第六十八話 狩り尽くした大量の素材
夜の森で魔獣を片っ端から狩っているうちに、小型のやつしか居なくなってしまった気がする。とりあえず倒した魔獣を、せっせと森の入り口に運び積み重ねていく。身体強化をしているせいか、ランドボアですら余裕で運べるようになっていた。
俺が森の入り口に来た時、遠くからカンテラが回されるのが見えた。俺が手を振ると、冒険者パーティーの風来燕がやって来る。
「来たか」
するとボルトが大声で言った。
「お、おいおい! ちょっとまて!」
俺がボルトに尋ねる。
「どうした?」
「なんだ! この山は!」
「どれが食えるか分からん。だから、とりあえず狩った奴を集めた」
風来燕たちが顔を合わせて言う。
「コハク一人で?」
「そうだ?」
するとフィラミウスが聞いて来る。
「コハクは魔法を使えたのかしら?」
「身体強化だけだ」
ガロロも言う。
「これをどうやって運んだ」
「自分で持って来た」
ベントゥラもあっけに取られて言った。
「いやいやいや」
何かおかしなことをしただろうか? 魔獣を狩って積み上げただけだ。
「いや、本当にどれが食えるのか分からないんだ。都市の人たちの食料が必要だと思ったからな」
風来燕は死骸を持ち上げたりして、魔獣を確認していた。
「おっ! おい!」
ベントゥラの声に皆が集まる。そして、俺が殺したデカいオーガを見て言う。
「オーガコマンダーだ…」
「本当だ」
そしてボルトが俺に聞いて来る。
「これをどこで?」
「森の奥に、おかしな集落があった」
「オーガの巣…」
「そうだ」
「それで?」
「壊滅させた」
「……」
四人が神妙な顔をする。そしてフィラミウスが聞いて来た。
「冒険者登録はしていないのよね?」
「していない」
するとガロロが言う。
「無名の奴でもこんな奴がいるんだな」
「まったくね」
どういうことだ?
《恐らくはこの世界の常識から外れているのでしょう》
やりすぎたという事か?
《無名でと言っていたので、他にも例はあるのかも》
「こういう事をする冒険者は珍しいと?」
ボルトが言った。
「明らかに俺達より階級は上だよ。それはビルスタークさんに感じていたんだがな、コハクにそれを感じなかった。だがこの結果を見せられちゃあな」
フィラミウスが言う。
「それほど、魔力量が多くなかったものだから分からなかったのよ」
なるほど。
《恐らく吸収した魔力の保存方法が、通常の人間とは違うのかもしれません》
「まあ、とにかくすげえよコハク! こんな芸当は上位の冒険者がやるこった」
「そうか。とにかく食えるものを運んで、ダメなものは焼き払いたいんだ」
「わかった! よし! みんなで手分けして分けようぜ。素材もあるしな、終わったらフィラミウスが焼いてくれ」
「もちろんよ」
そして俺達は四人で魔獣を分け始める。そこで俺が聞いた。
「オーガは食えないのか?」
「ああ、食えたもんじゃない。ランドボアかホーンラビットは食える」
「わかった」
その後も振り分けをして、持ち帰れない魔獣にフィラミウスが火を放つ。勢いよく燃え始め、辺りが明るく照らし出された。持っていける魔獣を見て、ボルトが呆れたように言う。
「で、これをどうするかだ」
「多すぎるな…」
その時だった。ゴーンゴーンゴーン! と朝を告げる鐘が鳴らされた。するとベントゥラが言う。
「人の手配と荷台を持ってくる。みんなは待っててくれ」
そう言って、シュッと足早に走って行った。どうやら足の身体強化をしているらしく、あっという間に見えなくなる。それを見てボルトが言った。
「じきに人がくるだろう。それにこれだけの魔獣の肉があれば、しばらくは困らんぞ」
俺はそれを聞いて安心した。せっかく戻って来た市民が食うに困れば、また新たな問題が出そうだったからだ。空に陽が昇り、あたりが明るくなってきたころ、ベントゥラが荷台をひいた市民達を連れて戻ってくるのだった。市民達が魔獣を見て喜んでいる。
「これはすごい!」
「しばらく助かりますな!」
「おおい! みんな素材を運ぶぞ!」
次々にやって来る市民達が、魔獣を荷台に積みこんでいく。そして狩りを終えた俺と、風来燕が都市に帰っていくのだった。
全く疲れが無い。
《おびただしい量の魔粒子を保有しています。今は全てその流れを止め必要最低限にとどめています》
もっと新しい魔獣を狩らないと、新しい力は使えないか?
《それはそうですが、魔粒子の含有量が多いので放出さえできれば魔法の形にはなるかもしれません》
だが、放出方法が分からないんだよな?
《元より人間に備わっている魔力とは種類が違うのかもしれません》
なるほど。
《ですが、こうして結果が出せるのであれば、このままでも良いのでは無いでしょうか?》
たしかに。だがまだ足りない。
《はい。あの日見たドラゴン、及びアークデーモンとやらを倒すには違う魔粒子が必要かと》
あの森にはオーガ以上はいないようだ。
《もう一度マージに聞いてみましょう》
わかった。
するとボルトが話しかけて来る。
「なんだ、随分静かだな」
「俺は元々こうだ」
「確かにな。なあ、その強さの秘訣を教えてくれよ」
「人に教えて出来るものか分からん」
「まあ…そうか。なら、良かったら俺に稽古をつけてくれ」
「人に教えた事など無いが、それならビルスタークとアランも含めてやろうじゃないか」
「よろしく頼む」
まさか俺が、人から教えてくれなどと言われるとは思っていなかった。もともとアイドナが騎士達の動きをインプットして、更に効率よく動けるように改良を加えただけだ。教えると言っても、どう言っていいか分からない。ならばアランとの時のように実際に剣を交わして、何かを勝手に感じてもらうしかないだろう。
そして俺達が門に到着すると、更に新しい市民達が集まっていたのだった。