第六十七話 夜の森のオーガ大虐殺
俺が無造作に夜の森に入り、しばらく歩いて行くとアイドナが言う。
《やはり夜はターゲットが多いようです》
俺の視界には、細かい魔獣が光の線で映り込んでいた。
灰狼か。
《そのようです。ですが魔粒子的には灰狼はかなり効率が悪いです》
ならスルーだ。
《では》
アイドナが風下を選び、灰狼に気づかれないコースを選んだ。あれは王都で散々狩りまくったが、ランドボアやオーガなどより魔粒子が少ない。何体切ってもオーガ一体に及ばないのだ。
《現在確認している魔獣、ゴブリン、灰狼、トロール、ランドボア、オーガですが、これまでの習性を見ても確実な事があります》
なんだ?
《巣をつくります》
確かに。だがランドボアやオーガもか?
《死体を見た限り繁殖機能がありますので、巣作りは確定かと》
まあ確かに魔獣は、都市で地下に巣を作っていたな。
《そうです。ゴブリンも灰狼もオスとメスが居ましたので、恐らくは他の魔獣にも性別はあるかと》
ならば巣があると?
《少なくともオーガはその身体的な形態からして、成長速度は四つ足よりも遅いかと。外敵から守るために、巣を作るのはまちがいありません》
それを探すと?
《はい》
わかった。
俺はアイドナから指示されるままに、更に森の奥へと入っていく。途中でランドボアや猿のような魔獣を見かけたが、それらも全てスルーして奥へと進んだ。しばらく彷徨い続けていると、俺の視界に不思議な光景が現れる。
盗賊の村か?
そこには木を適当に組んだような、三角形の木の山が数個あったのだ。人の背丈よりも大きく、その山の隙間から覗くと…。居た。
オーガの集団が座り込んでいる。寝っ転がっている者もいれば、何かを食っている者もいた。それに大柄な者や細い者、そして俺ぐらいの大きさの小さいのもいる。
《オーガの群れです。小さいのは恐らく子供》
どうするか?
《まず忍びよって眠っている者の首を斬り落としてください》
わかった。
俺は音を立てずに風下から忍び寄って、木で囲まれた隙間から見えるオーガの体を見る。
《ロングソードですので届きます。声を出されないよう身体強化した剣で斬りましょう》
俺は言われるままに、木が積み上げられている陰に潜む。ガイドマーカーに沿って大きく振りかぶり、寝ているオーガの首に真っすぐに剣を下ろした。
ドス。
それほど大きな音はさせずに、オーガの首は胴体から離れた。俺の腕から一気に魔粒子が流れ込んで来る。
《離脱》
俺はアイドナのガイドに従い、風下に回り込んで移動する。離れた所から様子見をするが、まだ一体の首が斬られた事に気付いていないようだ。
《木に登ってみましょう》
俺がそばの高い木に登って、オーガの集落を見ると相変わらず食ったり寝たりしている者ばかりだ。そしてアイドナが告げる。
《今斬ったのは恐らくメスです。オスとの筋力の差が大きく思いのほか、勢いがついた剣が音を立ててしまいました》
スッパリ切れたからな。
そしてアイドナは集落にいるオーガをチェックし始める。すると一体を赤く光らせた。
なんだ?
《恐らくはこの個体がリーダーでしょう。他の個体より一回り大きく、群れの中心にいます》
どうする?
《問題ありません。今、首を斬ったオーガの血の匂いに気が付くはずです》
アイドナの予測演算通りだった。俺が斬ったメスに気が付いて、オーガ達が騒ぎ始める。そしてそれぞれが、集落の周りに出て行って様子を窺い始めた。
《探しているようです》
見りゃわかる。
《ですが、間もなくチャンスが訪れると思います》
チャンス?
