表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/304

第七十話 生き残りをかけた作戦

 突如、隣国から現れた兵団を見て、ビルスタークは、メルナが背負っている魔導書のマージに言う。


「ゴルドスが兵をあげました。領土に入り込んでいます…その数およそ一万」


「なんと…」


「賢者様。この状況を考えると偶然ではありませんよね」


「そのようじゃな」


 俺の中ではアイドナが解析を始めていた。


《隣国の策略にハマったらしいですね》


 そうか、この都市を魔獣に襲わせたのは…。


《隣国の仕業という事になるかと》


 なぜそんな事をする?


《前世の人間の歴史から考えると、恐らく領土問題が発端になっているかもしれません。これからの展開次第ではありますが、宣戦布告してくる事もありえるかと》


 宣戦布告?


《国がらみで戦争を仕掛けて来るという事です》


 俺はビルスタークに聞いた。


「見る限りでは、一万人程度はいると思うんだが、用意周到に準備をして来たと言う事か?」


「そう言う事だ。恐らくあの数は正規兵だけではあるまい」


「というと?」


「普段は農民や木こりなどをしている民に、簡易な鎧を着せて兵士にしているんだ。あの兵団のうち、正規の兵士は十分の一にも満たないだろう」


「それほど訓練されている者は居ないと言う事か?」


「とはいえ、一万は脅威だ。もちろんこの領でも兵を集める事は出来たが、正規兵はおらず招集をかける手立ても無くなった。おそらくアイツらは、この領地を無傷で手に入れるつもりだろう」


「だとどうなる?」


「ここは北の要だからな、ここを足掛かりに一気に国内に攻め込んで来る可能性は高い」


 という事は…、この領地だけに限らず、国内全域が危険地帯になるという事だ。


《そうなります。ですが、現状のこの都市にいる市民では足止めも出来ません》


 皆が絶望的なムードになっている。


 するとヴェルティカが言う。


「都市を放棄して、市民を逃がすしかないわ」


「…残念ですが、そうなりますか…」


 アランもそこにいた市民も、それを聞いて苦しそうな表情で下をむく。そしてアランが言った。


「それではお嬢様が…」


「仕方がないわ」


「しかし」


「責任を取る事になるでしょう」


 良く分からずに、俺はヴェルティカに尋ねる。


「責任とは?」


「国家を危険に晒したとして、恐らくは死罪」


「市民を逃がしたのにか?」


「それはそうだけど、他に住んでいる国の人を脅かす事になるわ」


 いずれにしろ死ぬしかないという事?


《責任を取らなければならないのでしたら、そうなのでしょう》


 全く合理性が無いな。


《前世と違って、各個体が共有されておりません。共有されていればその考えや判断を理解するでしょうが、恐らくは見せしめのために処刑されると言ったところでしょう》


 どうしようもないという事か?


《すみやかに離脱し、一人で逃亡する事が優先になると思います》


 なぜだろう? それを聞いただけで、体の奥底がうずく。


 俺自身も、それが一番生存確率が高い事くらい分かっている。だが考えの奥底で、それを選びたくない自分がいた。恐らくはそれ一択で、他に選択の余地などないはずなのにだ。何故俺が、一番確率の高い逃亡を選ばないのか自分でも分からないが、体が拒絶反応を示しているのだ。


 他の可能性を考察しろ。


《はい。まずは敵がこの地の状況を正確に知らない可能性です》


 という事は?


《ここに戦力が無い事を想定して、兵を差し向けている可能性が高いです》


 それはそうだ。ここは魔獣に襲われて壊滅しているからな。


《恐らくは敵が仕向けたのでそのはずです。ですがマージが言うように、王都から兵が差し向けられている可能性はあります》


 だが今はいない。


《そうです。実際はいません》


 …いるように見せかけるという事か?


《その通りです》


 相手に信じてもらえる確率は?


《十三パーセント》


 なるほど。可能性は八分の一か。


 そして俺はヴェルティカに言う。


「ヴェルティカ」


「なに?」


「王都からの援軍が到着したようには見せかけられないだろうか?」


「えっ?」


 ヴェルティカは驚いているが、マージがそれに答えた。


「面白いねえ。可能性はあるんじゃないだろうか」


「ばあや…」


 それを聞いてビルスタークが言う。


「やってみるしかないでしょう」


「わかったわ。どうすればいい?」


「まずは、櫓を降りましょう」


 櫓の下に降りると、そこに騎士達と風来燕もやってきていた。


「みんな! 市民を広場に集めてくれ! いずれにせよここを切り抜けねば、皆殺しにあう! みんなに話を聞いてもらうしかない! 風来燕はどうする?」


 ボルトが答えた。


「ギリギリまで手伝うさ。いざとなったらトンズラさせてもらうぜ」


「充分だ」


 皆が都市に走り、僅かな市民達を集めて来た。そこでビルスタークが状況を話す。


「急に集まってもらってすまない! すぐそこまでゴルドスの兵が来ている! 既になすすべなく、ここに入られてしまえば国家を脅かす事になるだろう! これから王都に早馬を出し敵襲を告げる! その間、ここに王都の兵が既にいるようにふるまって時間を稼ぐ! その協力をしてほしい!」


「いやあ…そんなことしてもどうせ死ぬんじゃないかね」

「そうだ。どうやったって生き延びられねえ!」

「だったら一目散に逃げよう!」


 それを聞いてビルスタークが言う。


「どこに? ここを明け渡したら、敵は一気に軍を送り込んで来るぞ。北の地は瞬く間に戦場になる。そうすれば生きる場所なんてなくなるぞ」


 その言葉で市民は沈黙した。一人の市民が聞き返した。


「どうするんだ」


 するとビルスタークは言った。


「王都の兵がいるように見せかける。その協力をしてくれ」


「どんなふうに?」


 ビルスタークが俺に言う。


「どうする? コハク?」


「男も女も子供も全員が鎧を着るんだ。そして案山子にも鎧を着せ、鎧を台に乗せて市壁の上に並べていく!」


 すると魔導書のマージが言った。


「それだけじゃ足りないねえ。案山子を動かすよ」


「どうやって?」


「そりゃ、あたしとメルナに任せな」


「わかった」


「じゃあ急いで取り掛かってくれ!」


 市民達が一斉に動き出す。その後一人の騎士が、馬で都市を飛び出して行くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