にいる理由と、突然起きた恐ろしい現象が無関係だとは思えなくなってきた。それはマージも同じように思っているようで、アイドナの予測変換でも同じ答えが出ている。


 となれば、俺はこの厄災の波紋の中心? 


 認めたくはないが、その答えはそう遠く無いような気がしていた。

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