《静かに待ちましょう。恐らく血の匂いを辿りこちらに来ます》
わかった。
とにかくアイドナの言うとおりにするしかなかった。すると、草をかき分けてがさがさとオーガがやって来た。それを確認したアイドナが言う。
《予測修正の必要もないようです。予測通りに動いています》
俺達が静かに見ていると、どうやらオーガはメスのオーガの血痕を見つけたようだ。俺の剣から草に付いたもので、それを見つけてリーダーの奴にそれを告げている。
でかいな。
《五メートル近くはあるかと》
他の個体より二メートルもデカいぞ。
《シミュレーション完了。間もなく体を動かしますのでそのつもりで、必要に応じて各部を身体強化します。ガイドマーカーに沿って剣を振ってください》
了解だ。
なんと本当にアイドナが予想した通りだった。リーダーが血の跡を追わせて、普通のオーガに指示をしている。リーダーはその三体より遅れてこちらの方に歩いて来た。
森の中で仕留めた方法か?
《いえ。恐らくリーダーの脳天は硬い。ガイドを出しますで照準と角度を間違えぬようサポートします》
数体のオーガが下を通り過ぎ、リーダーがのしのしとそれについて来た。相当怒っているようで、目が赤く輝いている。
《怒りが目に出ていますね》
魔獣の特性かね?
《そのようです。では攻撃開始》
真下に来たオーガに向けて、俺は太い木の枝の下を蹴り飛ばし高速で落下していく。剣は真っすぐに下におろしているが、それは頭には向かっておらず首の付け根に吸い込まれて行った。剣は首筋から入り込み、取っ手の根元まで体の中に納まる。
《核の破壊を確認。肩を蹴って離脱》
そのまま肩に足をつけて剣をにぎり、思いっきりジャンプすると、俺の体はさっき居た木の場所よりも高く舞い上がる。そのままもっと上の枝に着地して下を見下ろすと、数歩歩いたリーダーのオーガがばたりと倒れ込んだ。
うお!
俺の体に信じられない量の魔粒子が入り込んだことが分かった。
ギャーギャーギャー!
がっ!ガガウウーがあー!
ギャースギャースギャース!
下では倒れたリーダーに気が付き、オーガ達が駆け寄って来る。傷は首筋にしかないがあまり血は出ていない、そのためオーガ達は、なぜリーダーが倒れているのか気づいてないようだ。
《凄い魔粒子の質と量です》
次はどうする?
《下の三体を片付けましょう。ガイドを出しますので、それに従ってくだされば終わります》
言われたままに俺は飛び降りた。同じように剣を下に向けて、かがみこんでいるオーガの後頭部から突き刺す。
突然現れた俺に驚いて、もう一体が慌てて手を突き入れてくるが、俺はそれを躱わして喉元のガイドに沿って剣を突き入れた。だがその時に恐ろしい事が起きる。なんとオーガの首が一瞬ではじけ飛んだのだ。そのまま体をコマのように回し込むと、隣りから襲い掛かろうとしていたオーガのこめかみから上が吹き飛んだ。
ドサ! ドサ!
二体同時ぐらいに倒れ込み、俺はその場から離れる。一気にまたオーガの魔粒子が流れ込んで来る。
どういうことだ、剣の威力が桁違いだ。
《リーダーオーガの魔粒子のおかげです。このまま先ほどの里に襲撃をかけましょう》
わかった。
木の積み上がった集落に戻ると、周辺では大小さまざまなオーガ達六匹ぐらいがウロウロしていた。どれも先ほどのオーガより小型だった。
《メスと子供です》
どうする?
《ガイドに従ってください》
アイドナの感情のない言葉のまま、俺はその集落に殴り込むのだった。それからは戦いとは言えず蹂躙となる。オーガの集落を全滅させた時には、かなりの魔粒子が流れ込んでいた。
「はあはあ」
《呼吸を整えます。里を離れてください》
言われるままにここを離れ、俺は森の闇に身を隠した。
体が全く違う気がするんだが。
《オーガの魔粒子で身体強化をしたのですが、身体強化を解いても筋肉がなかなか戻らないようです》
次はどうする。
《他の魔獣を探します》
それから俺は、アイドナに言われるままに森の大型魔獣を探し続けるのだった。