第六十四話 強い魔獣の討伐を進言する
夜明け前にアイドナが俺を目覚めさせ、俺が上半身を起こすとメルナもそれにつられて起きてしまう。そこで俺はメルナに言った。
「今日は、魔導書のマージを持って行っていいか聞いてみよう」
「うん」
俺達は暗い屋敷の中を歩き、ヴェルティカのドアをノックする。
「寝てるかな?」
「出てこないね」
仕方なく、一階に降りていくと台所に人の気配がした。どうやらヴェルティカが先に起きて一階にいたようだ。ヴェルティカの方から俺達に挨拶をしてくる。
「おはよう」
「それじゃあ今日も門を見張りに行く」
「わかったわ。水と食事は用意してあるから」
「すまない」
ヴェルティカがいそいそと準備をしてくれているので、俺が聞いてみる。
「マージを連れて行ってもいいかな? いろいろ聞きたいことがあるんだ」
「ばあやを?」
「ああ」
「ちょっとまって」
そうしてヴェルティカが部屋を出て行き、マージ魔導書を持って戻って来た。するとビルスタークとアランもやって来る。どうやらマージは彼らと話をしていたらしい。するとビルスタークが俺に言って来る。
「門番もそろそろ、騎士団に任せていいぞ」
「そうなのか?」
「この都市に残っていたポーションでだいぶ回復したからな、元々騎士団の仕事は騎士団がやるべきだろ?」
それを聞いてマージも言う。
「そうだねえ。次の動きをとる必要があるからねえ」
なるほど。それならばちょっと聞いてみるか。
「可能ならば、森のさらに奥の魔獣狩りを、俺一人で集中してやりたいんだが」
ビルスタークとアラン、マージとヴェルティカが、それを聞いて言葉を止めた。
「ダメだろうか?」
それにビルスタークが答える。
「奥を…一人でか?」
「そうだ」
マージが言う。
「どうだろうねえ…」
「ダメなら違う事をする」
「いや。森の奥には、ランドボア以上の魔獣も潜んでいる可能性があるんだ。万が一それに遭遇した時に、一人で討伐できるかどうか…」
そしてビルスタークが俺に言った。
「俺達がいると不安か?」
「それは違う。正直に言うと、俺は強い魔獣を狩って自分を鍛えたいんだ」
「そう言う事か…」
「ダメだろうか?」
するとマージが言う。
「そんな事なら、ビルとアランも連れて行った方が良い。ここはあたしとヴェルティカとメルナが留守番してるさ」
「いいのか?」
「なにか考えがあるんだろ?」
「そうだ」
するとメルナが言った。
「わたしも行く!」
それを聞いたマージが言った。
「メルナや。森の奥にはランドボア以上の魔獣が潜んでいるかもしれないんだ。メルナは現状唯一の魔導士だからねえ、もっと魔法を使えるようになってからの方がいいだろうねえ」
「この前は出来たよ!」
「スクロールの力でね。攻撃魔法を覚えるまでは、浅い所にしか行けないねえ」
「でも」
俺がメルナに言う。
「メルナは残って、鐘を鳴らしてくれ。それを聞いたら俺達は帰って来る」
「…わかった…」
メルナは渋々納得した。
よし。
《それでは、装備の変更を依頼してください。盾は不要で鎧も軽量なものにしてください。そして大型の両手剣と小型のナイフを数本、油の入った袋を一つ用意してください》
「すまんが、装備を変えたいんだ」
俺が言うと、アランが聞いてくる。
「どんなのだ?」
「軽量な鎧と大型の両手剣、小さなナイフを数本と油袋が欲しい」
「両手剣とナイフなら兵舎にあるだろう。だが油袋は道具屋に行かないと無いぞ」
「ならば寄っていく」
「わかった」
するとそれを聞いたビルスタークが言う。
「なんだコハク。鼻っから大型の魔獣と戦う準備か?」
「ランドボアは危険だった。だが大型の両手剣ならば対処できる」
「わかった。ならロングソードが良いかもしれんな」
そして俺達は兵舎に行って、ロングソードと小型のナイフを集める。あと練習用の軽量な鎧を着て、装備を取り付ける器具を体に巻いた。それを見ていたアランが言う。
「まるで冒険者だな。魔獣狩りに特化している」
それを聞いてビルスタークが言った。
「つくづく面白い。冒険者なんかやった事ないのにな」
「魔獣を狩るなら合理的だと思ったんだ」
「面白い」
そして俺達は空の背負子を背負い、道具屋に行って油袋と油を手に入れて都市を出る。この前はヴェルティカとメルナが居たから進みが遅かったが、ビルスタークもアランも歩みが早くて助かる。
ゴーンゴーン! と教会の鐘が鳴り、街道の途中で風来燕に出会う。俺達を見てボルトが声をかけて来た。
「随分早くにどこへ?」
それを聞いてビルスタークが言う。
「森の奥だ」
「えっ? 三人でですかい?」
「なあに、コハクがちょっと腕試しをしたいんだそうだ」
「コハクが…」
「お前達は屋敷に戻って休むと良い」
「まあ、気を付けてくれ! この状況じゃどんな魔獣がいるか分らんですから」
「ああ」
そして俺達は風来燕と別れ、街道を先に進んだ。草原が見えて空に太陽が浮かび上がってくる。草原の草が風になびきながら、陽の光にキラキラと輝いて波のようになっている。
アランが言った。
「じゃあ、団長も良いですね?」
「ああ、行こう。コハクも気合い入れろよ」
「もちろんだ」
そして俺達は足早に、草原を森の方に向かって進んでいくのだった。朝日が昇って森の入り口が明るく照らされている。
するとアランが俺に聞いて来る。
「コハクはどうしたいんだ?」
「ランドボア以上の魔獣を狩りたい」
「良し分かった! 団長! そう言う事です!」
「ふっ! 面白いな! ひさびさに血が滾る!」
「わたしもです!」
そこで俺が言った。
「俺が先行する。二人は後をついてきてくれ」
「感知できるか?」
「任せてくれ」
「わかった!」
俺を先頭にして、隊は森の奥へと進んでいくのだった。