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第七十五話 王兵と現地検証

 敵を退けた俺達だが、しばらく北側の警戒を怠らないようにする。市民達は復旧の為の暮らしに入り、少しずつ他の地域から人も来るようになった。


 俺達が辺境伯邸にいるとき、騎士が飛び込んできて言う。


「王都の兵が間もなく到着します!」


 ヴェルティカが答えた。


「来たのね! 出迎えます!」


「は!」


 ヴェルティカとアラン、俺とメルナ、そして騎士達が慌てて装備を整えて南門に向かっていく。南門には市民達が集まっており、どうやら既に情報が出回っていたようだ。俺達が来たのを見て市民達が道を開けた。門付近で止まり、しばらくすると馬が走ってくるのが見えた。


「伝令だ」


 アランが言う。するとその馬が門の前で止まり、乗っている兵士がバッと飛び降りて駆けつけて来た。息も切らしておらず、さすがは王都の兵士と言ったところなのだろう。


「伝令です! 間もなく王兵が到着ます! 急ぎ辺境伯様にお目通りを!」


 それを聞いたヴェルティカが、ビルスタークとアランを連れてそこに行く。


「恐れ入ります。私はパルダーシュ家の娘、ヴェルティカ・ローズ・パルダーシュと申します」


「おお! あなたがフィリウス様の妹君でございますか!」


「兄を知っているのですか?」


「王兵と一緒にこちらへ向かっております!」


「兄が!」


「は!」


 ヴェルティカは驚いた顔をしつつも、兵の手前取りつくろうように表情を抑える。


「では、兄が来るまで待ちます」


「わかりました! その旨をお伝えします!」


 そして伝令が馬に乗って戻って行った。


 魔導書のマージがメルナの背中で言う。


「あの子が戻って来る…よかったねえ」


「はい!」


ビルスタークもアランも、騎士達もそれを聞いて喜んでいた。


「では出迎えの準備を! 市民の方も手伝ってくださる?」


「「「「はい!」」」」


 そうして王都の兵を出迎えるべく、市民達は準備を始めるのだった。それから一時間ほど待っていると、街道の向こうから兵隊の行列が向かって来るのが見えた。


「来たぞー」


 皆が門の中で待ちかまえ、ヴェルティカと俺達は広場で待つことにした。門をくぐって馬と騎兵がやってきて、ぞろぞろと広場に入って来る。するとそのうちの一頭の馬から、若い兵士が飛び降りて走って来た。


