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第六十九話 招かざる来訪者

 市民が帰った事で、次々と生存者が戻りつつあった。だがあの状況ではそれほど生き残った数は多くなく、その事を皆が集まって話始める。


 ヴェルティカが言った。


「もう辺境伯領として成り立つほどの、状態には戻らないわね」


 マージが言う。


「少ないだろうねえ…あの状況で逃げ出せた人がいること自体が奇跡でならない」


「でも、戻ってきてくれた」

 

 それにビルスタークが言った。


「どうなりますでしょうか? フォマルハウト子爵領のようにはなりますまいか?」


 だがそれにマージが答える。


「あそこは一家根絶やしにあったからね、だから万が一の為にヴェルを飛ばしたんだ。血が続けば、王宮でも何らかの対応はするさね」


「はい…」


「それに人がいれば、じきに王都から兵が送られてくるはずだよ」


「そうですね。それまで、生存者を出来るだけ戻すしかないですね」


「それはさておき、今はコハクの事を考えたいねえ」


「確かにそれは…」


 俺が夜通し森を掃除しまくって、大量に魔獣を狩った事を指している。ビルスタークに言わせてもマージに言わせても、それは異常事態らしく、俺はとんでもない事をしでかしてしまったようだ。


 どう言ったらいいんだ?


《とりあえず謝罪してみては?》


「すまなかった。とにかく食料が必要だと思ったから」


 するとビルスタークが言う。


「いや、謝る事じゃない。それどころか、都市の脅威を振り払ってくれたんだ。それは騎士団長として礼を言いたい」


「そうなのか?」


「問題はそこじゃない。森を一掃するなど、騎士団が総出でやる事だ。それを一人でやりぬいた事が異常だと言っている」


「マズいのか?」


「そんな事はないが、お前はギルドにも登録していない、下手に強すぎると目を付けられるかもしれないという事だ」


「目を付けられる?」


「そうだ。特に王宮にな」


「どんな問題がある?」


「その強さを見込んで、王宮騎士に召し上げられるかもしれないし、状況次第では危険分子ととられるかもしれん。どちらかというと実績のない今は、後者の可能性が高い」


「そうなのか?」


「人外の強さで、もしかしたら人間とみなされないかもしれないという事だ」


 それはまずい。せっかく生き延びようと努力したのに、いきなりノントリートメントの標的にされてしまう事になる。


 そこでアランが言う。


「一応、風来燕には口止めしてある。市民には冒険者達が一緒に狩ったという事にしているからな。だが、こんな状況だ。市民は英雄を求めている。この話が市民の耳に入れば、コハクは一気に英雄に祭り上げられるぞ」


「それは避けたい」


 俺がそう言うと、ビルスタークとアランが難しそうな顔をする。そしてヴェルティカがマージに言った。


「封印は…できないよね」


「ヴェルや。こんな状況なんだ、今は思う存分力を振るってほしい時期だよ。どこかで冒険者登録をして、ギルドに匿ってもらう事も必要さね」


 俺がマージに聞いた。


「冒険者になれば大丈夫なのか?」


「国はギルドには手を出さないよ。不可侵というやつでね、有事の際は兵を借りる事もあるけどね、ある程度は自由にさせて、魔獣の脅威から国を守ってもらっていると言う訳さ。その為にギルドにはギルドの裁量があってね、強い冒険者がいても国は手を出せないんだ」


「なら直ぐに登録を」


「残念ながら、この都市のギルドはもぬけの殻だよ。あの時に冒険者は全滅しちまったようでね、よそからギルド支部の復活に来るのを待つか、こちらから他の都市のギルドに行くしかないねえ。だけど今、コハクにここを離れられるのは厳しいのさ」


「なるほど」


 辺境伯邸に沈黙が流れる。皆は俺がどうしたいのかを聞きたいようだ。だが俺としては冒険者になって、早く安全な地位を手に入れたい。しかし今はここを抜け出ていく訳にもいかないようだ。


 そんな時、


 ゴーン! ゴーン! ゴーン!


 唐突に鐘が鳴り始め、皆が顔を見合わせる。


「まだそんな時間じゃないですよ」


「何かあったか?」


 アランとビルスタークが言うので、俺が立ち上がって言う。


「見て来る」


 外に出ると、門の岩の所に人だかりができていた。俺がそこに行ってに聞く。


「なんだ?」


「お嬢様は!」


 なんか分からないが焦っている。だがすぐにヴェルティカが来て市民に聞いた。


「どうしたの?」


「お嬢様! 北の砦に来てください! 見て欲しいものがあります!」


「わかった。ビル、アラン! ついてきて」


「は!」


 俺とメルナもその後ろに付いて行く。砦の見張り櫓の上に、人が数人いてこっちを見下ろして言う。


「お嬢様! 大変です!」


「今上がるわ!」


 ヴェルティカと俺とメルナが先に梯子を上り、櫓のてっぺんに来た。


「あれを!」


 市民から言われて俺達が砦から草原を見渡すと、はるか向こうの方に蠢く影があった。


 なんだ? 魔獣か?


 するとアイドナが言う。


《あれは人間です。魔獣の群れではありません》


 そして遅れて上がって来たアランが来てそっちを見る。


「団長…あれは」


「なんだ?」


「ゴルドス国です。ゴルドスが兵をあげてきました」


「なんだと…」


 草原のその先には、鎧を着た兵士達が大量に居た。旗が掲げられており、そこに何らかの紋様が記されている。どうやら隣国が軍隊を引き連れて、こちらを様子見しているようだった。アランの言葉を聞いて、そこにいる全員がしばし呆然と兵を眺めていたのだった。

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