「ヴェル!」


「お兄様!」


 二人はがっしりと抱き合った。そしてその男がヴェルティカに言う。


「よくぞ! よくぞ生きていてくれた!」


 どうやらヴェルティカは泣いているようだった。そして二人が離れた時、ヴェルティカが言う。


「フィリウス兄さん…。お伝えしたいことがたくさんあります」


「父上と母上は?」


「その話もいたします」


 すると兵隊の中から屈強な男が現れて言う。


「フィリウスよ。紹介をしてくれるか!」


「は、はい。これは我が妹のヴェルティカです」


「これは聞きしに勝る美人じゃないか!」


「ありがとうございます」


「ビルスタークはどこだ?」


 そう言うと、ビルスタークが後ろから出てきた。


「オーバース様ですか?」


「お前…その目…」


「不覚を取りました」


「お前ほどの男が…」


「面目ありません」


「……」


 しばらく沈黙が流れたが、直ぐにオーバースが言う。


「して、敵軍が現れたと聞いた。なぜこのような所にいる?」


「それが、我々が敷いた策により、敵が退却しました」


「なんだと…一万はいると聞いたぞ」


「我々も確認出来ておりませんが、王兵と共に確認いたしたく思います」


「わかった」


 そしてオーバースが軍に言う。


「おい! これから北の草原に向かい、現地を確認する!」


「「「「「「「「は!」」」」」」」」


 どうやら農兵などは一人もいないらしく、全員がきびきびと動いている。そしてオーバースはビルスタークに聞いた。


「パルダーシュの騎士は?」


「全滅にございます」


「……」


「詳しい話は後ほど」


「わかった」


 そして王兵達は市民の間を抜けて、北門に向かって抜けていく。そしてヴェルティカがフィリウスの手をひいて路地裏に入った。そこに俺とメルナが連れていかれる。


「どうした? 確認にいかなきゃ」


 するとメルナの背中のマージが声をかける。


「フィルや」


「ん? 今ばあやの声が…」


「ここじゃよ」


 そしてメルナを見た。そこでヴェルティカが言う。


「ばあやはね…死んじゃったの。でも魂を魔導書に定着させたのよ」


「なんだと?」


 メルナが後ろを振り向くと、背に背負っている魔導書が現れる。


「こんな姿で済まないねえ。そしてあんたの父母を守れなんだ…申し訳ない」


「父上が…」


 そう言ってヴェルティカを見る。ヴェルティカは目を伏せて言った。


「ごめんなさい。お兄様…」


 フィリウスが少し黙って口を開いた。


「辛かったな。私が来たからあとは大丈夫だ」


「はい…」


「今はやるべき事をやろう」


「はい」


 そうして俺達は再び王兵の列に混ざる。そのまま北門から出て、草原に伸びる街道を行列になって向かうのだった。そのまま草原の街道を抜けて、敵がいたであろう場所にたどり着く。


 それを見てオーバースが言った。


「確かに兵が居た形跡があるな。この幅と広さから言えば、一万の兵が居ただろう」


「我々の見立てでもそうです」


 すると視察に出ていた騎士から声がかかる。


「将軍! こちらに争った形跡でしょうか? 大量の血の跡が残っております!」


 そこに行くと、地面がどす黒く汚れていて臭いがした。証人としてヴェルティカやビルスタークがいるが、なぜか俺も一緒に紛れていた。恐らくはこの地の騎士だと思われているのだろう。


「血の臭い…」


 しばらくそこを観察していると、もっと離れた場所からも声がかかった。


「こちらでも争いの跡!」


 皆がそこに駆けつけると、そこにも血で汚れた土が広がっている。


「部分的だな…」


 しばらく探していると、王兵がまた声をあげた。


「死体の一部を見つけました!」


 皆がそこに行くと、オーバースは騎士が指さしている草むらを見る。するとそこには、体の一部のようなものが転がっていた。それをオーバースがじっくり見て言う。


「剣…だな。これは細めの剣で切られたんだ」


 そう言って無造作にそれを持ち上げた。するとそれは口から上の頭部だった。じっくりそれを回すように見てオーバースが言う。


「これは…どうなってる?」


 目が見えないビルスタークが聞いた。


「なんです?」


「この斬り方だと、剣が口から入っているように見える。その後で瞬間的に頭が飛ばされたと言ったところか…。こんなおかしな斬り方があるのか?」


 ビルスタークもアランも、ヴェルティカもその犯人を知っていた。だが危険人物認定を避けるために、その事を誰も言わなかった。


 現地の検証はしばらく続けられ、オーバースが切り上げの指示を出した。王兵達は再びパルダーシュの都市に向かって行列を作る。


 オーバースは自分の馬に向かって歩きながら、首をひねってビルスタークに言った。


「敵は…内輪揉めでもしたのかな? もしくはこんな場所で処刑を?」


「どうなんでしょう。我々は都市にいて見張っていましたが、朝になったら消えていました」


「ふむ…。まあいい、とにかく戻ってゆっくり状況を聞く事にしよう」


「は!」


 そうしてオーバースは馬に乗り、隊の一番先頭まで走って行った。ビルスタークが俺にぽつりと言う。


「黙ってればいい」


「わかった」


 俺達の隊列に加わり、パルダーシュに向けて歩きだすのだった。

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